全然大丈夫
憩いまくりたい人々に贈る、恋のユル騒ぎムービー。勝たないでシアワセになる方法、教えます。
2007年 カラー ビスタサイズ 110min 東北新社、スタイルジャム、ポニーキャニオン、読売テレビ
プロデューサー 新井直子 監督、脚本 藤田容介 撮影 池内義浩 照明 舟橋正生 美術 林千奈
編集 堀善介 音楽 エコモマイ 録音 岩丸恒 スタイリスト 三橋友子 ヘアメイク 小出みさ
出演 荒川良々、木村佳乃、岡田義徳、田中直樹、蟹江敬三、きたろう、伊勢志摩、村杉蝉之介、
江口のりこ、小倉一郎、根岸季衣、大久保鷹、白石加代子、田辺愛美、鳥居みゆき
独特の風貌やセリフ回しはもちろん、そのたたずまいだけで観る者に強烈なインパクトを与える"超"個性派俳優、荒川良々。映画、TVドラマ、そして舞台で大活躍中の彼が、本作で初主演を飾る。企画の出発時点から"良々ありき"で構想された本作で劇場映画デビューを果たすのは、大人計画とのコラボレーションでも知られ、卓越したユーモア・センスを有する藤田容介監督。不思議な浮遊感を湛えた藤田ワールドにさらりと溶け込んだ荒川良々に、木村佳乃、岡田義徳の豪華キャストが絡むアンサンブルは絶妙の味わい。中でも凛々しくも清楚な魅力で幅広い支持を得ている木村が、天然系の地味ヒロインになりきって新境地を見せ、恋によって可憐に輝き出す女性の変化を表現しているのも見どころとなる。またココリコの田中直樹、蟹江敬三、白石加代子、きたろう、根岸季衣、小倉一郎といった演技巧者たちが脇を固めている。ニューエイジ・ハワイアンバンド〈エコモマイ〉によるウクレレ音楽が全編にフィーチャーされ、心を和ませてくれる。 ファンタジックで時にシュールなイメージを織り交ぜつつも、そこはかとなくリアルな"今"の映画として成り立っている独創的な世界観も本作の大きな魅力。怪奇マニアの主人公、照男の部屋にずらっと並ぶフィギュアや、あかりが描く鮮烈な色彩の肖像画、ホームレスのおばさんが廃品でこしらえたユニークな人形たち。そしてドラマの重要な舞台となる昔ながらの街の小さな古本屋さん。これらの小道具やセットの空間設計も見所のひとつだ。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
古本屋の長男で植木職人の照男(荒川良々)は、人を怖がらせることにばかり熱中している29歳。いつの日か世界一怖いオバケ屋敷を作るというデカい夢を持っている。そんなノーテンキな照男に幼なじみの久信(岡田義徳)は、ついお説教を垂れてしまう。久信もまた、もうじき30歳の自分に自信が持てずスランプ気味落ち込んでいる。久信の説教にプライドを傷つけられた照男は、オバケ屋敷作りに改めて意欲を燃やすが、その野望が実現しそうな根拠はどこにも見当たらなかった。ある日、久信は職場にボロボロに破れた服をまとって面接にやって来たあかり(木村佳乃)という女性に好意を抱く。久信は手先が不器用で、着任早々トラブルを連発する彼女を陰ながら見守っていく。そんなあかりの日課は、河原の掘っ立て小屋に住みながら、ゴミで人形を作るヌーさん(白石加代子)というホームレスの日常を観察し絵を描く事だった。ある日、人並み外れたドジっぷりでついに会社を辞めるはめになったあかりは、久信の紹介で照男の古本屋で働くことになった。鬱状態で寝込んでいた照男の父、英太郎(蟹江敬三)が、突然ふらりと旅に出てしまったからだ。しかし、あかりに一目惚れしてしまい、何をするにも落ち着かない照男は、彼女を妻にめとる妄想まで膨らませる。あかりをめぐって照男と久信が静かな火花を散らす微妙な三角関係は、骨董品の修復職人、湯原(田中直樹)が現れたことで、思わぬ方向に転がり出す…。
改めて自分の生活を見渡した時、周囲から奇異に感じる部分がひとつはあるはず。それって自分独自のこだわりの世界で、正に本作で荒川良々が演じる主人公も世界一のお化け屋敷を作るという周囲からは馬鹿にされかねない野望を持っている(個人的には、このお化け屋敷…かなり興味があるのだが)。人が驚くのを楽しいと感じる主人公は、あの手この手で驚かせてみせる。エレベーターの中からゾンビの格好をした仲間と飛び出してエレベーター待ちをしていたOLを驚かせたのは笑った。だからといって、具体的に夢の実現に向けて何か行動を起こす事はなく、趣味の世界で自分の才能が一番と思っている。事実、岡田義徳演じる友人から「もうすぐ三十なのに、こんな事やっている場合じゃないだろう」と諭されて、夢の実現に向けて初めて企画書を書く…それも薄っぺらい。だからと言って苦言を呈した友人もまた定職についていながら煮え切らない悶々とした日々を送っているのだ。そんな二人が何とかせにゃ!…としたところで人生も己の限界も甘くはない。荒川良々は企画書を破り捨てられ岡田義徳は結局、毎日職場のおばちゃん相手にイイ人を続けている。そんな時に変化をもたらすのは決まって異性の出現だ。案の定、気になる女性を意識して自分勝手に盛り上がっては、仕事にもささやかながらヤル気をみせたりする。
二人が浮き足立つその問題の女性を演じる木村佳乃だが…とにかく上手い!全編ほとんどセリフがなく、口に出した言葉も消え入りそうな声でボソボソとつぶやくだけなのだが、その儚さが最高なのだ。何をするのも不器用で、就職の面接当日に鼻血を出してボロボロの姿で現われたり(どうしてそうなったか?のエピソードも最高に可愛く笑える)エレベーターのボタンを押そうと全力で突進した挙げ句に骨折してしまうなど強烈なインパクトのある女性を熱演している。そんな彼女がいつも影から絵を描いていたホームレスの老女(さすが!白石佳代子セリフの無い役を最高の存在感でこなしていた)とのエピソードが心を打つ。何をやっても不器用な彼女が、実は素晴らしい絵の才能を持っていて二人の男達よりも自分の道をしっかりと見つけてしまう…というのも気持ちが良い。どこか非日常的な雰囲気を醸し出しながら、「あるある…」と同調してしまう場面が次々と繰り出される。それが他人事だと笑えるのだが、よくよく考えると自分に当てはまりドキッとさせられる。さすが大人計画で劇中映像を手掛けてきた藤田容介監督だけに、“笑いの間の取り方”のセンスは抜群!笑いとペーソスを巧みに入り混ぜながら物語を緩やかに進行させてゆく高度なテクニックは他に類を見ない。藤田監督の描写は常に自然体で心地良い速度なのだ。田中直樹演じる壷を修復する職人とささやかな愛を育む木村佳乃の姿は心が和み微笑ましい。彼女の誕生日に好物の竹輪を手作りしてガスコンロで焼く場面などは、高級バッグさえあてがえば満足しているブランド志向のバカ共には解らない世界だろう。結局、日常を変える事が出来なかった男二人だが、それでも満足して生きているラストショットを観ていると無理して自分を変える必要なんて実は無いんじゃないかと思ってしまう。
「せっかく今まで企画書なんて下品なもの書かずに美しく生きて来られたのに…」荒川良々が世界一のお化け屋敷を作るため一念発起した時に言うこのセリフ…作者の叫びにも聞こえる…良く分かるなぁ〜。