笑え
阪神淡路大震災をモチーフにした完全即興映画。

2008年 カラー DV 44min ガノンフィルムズ
監督・企画・構成・撮影・編集 太田真博 企画協力 志田健治 録音 味澤幸一郎
助監督 加藤亜衣  エンディングテーマ 高石ともや
出演 滝藤賢一、社城貴司、白石直也、金子和、竹井亮介、原田健司、小坂一郎

2009年9月12日(土)より18日(金)まで シネヌーヴォXにて上映


 2008年夏、神戸。「舞台・阪神淡路大震災」神戸ツアー千秋楽前夜。被災地で被災者を演じる舞台役者たちが雑魚寝する宿で、実際に被災経験のある座長・サチオに、被災経験のない役者たちが食ってかかる。サチオが「経験した事がない奴らに、この舞台で被災者の心境を表現するのは無理だ…」と言った事に端を発した険悪な雰囲気。遂には、明日の千秋楽は中止しようと言い出す役者まで出る始末に陥ってしまった。果たして彼らが笑い合える瞬間は来るのだろうか。


 始まって間もなく数人の男たちが大広間にドヤドヤ入って来る。しばらくその様子を傍観していると、どうやら彼等は役者たちで、明日、千秋楽を迎えるらしい事が、彼等の会話の中から理解できる。開始から10分も経たない内に、登場人物たちの自然な会話から全てを説明してしまうのが、お見事!本作は45分の中編であるが、全てこの宿泊施設(多分、どこかの集会所みたいな所を借りているのだと思うが…)で展開される。太田真博監督は本作を完全即興で撮影を行い、出演者たちの“素”の状態を引き出す事に成功している。本作には登場しないが彼等は“舞台 阪神淡路大震災”という公演を行っている役者たちで、どうやら関西人である座長と他府県から来た役者たちとの間に亀裂が生じているのが次第に分かってくる。元々、舞台俳優だった太田監督が実際に出演した同名作品の時に感じた温度差を映像化しただけに、震災を体験した者としていない者の分かり合えない焦燥感がよく表れていたと思う。「あの震災を体験した人間でなければ、やっぱり無理だった」と唯一の体験者である座長は何度も繰り返す。自分の身近にもいたが、被害者である事にいつしか優越感を抱く典型的なタイプだ。当然、他の役者たちは、自分たちの演技を否定された事で一瞬ヘコみながらも「どこがどのように悪く、どうすれば良いのか」を問いただす。明日が千秋楽…という気持ちの高ぶりも手伝って不穏な空気が漂い始める過程が実に見事だ。結末に関しては賛否両論あったらしいが、所詮人間っていうもののこだわりなんて、その時の気分次第…っていうのも頷けるし、私はこの結末が結構好きだ。
 7人の登場人物を演じた俳優たちは、皆素晴らしい演技を披露していたが…即興なだけに、彼等の表情や仕草を的確に捉えていた太田監督のカメラも見事だ。室内という限られた空間をセリフを言う俳優に合わせてカメラは縦横無尽に動き回る。だから、最初から最後まで同じアングルの画はないのである。こうした全員が主役である群像劇で重要なのは登場人物たち各々に偏りがあってはならない(意外と複数いるのに2〜3人しか印象に残らない作品って多い)のだが、本作はその難題を完璧なまでにクリアしているのに驚かされた。その中でも白石直也演じる若手俳優役の実直であるが故の暑苦しいウザさがピカイチで、そんな一触即発寸前の若手をからかう滝藤賢一の危なっかしさ(微妙に外した間の取り方が絶妙だ)にヒヤヒヤさせられる。太田監督が映画作りの信条にしている“役者からイイ演技を引き出す”は、本作においては間違いなく成功している。

ちょっとした感覚のズレが次第に大きくなっていく過程が、即興という手法を用いる事によって見事に表現されている。太田監督の演出手法の勝利だ。

【監督作品】

平成19年(2007)
ドリブラー

平成20年(2008)
まわる(短編)
笑え
狐に小豆飯(短編)

平成21年(2009)
マリッジ・グリーン(短編)
ドリブラー【2009年版】



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