寄生獣
人間が食物連鎖の頂点に立つ時代は、突然、終わった。
2014年 カラー シネマスコープ 109min 東宝配給
エグゼクティブ・プロデューサー 奥田誠治、阿部秀司、山内章弘 監督、脚本、VFX 山崎貴
脚本 古沢良太 原作 岩明均 撮影 阿藤正一 美術 林田裕至、佐久嶋依里 音楽 佐藤直紀
編集 穂垣順之助 照明 穂垣順之助 装飾 茂木豊 録音 白取貢
出演 染谷将太、深津絵里、阿部サダヲ、橋本愛、東出昌大、大森南朋、北村一輝、余貴美子
國村隼、浅野忠信
2014年11月29日全国東宝系ロードショー公開中
(C)2014映画「寄生獣」製作委員会
1990年より、「月刊アフタヌーン」(講談社)に連載され、累計1100万部を突破している大人気コミック。「もしも突然現れた寄生生物が人間達を喰い始めたら…」という衝撃的な物語設定。右手に寄生生物・ミギーを宿した高校生・泉新一の戦いを通して、「人間とはどういう生き物か」「その中で自分はどのように生きるのか」といった根源的テーマを描ききった珠玉の名作マンガ。1995年の連載終了から19年を経て、今もなお熱い支持を集めている。その人気は日本だけにとどまらず、海外でもその名を轟かせており、ハリウッドのプロダクションが原作件を獲得。故に日本での映画化が出来ず、”手の出せない原作”として伝説化。遂にハリウッドの契約が切れ、このたび日本での映画化が決定!2013年度公開実写映画興行収入第1位&歴代日本映画興行収入第6位を記録した超ヒット作『永遠の0』の山崎貴監督のもとに、染谷将太、深津絵里、橋本愛ほか名だたる演技派俳優が集結。日本最高峰のVFXを駆使した超絶エンターテイメント=映画版『寄生獣』が誕生。また、2部作での興行となる本作は、1作目となる『寄生獣』が2014年11月、2作目となる『寄生獣 完結編』が2015年にそれぞれ公開となるが、『寄生獣』公開にあわせて、夏に原作の新装版が刊行され、10月には連続アニメの放送開始が決定している。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
ある夜、海辺にパラサイトという小さな寄生生物が流れ着く。その寄生生物は人間の脳を乗取って肉体を操り、他の人間を捕食し始める。平凡な高校生活を送る泉新一(染谷将太)にも1匹が寄生しようとしたが、新一を襲った寄生生物は脳を奪うことに失敗し、不本意ながら右腕に寄生することとなった。新一は周囲の人間に真実を打ち明けることも出来ずに悩んでいたが、やがて新一とパラサイト・ミギー(声・阿部サダヲ)は友情に近いものを感じるようになっていく。しかし、新一とミギーの前には他のパラサイトが現れ始め、次々と攻撃をしかけてくる。そして新一の幼馴染の同級生・里美(橋本愛)にも危機が訪れる。事態は深刻度を増し、パラサイトが人を殺し、また人がパラサイトを殺す事態に発展。その中で、高校教師として目の前に現れたパラサイトの田宮良子(深津絵里)を筆頭に、パラサイトたちにもそれぞれの価値観が生まれ始める。「われわれはなぜ生まれてきたのか?」地球を壊し続ける人間たちを淘汰するために生まれてきたというパラサイトたち。そのパラサイトを殺し、生き延びようとする人間たち。「果たして生き残るべきはどちらなのか?」それでも、地球を、そして愛する人を守らなければいけない。ゆらぐ価値観の中で、新一とミギーはパラサイトとの戦いに身を投じていく。
永井豪のオリジナル“デビルマン”で「人間にだけ天敵がいない。これはおかしいと思わないか?」と、デーモンがデビルマンに不自然さを語る場面があったのを思い出した。社会的な弱肉強食ではない本当に食い殺される危険性と隣り合わせが無い世界に生きる人間たち。やがて人口が過剰に増えてきた人間たちは互いに戦争で殺し合うか、自然環境を破壊し始めた。御時世だろうか…きな臭いニュースが世界各国から送られてくる最近、こうした人間を大量に殺戮する(そこに理由があろうがなかろうが)作品が多くなってきた。本作で繰り返される「人間の数が半分になったら…」という言葉は、いよいよ迷走し始めた人類へ向けての警鐘か?はたまた怒りか?原作者・岩明均のフレーズは鋭く胸を突き刺す。
正体不明の寄生生物に乗っ取られ脳を支配された人間が怪物の如く頭が真っ二つに割れて、他の人間を食らう。まるで、『ボディスナッチャー』と『遊星からの物体X』を足したような内容だが、ヤツらの目的は仲間を増やすとか人間を支配するのではなく、ただひたすら食用である人間の中で生きてバレないように、食べてもイイ社会的に影響の無い人間をコッソリ食べてきた。今まで行方不明となっている人間の大半は彼らが食ったという設定で、それがホームレスだったりキャバクラ勤めの女性…という判断基準が笑える。
染谷将太演じる主人公・泉新一(『神様の言うとおり』と続く彼はいつまで高校生を演じられるのだろう)の脳に寄生するはずが失敗して右手に寄生してしまったミギーが宿主である新一と共に二人三脚で寄生獣たちと戦う。と、ここまでは正にデビルマンと同じような境遇だが、異なるのは新一とミギーは別人格である事。新一の判断をミギーが正したり、人ごみの中でも寄生された人間を教えてやったり…と、運命共同体で助け合うという構図が面白い。ただ映画観賞後、原作を半分まで読んだのだが、原作のミギーはもっと冷徹なイメージで、阿部サダヲのコミカルな吹き替えとは、かなり雰囲気が違っていた。まぁ、もっとも原作通りのミギーだと全体的に暗く重いドラマになってしまったであろうから、ここは好き嫌いが分かれるところか。
人間と共存の道を模索する寄生された女教師を演じる深津絵里は、顔を剥かれてしまう特殊メイクもさる事ながら大好演。若手イケメン俳優の東出昌大の不気味な作り笑い(寄生された人間は感情が無いから笑顔も人の真似をして作らなくてはならないのだ)も、かなり怖い。正体がバレた彼が校内で大暴れするシーンは、日本で初めて本格的VFX大作『SPACE BATTLESHIP ヤマト』を手掛けた山崎貴監督の本領を発揮。次回、完結編が楽しみである。
「人間の命は尊いんだ」という主人公に対し「尊いのは自分の命だ」とミギーは事も無げに言うセリフにドキッとさせられる。