JR尾道駅を降りて真っ直ぐ進み、尾道水道を右手に見ながら尾道市役所方面へ向かって歩く。夏場は潮風が心地よく、向島を行き交う連絡線のポンポン…という音と海鳥の声をBGMにゆっくりと歩く。そう、尾道を歩く時は、ゆっくりと…が基本。魚が豊富だからだろうか、丸々とした毛並みの良い猫と何匹もすれ違う、尾道は猫の町でもあるのだ。本来ならば時間を気にせず歩きたいところだが、下手すると制限無く歩き続け、帰りの電車に間に合わなくなる危険が伴うので、散策する計画はしっかりと立ててから行動することをおススメする。市役所からおのみち映画資料館を左手に見つつ、更に10分ほど歩き進めると小津安二郎監督『東京物語』で笠智衆と原節子が朝焼けの中、港を見る浄土寺に突き当たる。ここを折り返し地点として再び(今度は山陽本線沿いの国道2号線を)駅へと戻る。長江口付近には大小20近くもの神社仏閣が建ち並び、長久の歴史に触れてみるのも良いだろう。長江口の近くにあるロープウェイで千光寺山に上がると尾道から向島…遠くには尾道大橋まで一望できる。ここで『ふたり』の主人公を演じた石田ひかりが尾美としのり扮する年上の男性に仄かな恋心を抱く名シーンが撮影された。
もし、旧尾道三部作の息吹を感じたいのならば線路を越えて山沿いに立つ家々を縫うように走る路地を歩くのがおススメ。だんだんと道幅が狭くなり心細くなりかけた所で突然道が開けたり、密集した家と家の間から港と向島が見えたりするのがたまらない。ただし、気をつけたいのは観光客としてのマナーを守ること。実際に人が生活している家の軒先で大声を出したりゴミのポイ捨て等が一時期問題となり、実際に『時をかける少女』のロケで使われたタイル小道の近隣では住民と心無い観光客との間でトラブルにまでなったという。本当は、映画のロケ地探訪なんてして汚さずにそっと遠くから見守っている方が良いかも知れない。
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