この映画は
柳川市と、柳川のひとびとの
友情を得て生み出された

この物語りは
現実の柳川市を舞台としたものではないが—

柳川は
このような、ひとの心の模様についての—

空想の物語りのよく似合う—

美しく
たおやかな—
水の都である

 このテロップの後に続く「A MOVIE」の文字から大林宣彦監督の『廃市』は始まる。舞台となるのは福岡県にある水郷の街・柳川市だ。原作者の福永武彦は、一度もこの街を訪れた事がないまま、北原白秋の詩“おもいで”と、田中善徳が撮った柳川の写真を掲載した詩歌集「水の構図」をモチーフとして、この名作は書かれたという。街の中を運河が縦横に走り、人々は運河の隙間を縫うように生活をしている。真勝寺というお寺の境内にも小さな水路があったり、かつては日常的交通手段(今では観光用)として使われていた小舟を船頭さんは巧みに竿で操り、住人も慣れた足取りで舟に乗り込んでいた。




 映画『廃市』では常に水の音が日常の音として聞こえる。それはまるで、この世のものとは思えない幻想的な雰囲気を醸し出す。実際の運河の水は流れが緩やかで、一見流れているようには思えない。それは、まるで時が止まっているかのようだ。観光客が増える前に…と思い、朝6時前の薄暗い時間に街を散策したのが良かった。かすかな水の音と虫の音とサワサワと風に揺らぐ柳の擦れ合う音が心地よく耳に届く。劇中、小林聡美演じる安子はその音を街が死んでいる音というが、むしろその逆で、街が息をしている音のように私は思えた。大林監督は、この情景を35ミリではなく、16ミリフィルムで捉えた。その色彩がまだ陽の上りきらない早朝の色合いにも似ている。この時ばかりは、「早起きは三文の得」どころか百両の得に感じた。

 運河は、街全体を静脈のように張り巡らされていて、全てを見て回るには丸一日掛けてやっと。しかも小さな水路だとか、古い石橋だったりとか、注意深く歩いていないと見落としてしまうので、ゆっくりと時間をかけて巡りたい。時間がなければ、せめて藤平門橋から豊後橋の白秋道路がオススメ。ここで、白秋のまちぼうけの像を運河沿いに見つけたが、これも油断すると通り過ぎてしまう。それと、弥兵衛門橋から高門橋までの道は日本の道百選に選ばれているので、コチラも是非歩いて欲しい。ところどころに川下りの船着き場があるので、歩くのに疲れたら水路に切り替えるのもオツなものだ。間違ってもレンタサイクルはオススメしない。

柳川駅 西鉄天神大牟田線
柳川市観光案内所 電話:0944-73-2145

 



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