ヤッターマン
あの日本のヒーローが実写になってただいま参上!
2009年 カラー シネマスコープサイズ 111min 日活、日本テレビ、タカラトミー、松竹他
製作総指揮 佐藤直樹、島田洋一 監督 三池崇史 脚本 十川誠志 原作 竜の子プロダクション
撮影 山本英夫 美術 林田裕至 音楽 藤原いくろう、神保正明、山本正之 照明 小野晃、藤森玄一郎
出演 櫻井翔、福田沙紀、深田恭子、生瀬勝久、ケンドーコバヤシ、岡本杏理、阿部サダヲ
滝口順平、山寺宏一、たかはし智秋
1977年1月、「タイムボカン」シリーズ第2弾として放映スタートした『ヤッターマン』は、同シリーズ史上最長の全108話が2年間にわたって放映され、最高視聴率28.4%を記録。数々の流行語も生み出した国民的人気TVアニメだ。オチャメなヒーローのガンちゃんとガールフレンドの愛ちゃんが最強タッグを組み、正義の味方ヤッターマンに変身。悪役の枠を超えてキャラ立ちしたドロンボー一味、おもちゃみたいにキュートなビックリドッキリメカ、きっちりとパターンを踏襲した期待を裏切らないストーリー展開とマンネリを超えたお約束の笑い。放映終了後もさまざまなアイテムが商品化され、世代を超えてファンを増やし続けた。ヤッターマン1号を〈嵐〉のメンバーにしてニュースキャスター・俳優と多才な活躍を見せる櫻井 翔、2号には『櫻の園−さくらのその−』の福田沙紀。そして最も気になるロンジョを演じる深田恭子は、女優として新たな領域に足を踏み入れた。ボヤッキーには、生瀬勝久、トンズラーをケンドーコバヤシが好演している。監督は“邦画界の鬼才”こと三池崇史。「日本で映画監督をやる限り、『ヤッターマン』を映画化するまでは死ねない!」と言い切る。衣装から美術セットまで“格好よさ”に貫かれたビジュアル、スケール感のあるストーリーと奥行きのある人間ドラマが実現した。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
ガンちゃん(櫻井 翔)は高田玩具店のひとり息子。父が開発中だった犬型の巨大ロボット・ヤッターワンを完成させ、ガールフレンドの愛ちゃん(福田沙紀)とともに、愛と正義のヒーロー、ヤッターマン1号・2号としてドロンボー一味と戦っている。ドロンジョ(深田恭子)をリーダーに、ボヤッキー(生瀬勝久)、トンズラー(ケンドーコバヤシ)の一味は、泥棒の神様ドクロベエの手先となり、4つ全部が集まると願いが叶うという伝説のドクロストーンを探しているのだ。実は、考古学者の海江田博士(阿部サダヲ)はすでにドクロストーンのひとつを手に入れていたが、それを娘の翔子(岡本杏理)に預け、2つ目を探すためナルウェーの森へ旅に出たまま行方不明になっていた。ガンちゃんと愛ちゃんに出会った翔子は、父を探すのを手伝ってほしいと頼む。博士が立ち寄ったはずのオジプトへ、ドロンボー一味が向かったとの情報を得たガンちゃんと愛ちゃんはヤッターマンに変身。ヤッターワンを出動させ、翔子と小型ロボットのオモッチャマを伴ってオジプトへ急行する。そこへ、ドロンボー一味が最新メカのバージンローダーに乗って現れる。激しいバトルの末、何とかドクロストーンを守ったヤッターマンたち。しかし4つのドクロストーンが集まると時間の流れが狂い、その影響でいろいろなものが消え、最後には地球が消えてしまうかもしれないのだ。1号・2号、そして翔子は、4つ目のドクロストーンがあるという南ハルプスへ向かう。ヤッターマンは悪を倒し、地球を救うことができるのか?
ヤッターマン1号を演じた櫻井翔の映画かと思ったら、ドロンジョ様を演じる深キョンこと深田恭子の映画だった。正直、筆者はテレビアニメ版“ヤッターマン”の世代から少しずれており、初期の“タイムボカン”で既にギリギリ。本作のオリジナル版は、たまに見る程度のものだったので思い入れは、それ程あるわけではない。…にも関わらす、のっけから大笑いしながら、スクリーンに釘付けにされたのは何故だろうか?とにかく、遊び心満載のCGを駆使して壊滅状態の渋谷…じゃない渋山で、いきなりヤッターマンとドロンボーとの戦いが始まり、まるで先週からの続きの如くクライマックスがオープニングに用意されている心憎さ。『スターウォーズ』のように上映直後に観客の心を捉えてしまった。三池崇監督は『ゼブラーマン』と『ジャンゴ』でドタバタヒーローもののコツを獲得してしまったのか、スピード感溢れるアクションと笑いのタイミングが前2作以上に上手く融合されている。“ヤッターマン”を見たことがない世代でも楽しめるのは、三池監督がアニメ版を忠実に実写化しようと固執せずに、面白エッセンスだけを残して、映画版独自の平成ヤッターマンを作り上げたからに他ならない。「アニメの世界で表現されていたメカを果たして実写で表現する事に意味があるのか?」という評論をよく目にするが、アニメでは愛らしいメカが、実写となると異彩を放っているのが興味深かった。可愛いのだけど、よく見るとどことなく怖いチェコの人形アニメーションのような独特の雰囲気を持つヤッターワンとヤッターキングは、素晴らしい造形だ。
また、深キョン・ドロンジョ様の恋愛物語に主軸をシフトしているのも成功の要因として挙げても良いだろう。ヤッターマン1号ことガンちゃんへの恋心を秘めて思い悩む姿は、アニメのドロンジョ様を深キョンは超えたのでは…?とさえ思う。改めて、前述の通り本作は深キョンの映画であると言い切らせていただく。それ程、彼女の吹っ切れた(はじけた…と言った方が正しいか)ドロンジョ様の役作りは、紛れもなく彼女の最高傑作を生み出した。ドロンジョ様のアイマスクの奥に見える瞳のセクシーさと、真剣に“スッタモンダ〜コッタモンダ〜”と踊るキュートさに拍手を贈りたくなった。彼女のコメディエンヌぶりは既に『下妻物語』で実証済みだが、本作はそれを遥かに上回る出来と言っても過言ではなかろう。毎回、ドクロベエのお仕置きでボロボロになってしまうドロンジョ様のコスチュームを完璧なまでに着こなせたのは、今となっては、深キョン以外には考えられない。
三池監督のこだわりのある遊び心は、エンドロール後に次週の予告編を入れているところだ。思い入れの激しいファンを有する作品を作る上で、重要なのは、こうした細部に至るディティールにこだわる事。あくまでも「本作も毎週放送枠のひとつである」事を貫いた三池監督のカルト的なこだわりに思わず何度膝を叩いた事だろうか。人気アニメを作っても相変わらずの偏執狂ぶりに、ニンマリさせられっぱなしの2時間だった。。
「ヤッターマンがいる限り、この世に悪は栄えない!」 やっぱり、この決めセリフがないと“ヤッターマン”は始まらないのだ。