この街には不似合いな、時代おくれのこの酒場に、今度もやってくるのはちょっと疲れた男たち。映画『居酒屋兆治』で加藤登紀子が歌う主題歌がぴったりの造船の街―函館。

 市内中心部―函館駅前から市電に揺られて10分ほど…終着駅“函館どつく前”で降りる。「どつく」と書いて「どっく」と読ませるこの駅には、造船メーカー“函館どつく株式会社”の大きな造船所がある。古くから造船の街として栄えた、この駅周辺には船に関連した「船見町」や「船見坂」といった名前の場所が多い。駅から港の方向へ歩くこと5分足らずで見えてくる大型クレーンは、まさに造船の街の象徴であった。

 旧函館ドック跡地にあった2基の大型クレーンは、1975年に当時最大の30万tタンカー建造用クレーンとして建造されたが直後の造船不況により4年後には売却された。その後函館港のシンボルとして親しまれてきたが、老朽化が激しくなっており1993年の北海道南西沖地震で破損が見られその調査の際に倒壊の危険性と判断、2006年1月に解体方針が決定された。保存運動も起こったものの、2009年6月18日より撤去解体され鉄くずとして売却されてしまった。今ではもう無くなってしまった函館港のシンボルは『居酒屋兆治』の中で見る事が出来る。解体には国内最大のクレーン船、4100t吊起重機船「海翔」が使用されたという。




 赤レンガの倉庫が建ち並ぶ“函館どつく”界隈に『居酒屋兆治』に出てくるモツ焼きの店「兆治」がある設定になっていた。高倉健演じる主人公―兆治は、かつて造船所で働いており、総務部で人員整理の担当になった事から会社勤めが嫌になり居酒屋を始めたという設定。山口瞳の書いた原作では舞台は都内であったが、映画化に際して港町に変更した事が作品に深みを増したと思われる。特に、健さんが伊丹十三演じるタクシー会社の社長を追いかけて殴るシーンは港がよく似合っていた。海沿いに建つ“函館市臨海研究所”(右写真下)は、かつて西警察署として使われていた建物で、劇中でも兆治が警察に捕まるシーンで使用されている。

 函館という街は小じんまりとまとまっているおかげで、どこへ行くにもアクセスが良く、市電に乗れば大体の観光名所にたどり着く事が出来るのが良い。山側は港を一望出来る坂がいくつも存在しており、その坂の途中に歴史ある建物を見る事が出来るのだ。また、海沿いに行けばかつて倉庫として使用されていたレンガ作りの建物が今ではオシャレなカフェに改装され、デートスポットとしても人気のエリアとなっている。それでも横の路地を入ると、今でも昭和の薫りが漂う小料理屋が軒を連ねている等幅広い世代が満喫できる街なのだ。

 



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