犯人に告ぐ
犯人よ、今夜は震えて眠れ―日本中を震撼させた連続児童殺害事件。行き詰まった警察はテレビを利用した捜査を決行!カメラの前に立った刑事に注がれる何億もの視線―犯人はこの中にいる!

2007年 カラー ビスタサイズ 117min ショウゲート=WOWWOW
製作 和崎信哉 原作 雫井脩介 監督 瀧本智行 脚本 福田靖 撮影 柴主高秀
照明 蒔苗友一郎  美術 若松孝一  編集 高橋伸之 音楽 池頼広 録音 三澤武徳
出演 豊川悦司、石橋凌、小澤征悦、笹野高史、片岡礼子、井川遥、松田美由紀、崔洋一、
石橋蓮司、根岸季衣、中村育二、平賀雅臣、池内万作、大鷹明良、有福正志、四方堂亘


 週刊文春2004ミステリーベストテン第一位、2005年大藪春彦賞受賞など数々の栄誉に輝く雫井脩介原作のベストセラー小説「犯人に告ぐ」。横山秀夫、福井晴敏、伊坂幸太郎ら今をときめく作家達も大絶賛、著名人をはじめ多くの読者が愛読、早くから映画化を熱望する声が寄せられ、各社からも映像化のオファーが殺到した。主役の刑事〈巻島〉を演じるのは、数々の話題作に出演する豊川悦司。本作に加え、『サウスバウンド』『椿三十郎』も立て続けに公開と、その人気と実力をみせつける。『愛の流刑地』『日本沈没』『フラガール』など幅広いジャンルの作品に出演し、確かな演技力で様々なキャラクターを演じてきた豊川悦司が、心に傷を負いながらも世間にその身を晒し、犯人を追いつめる刑事を熱演する。共演には重厚な存在感をみせる石橋凌、若手実力派小澤征悦、『武士の一分』で日本アカデミー賞助演男優賞受賞の名優笹野高史…といった個性派が顔をそろえる。スリリングな展開に引きこまれる脚本を手掛けたのは、『海猿』『HERO』など数々の大ヒット作を送り出した福田靖、硬質な緊迫した映像は『蟲師』をはじめ多くの作品でその力を発揮しているキャメラマン柴主高秀、そして、その力強い演出によって見事に傑作を作り上げたのは、『樹の海』で第25回藤本賞新人賞を受賞した瀧本智行監督が、息つく間もない本格エンタテインメント映画に仕上げている。


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 2000年の大晦日―少年誘拐事件の身代金受け渡しで、犯人を逃してしまい、人質を殺されてしまう…という最悪の結末の神奈川県警の責任者、巻島史彦(豊川悦司)は、当時の出来事を引きずりながら、異動させられた足柄署で刑事生活を送っていた。6年後のある日、巻島は県警本部長・曾根(石橋凌)から呼び出される。そこで、難航している川崎連続児童殺害事件の捜査責任者として巻島はテレビに出演を命じられる。番組に出演した巻島は、突然、カメラの向こうにいる犯人に直接対話したいと発言。翌日、テレビ局には多くの視聴者からの反響と、捜査本部には犯人を名乗る大量の手紙が届く。その中の一通に、未公表の情報が書かれた、犯人からと思われる手紙が発見された。しかも手紙の一部には犯人のものとおぼしき掌痕が残されていたのだ。巻島は番組で更に犯人への呼びかけを行う。しかし、ある日を境に犯人からの連絡が途絶え、捜査は停滞してしまう。犯人をむやみに挑発する言動に次第に高まる巻島への不信感だったが…。そんな時、犯人からの新たな手紙が高速道路の脇に落ちていたのが発見される。その付近に必ず犯人は潜んでいる…そう確信した巻島は再びテレビカメラの前に立つ。日本中の視線を一身に浴びながら、巻島はテレビを見ている犯人に向かって真っ直ぐに見据え、言い放った。「犯人に告ぐ。お前はもう逃げられない。今夜は震えて眠れ」。


