大林宣彦監督の名を全国に知らしめた記念すべき代表作『転校生』。日本映画史に残る不朽の名作を大林監督自らが25年の時を経て、メガホンを取りセルフリメイクした『転校生 さよならあなた』は舞台を港町・尾道から一転して、山に囲まれた長野市で制作された。精神と体が入れ替わる主人公一美と一夫が登下校に使うのが国内最大級の木造文化財として国宝に指定されている長野市元善町にある無宗派の単立寺院『善光寺』の参道。参道の入り口にある創業300年という老舗の蕎麦屋”大丸”が一美の実家という設定になっている。一美の祖父を演じた犬塚弘が、尾道から転校してきた一夫がうどん好きである事に対して「向こうには上手い蕎麦屋が無かったのか?」と突っ込みを入れると「いえ、むしろ美味しいうどん屋があったんです」と切り返すシーンが印象に残る。転校初日の一夫を一美が執拗に追いかけてくる小道は、善光寺の横にある路地。善光寺からアーケードのある権堂町に至るまでの界隈は、古くから門前町として栄え、昔と変わらない町並みと入り組んだ路地が今でも残っている。

 現在の長野市は、善光寺の門前町を起源として発展した都市で、古くから長野盆地を「善光寺平」とも称していた。善光寺門前の参道は北国街道のルートともされ、門前町は同時に宿場町としての役割も兼ねた都市として発展した。しかし、検地帳上の公的な村名は長野村であり、「善光寺町」とは同村内の町場を総称する地名であった。その一方で長野村内だけでなく、同村に隣接する松代藩領または幕府領である妻科村、権堂村のうちで町場化した区域も含めて「善光寺町」と呼ぶこともあった。




「遠くとも一度は詣れ善光寺」

 皇極天皇元年(642)の本堂創建以来、法燈連綿として日本最古の御本尊を祀る『善光寺』は、日本を代表する霊場であり、法燈連綿として約1400年の歴史を持つ。また、日本において仏教が諸宗派に分かれる以前からの寺院であることから、宗派の別なく宿願が可能な霊場と位置づけられている他、女人禁制とされていた旧来の仏教においては、稀な女人救済の寺院として知られている。創建以来、11回の火災に遭い現在の本堂は宝永4年(1707年)に再建されたものである。高さ約27メートル、間口約24メートル、奥行約53メートルの本道は、国宝に指定されている木造建築の中で3番目に大きいといわれている。本堂に安置される御本尊一光三尊阿弥陀如来は、白雉5年(654)以来の秘仏であり、鎌倉時代に御本尊の御身代わりとして造られ、拝されるようになり、本尊は普段、御宝庫に安置されているが、七年に一度の御開帳の時だけ、特別に姿を拝むことが叶い当日には大勢の参拝客が訪れている。

 大林監督は、あえてロケ地に長野の人たちでさえ知らないような路地裏ばかりを選んで撮影していた。映像を観ると観光地からほんの少し外れただけで、そこに生活している住民の暮らしの空気感がスクリーンを通して伝わってくる。「景色が綺麗だとか観光地では、映像は撮れても映画の物語は語り得ない」と大林監督は『転校生 さよなら、あなた』のロケ地マップで述べているが、これは尾道三部作の頃からずっと言い続けていた事だ。「50年後の長野の子供たちに見せたい映画を」という長野の人からの要望で始まったこの映画には裏路地こそがよく似合う。

 



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