サマーウォーズ
世界崩壊の危機、立ち向かうのは「日本の大家族」だ。
2009年 カラー シネマスコープサイズ 120min サマーウォーズ」製作委員会
監督 細田守 脚本 奥寺佐渡子 キャラクターデザイン 貞本義行 アクション作画監督 西田達三
作画監督 青山浩行、藤田しげる、濱田邦彦、尾崎和孝 美術 武重洋二
音楽 松本晃彦 主題歌 山下達郎
出演 神木隆之介、桜庭ななみ、谷村美月、富司純子、横川貴大、斉藤歩、永井一郎、中村正
仲里依紗、諸星すみれ、今井悠貴、太田力斗、皆川陽葉乃
(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
2006年夏、単館公開からスタートした『時をかける少女』は、口コミでロングランヒットとなり、国内外の映画賞を多数受賞。多くの人に愛される作品となった。あれから3年、『時をかける少女』を手がけ一躍注目を浴びたアニメーション監督・細田守が、満を持して送り出す最新作が『サマーウォーズ』。キャラクターデザイン・貞本義行、脚本・奥寺佐渡子など『時をかける少女』のスタッフが再結集したこの作品は、ふとした事から片田舎の大家族に仲間入りした少年が、突如世界を襲った危機に対して戦いを挑む物語である。声優として、シャイな主人公の少年、健二を今年高校生になった神木隆之介が、彼が恋する先輩・夏希を期待の美少女桜庭ななみが演じ、更に監督が熱望し、声優初挑戦となった富司純子が素晴らしい名演技を披露、観客の涙を誘う。主題歌「僕らの夏の夢」は山下達郎が本作のために書き下ろしている。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
高校2年の夏休み。10億人が参加している仮想都市OZの保守点検のアルバイトで過ごしていた小磯健二(声:神木隆之介)。ある時、憧れの先輩・篠原夏希(声:桜庭ななみ)から別のアルバイトを頼まれ、長野の上田市にある彼女の曾祖母の家に同行することに。そこには16代当主・栄(声:富司純子)の90歳の誕生日を祝うために27人もの個性豊かな「ご親戚」の面々が顔を揃えていた。彼女のいうアルバイトとは、栄の前で、夏希のフィアンセを装うことだった。戸惑いながら大役を果たそうとする健二だが、そんな時、OZが謎のアバターの出現により荒らされ、被害は現実の世界に影響を及ぼす大事件になる。なぜかその犯罪者に仕立て上げられた健二。果たして、健二は、夏希は、そして27人の「ご親戚」はこの世界を救えるのか!?
正直な話し、最近のアニメにおける表現手法に、限界(若干、辟易していた…と言っても良いだろう)を感じていた。クリエーターの思いだけが先走って、観客不在の作品が乱立。実写の中にまで、CGという形で入り込んできて、アニメを観に来ているわけではないのに、観終わって思うのは「今、何観ていたんだっけ?」という事ばかり…。テレビと差別化を図るために映画のアニメは最先端のテクノロジーという方向に進むしかないのだろうか?と、思っていた。『時をかける少女』に出会うまでは…。観た瞬間、「何て映画的な作り方をしているアニメなんだろう」と感心してしまった。丁寧な脚本と主人公が住む団地をまるで実写を観ているかと見紛うリアルな空気感を全面に漂わせる細かな描写に、“アニメはまだまた行けるじゃん!”と膝をたたいた。
予想通り、国内外から高い評価を得た『時をかける少女』から3年…ファンが待ち望んでいた細田守監督の新作は、更にアニメの世界を思わぬ方向へと広げる事に成功してしまった。本作の舞台は長野県上田市にある豪族の旧家。まるで、小津安二郎や成瀬巳喜男の映画のようなカメラアングルで大広間に集まる大家族を捉えた構図に、「これってアニメ?」と前述とは真逆の感想を抱いた。『時をかける少女』もそうだったが、細田監督の描く夏の入道雲の映像が好きだ。夏の縁側に座る主人公が真っ青な空と入道雲を見ている姿を室内からローアングルの固定カメラで捉える。暗い室内と外の明るさのコントラストをよくぞアニメで描いたものだと感心させられた。憧れの先輩・夏希の「恋人を演じる嬉しいバイト」でお屋敷にやって来た主人公・健二があまりにも広い屋敷で夜、迷子になってしまうシーンがある。何となく心細くなったところに灯りと人影が見えた時の安心感…こうした些細なところで観客が共鳴するシーンが随所にある。物語とは直接関係ないところに、こうした細かな描写を挿入する細田監督のこだわりが観客の心を捉える秘訣なのだと思う。『時をかける少女』では、主人公が自転車を走らせる時の風を感じる事が出来た。本作で感じるのは匂い…だ。古い日本家屋特有の煤けた柱や陽に焼けた襖から漂う染み付いたカビ臭さだったりとか、仏間からゆら〜っと漂ってくる線香の香りだったりとか…。こうした懐古的な映像と対局して描かれるのが、ネットの中にある仮想都市“OZ”(ネーミングのセンスが素晴らしい)というもうひとつの空間だ。
全世界の人々が自由に出入り出来るソーシャル・ネットワーキング・サービスの場が正体不明のアバターによって乗っ取られてしまう。そいつが、次々と他のアバターを吸収して巨大化していくもんだから世界規模の重大な危機に陥ってしまう。冴えない(夏希の恋人ではない事が中盤でバレてしまい)高校生と思われていた健二が、実は数学の天才であり、その能力を発揮してネット上の敵と対決する展開は実に気持ちが良い。旧家の女主で90歳を過ぎても尚、政界に顔の効く夏希のおばあさん(声を担当している富司純子がメチャかっこいい!)や、その家で引きこもっている中学生…実は、パソコンの格闘ゲームでは世界でもトップクラスという魅力的なキャラクターが揃っているのも、魅力的なのが特長だ。後半は、一人ではなく皆が協力して戦うといった連帯感を全面に押し出している。ここが面白く、たいがい独りでやるパソコンの世界を皆の団結によって救う…パスポートも人種の壁もない世界なのだから、理想郷にしようよ…という作者の声が聞こえた気がした。
「まだ負けていない」 そう、主人公が言うこのセリフこそが現代人が忘れかけている言葉かも知れない。