 今まで数多くの刑事ドラマを観て来たが、本作のようなアクションに頼らず、次から次へとスリリングな展開が畳み掛けて来るエンターテインメント性に溢れた作品は数少ない。テレビというメディアを利用して犯人に語りかける作品と言えば、子供を誘拐された父親が犯人に向かって、子供を殺したらこの身代金を懸賞金に変える…と挑発するメル・ギブソン主演の『身代金』(オリジナルはグレン・フォード主演)を思い出す。日本映画では、身代金の受け渡しを全テレビ局のカメラが追いかけるといった渡哲也主演の『誘拐』なんていうのも記憶に新しい。さて、本作…テレビカメラの向こうにいる犯人は誘拐犯ではなく児童連続殺人魔という卑劣きわまりない悪魔であり、半年間沈黙を守る犯人を表舞台に誘い出すために、挑発的な発言を行い大きな賭けに出る。とにかく、テレビカメラを見据えて犯人に語りかける豊川悦司の何とカッコいい事か!はじけた演技が多い最近の彼だが刑事役は意外にも今回が初めて…そうだったっけ?と首を傾げる程、ワイルドな出立ちの刑事姿が様になっている。いきなり冒頭から児童誘拐事件の身代金受け渡しシーンから始まり、観客を一気に作品の中に引きずり込む構成の上手さ。そこで状況の説明や主要キャストの位置づけまで一度に理解させてしまうという巧みな演出。『樹の海』でたぐいまれなる才能を知らしめた瀧本智行監督の手腕が本作でも発揮されている。始まってから10分早々でクライマックスのような展開で観客の関心を釘付けにしたかと思えば、実はこれは長いイントロであり、プロローグだったという意外性。この最初に起きた事件が、ずっと豊川悦司演じる刑事のトラウマとなっており本題となる事件解決に向けて彼が大胆な行動に出る伏線となっているのだ。
 内容が児童連続殺害事件だけに、どうしても最近起きている数多の事件とダブらせながら観てしまい、単純に娯楽作品として割り切って観る事が出来ないのも事実。しかし、こうしたテレビというメディアを利用した捜査というのはこれから多くなってくのではないだろうか?思えば、“和歌山カレー殺人事件”の時、警察の出した推測に疑問を感じて投書して来た一人の少女の手紙が事件解決への糸口となった。メディアによって報道された内容がきっかけとなったわけだ。最近では、逮捕より先にテレビカメラがインタビューしていたりと、テレビの影響によって犯人を捜す目が多くなったのも事実だ。ところが、残念な事にテレビって飽き易く裏切り易いという厄介な一面も持っている。視聴率に左右されるため、突然昨日の味方が今日になって牙を剥く。本作でも主人公の刑事にヤラセ疑惑が他所の番組で持ち上げたとたん番組を打ち切りにするというシーンがある。ここには事件解決に協力しようという精神は一切無く、所詮はテレビなんてそんなものだと皮肉っているのが面白い。ねつ造疑惑までかけられ八方ふさがりとなったところで、最後に見事大逆転ホームランをぶちかましてしまう刑事の姿に爽快感を感じたのは私だけではないだろう。主人公の刑事を補佐する叩き上げの年輩刑事に、名バイプレイヤーの笹野高史を起用したのも成功の大きな要因。事件解決への有力な手掛かりを見つけ出し、影に日向にサポートする老齢の刑事(デカ)に扮している。彼が出て来ると、観ているこちら側も安心出来るのだ。

ありきたりのコメントしか言わない番組に業を煮やした豊川悦司演じる刑事が犯人に向かって言うセリフ―「これはお前のための番組だ。主役がだまっていてどうする」胸がスカッとするシーンだ。




Produced by funano mameo , Illusted by yamaguchi ai
copylight:(c)2006nihoneiga-gekijou