茨城県に今年初めて霜が降りた12月初旬の早朝。上野からJR常磐線に乗って水戸線に乗り換える友部駅のホームは凍てつく寒さだった。そこから電車に揺られること10分ほどのところにある笠間市が今回の目的地だ。笠間焼の生産地として知られる人口8万人の茨城県中部に位置する小さな城下町は、日本三大稲荷に数えられる笠間稲荷神社の鳥居前町でもあり、年間350万人以上の参拝客が訪れるという。また、少子高齢化が進み、人口の減少に歯止めが利かないという問題を抱えながらも、街を上げて観光に力を入れており、もの作りのような体験型や、バーベキューといった参加型のイベントを随時開催。県外からも多くの人々が訪れている。この日は土曜日だったが、“秋の陶器市”と“笠間の菊祭り”が終わったばかりで参道には人影もまばら。逆に、ゆっくりと参道に並ぶ味わい深い茶屋や仲見世を堪能する事が出来た。更にそこから10分ほど…街の中心を流れる川沿いに、“笠間ショッピングセンター ポレポレシティ”がある。スワヒリ語で「ゆっくりのんびり暮らそう」という意味を持つ「ポレポレ」は、約600通の応募者の中から選ばれた名前だそうだ。その2階にあるのが、平成10年4月に同時オープンした映画館『笠間ポレポレホール』だ。 |
今ではチケット窓口には開場前から、年輩のご夫婦や親子だけではなく、お孫さんを連れ立って三世代の大家族で来場する姿がよく見られる。オープンした20年前は周辺に何も無い単独商圏だったものの、8年目くらいで近隣に大型のシネコンが設立。そこで上映作品とターゲットを絞った。「邦画専門でシニアの方とお子さんに喜んでもらえる映画館にしたんです。小さい映画館は小さいなりに役割を掴んでいなければ生きて行けない。だからうちはお爺ちゃんお婆ちゃんの映画館というのをウリにしたんです(笑)」 |
「ウチは地元の商業組合と共同で設立した第三セクターなんですよ。当時の県内はショッピングモールの建設ラッシュでね…その中でも笠間は一番大きかったんです」と語ってくれたのは笠間商業開発(株)の事務局長を務める篠原正好氏。それまで商店街といえば、笠間稲荷神社の参道だけだったので、オープン当日には多くの市民が列を作ったという。「笠間という街は、年間を通じて色んな行事をやっている…言ってみれば、イベント好きという気質があるんです。だから新しく施設が出来るというと一目見ようと思うのでしょうね」 |
また時代の変化と共に、お客様が映画館に求めるものも変わって来た…と篠原氏は分析する。「オープン当時の商圏はかなり広くて栃木まで入っていました。だから若者向けの作品にも人が入ったのです。当時の映画館はショッピングモールに集客する大きな目玉でしたが、今は買い物に来店された地元の人に楽しんでもらうという…主従が逆転したんです」現在の上映作品は子供向けのアニメと、年輩層向けの喜劇やミステリーを中心に構成されており、若者向けの映画はやはり難しいと語る。毎年の売上げ上位を占めるのは全てアニメということからも、このショッピングセンターを利用している世代の家族構成が、そのままヒット作として反映されているのが分かる。「つまり地域密着型の映画館です。その次にあたるのが年輩のお客様ですが、例えば俳優でいうと吉永小百合さんが出ている映画は、男性も女性も間違いなく入るんです。あとは、男性の方がメインとなりますが、時代劇でも“殿!利息でござる”とか“高速参勤交代”といったお笑いの要素が入った作品はウケますね。うちは松竹の作品が客層に合っていると思うので、ロードショウ作品が出来れば良いのですが…」 大きな窓から日中は自然光が降り注ぐ比較的広めのロビー。入場開始の案内があるまでは、ゆったりとくつろいだり、ポップコーンを購入したり、それぞれが待ち時間を過ごしている。赤と青に色分けされた場内はスタジアム形式で、小さなお子さんも観易いと定評がある。一昨年は、公開から半年も経った三番封切りだったにも関わらず“君の名は。”一色に染まった当たり年となった。「久しぶりのヒットらしいヒットでしたね。この作品のおかげで、お客様の年代も一気に広がりました。これは、ウチみたいな映画館にとって、認知されるキッカケになるので、ありがたいんです」逆に海外の映画祭で賞を獲るような作家性の強い映画は厳しいという。 |
どうしても2スクリーンしか無いため、お客様の動向が掴めない作品は慎重になってしまうという篠原氏は「これから街の映画館として、少ない座席数である事を逆手に取って、ウチでしか出来ない特長を打ち出さないとやっていけない」と思いを述べる。そこで、強みとなるのが、地元の人たちが集まるショッピングセンターの中にあることだ。例えば、お母さんが買い物をしている間、小さいお子さんを預けて映画を観せるには、ちょうど良い広さなのだ。「受付にいるスタッフが目の届く規模だからこそ、お子さんが映画を観ている間、安心して買い物をして、映画が終わった頃に引き取りに来られるんです」そうした利便性から、リピーターが多いのも特長のひとつだ。 「映画にだって鮮度がありますからね。その鮮度には限りがあります。例えば、“シンゴジラ”だって、公開前からテレビの特番で盛り上げて、いよいよ公開!という熱気は、その時しかないわけです」つまりDVDが出た時まで、果たしてそこまでの熱量で観れるか?ということだ。「やはり映画館の良さというのは、一番盛り上がっている旬の映画を自分の目で体感する…そこから得られる感動だと思うんです」確かに今は、公開からしばらく待てば、テレビだけではなくスマホでも映画が観れる時代だが、取材当日に初日を迎えた“かまくら物語”にワイワイ言いながらお菓子と飲み物を買い込んで入場する家族の姿に、今の若者たちは、もしかすると一番美味しい時期を見逃しているのではないだろうか?と思った。(2017年12月取材) |
【座席】 『スクリーンA』92席/『スクリーンB』68席 【音響】SRD 【住所】茨城県笠間市赤坂8笠間ショッピングセンター2F 【電話】0296-70-1753 本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street |