小さな印刷所を経営する緒形拳演じる男が、愛人との間に設けた3人の子供を押し付けられ、その子供たちを始末するために、東京タワーに置き去りにしたり、崖の上から殺そうとする…あまりにも残虐な内容と、それでも親をかばおうとする子供の一途な姿に多くの観客の涙を誘った野村芳太郎監督の大ヒット作『鬼畜』。その舞台となった印刷所のある場所が、古くからの町並みを今に残す小江戸―川越である。冒頭で3人の子供たちの手を引いて、蔵造りの町並みが続く県道を歩く小川真由美の姿が俯瞰で捉えられる。印刷所のオープンセットは松江町にあった映画館『シアターホームラン』の裏手だったが、映画の編集では「日本の残したい音風景百選」に選ばれた“時の鐘”の近くという設定になっている。

 川越は、西武線、東武東上線そしてJR線が交差する都心に程近いベッドタウンで、バブルの時期に川越駅を中心とした土地は軒並み高騰を続け、駅前は新しい建物がどんどん建てられていったものの、駅から15分から30分と離れた、この界隈は幸いにも再開発という名の元の地上げの影響は受けず、昔ながらの景観を留めている。今でこそ、休日ともなると多くの観光客で賑わうが、『鬼畜』の公開された当時は、こうした町並みは珍しいものではなく映画の中でも取り立てて町の情緒的なものは一切排除されていた。平成に入ってから昭和ブームが巻き起こり、昔の町並みを懐かしむ観光客が増え始めたのはむしろ最近になってからだ。


 江戸時代、北の守りとして重要な役目を担っていた川越藩。川越城を中心とした城下町は、江戸に入ってくる物資の供給地として多いに賑わい、“小江戸”と呼ばれる程、江戸の文化を多く取り入れて来た。耐火建築の随を極めた“土蔵造り”の町並みは、類焼を防ぐために、江戸の町家形式が発達したものだ。町の中心部に位置する“時の鐘”は約400年前から城下町に時を知らせて来た川越のシンボルで、現在も1日に4回、時を知らせる現役である。また、近隣には多くの菓子を製造・販売をしている“菓子屋横丁”があり、昭和初期には70軒近くの菓子屋が存在。今でも20数件の店が駄菓子を販売している。また、川越には“喜多院”を始めとする大小様々な神社仏閣が、数多く点在しており、境内ではダルマ市やノミの市等が開かれているので、予め下調べしてからお出かけすると良いだろう。

 西武新宿線・西武新宿駅から急行で1時間、本川越駅から10分。東武東上線・池袋駅から急行で30分、川越駅からブラブラ歩くこと20分。駅前からは小江戸巡回バスも出ているが、天気の良い日はゆっくりと歩いて廻る事をおススメする。

川越市川越駅観光案内所
埼玉県川越市脇田町24-9
電話番号:049-222-5556
(社)小江戸川越観光協会ホームページ

 



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