色即ぜねれいしょん
青春×旅×音楽、僕らの世界が少しずつ変わり始める。
2009年 カラー ビスタサイズ 114min スタイルジャム、バンダイビジュアル、衛星劇場他
エグゼクティブプロデューサー 甲斐真樹 監督 田口トモロヲ 脚本 向井康介 原作 みうらじゅん
撮影 柴主高秀 美術 丸尾知行 音楽 大友良英 照明 蒔苗友一郎 編集 上野聡一 録音 久連石由文
出演 渡辺大知、峯田和伸、岸田繁、堀ちえみ、リリー・フランキー、臼田あさ美、石橋杏奈
森岡龍、森田直幸、大杉漣、宮藤官九郎、木村祐一、塩見三省
原作は、みうらじゅんの自伝的な青春小説。青春ノイローゼまっただ中のモテない少年が、ロックに憧れ、旅に出て、恋を知り、別れを経験するというひと夏の成長物語を、独特のユーモアと温かい眼差しで描いた青春小説の金字塔である。みうらじゅんの盟友・田口トモロヲが監督を務め、若者から圧倒的な支持と共感を集めた『アイデン&ティティ』のゴールデンコンビが復活した。主人公には2000人を超えるオーディションの中から、高校生バンド「黒猫チェルシー」のヴォーカルとして地元神戸を中心に活動していた現役高校生の新人、渡辺大知が大抜擢された。母親役には、堀ちえみが23年振りの映画出演。『ぐるりのこと。』での演技が絶賛されたリリー・フランキーが初の父親役に挑み、堀と共に純の悩みの種である優しすぎる両親を演じている。また、『アイデン&ティティ』以降、映画での活躍がめざましい「銀杏BOYZ」の峯田和伸と映画初出演となる「くるり」の岸田繁らミュージシャン勢も参加し、音楽をテーマにした作品にふさわしいミラクルなキャストが実現した。そして、オリーブ役には本作で女優としての才能を開花させた臼田あさ美、純が憧れる同級生役には『きみの友だち』でヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞した石橋杏奈と期待の若手俳優が集まった。脚本を手がけたのは『リンダ リンダ リンダ』『神童』の向井康介。音楽は、中国、香港、オランダなどの映画音楽も手がけてきた国際派、大友良英。田口監督とは『アイデン&ティティ』に続いてのコラボレーションとなる。他にも撮影の柴主高秀、美術の丸尾知行、編集の上野聡一ら、原作に共鳴した錚々たるスタッフが田口監督のもとに集結して、青春映画の新たな傑作が誕生した。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
安田講堂が陥落し、学生運動も下火になった1974年、京都。仏教系男子校に通う高校一年生の乾純(渡辺大知)は、ヤンキーたち体育会系が幅を利かせてる学校では肩身が狭く、家では優しすぎる両親にかわいがられ、ボブ・ディランに憧れてロックな生き方を目指しているが、何かに反抗する勇気もない。おまけに、小学校の頃から片想いしてる足立恭子には告白すらできず平凡で悶々とした日々を暮らしていた。ある日、純は同じく文科系男子の伊部と池山から隠岐島への旅に誘われる。彼らによると、隠岐島のユースホステルにはフリーセックス主義者が集まるらしいというのだ3人は夜行列車とフェリーを乗り継いで、浮かれ気分で隠岐島へと向かう。ユースホステルに着いた3人はヘルパーのヒゲゴジラ(峯田和伸)や、仲良くなった女子大生のオリーブ(臼田あさ美)たちと出会い自由で気ままな時間を過ごす。いくつもの出会いと別れを経験した3人はちょっぴり大人になれた気がしていた。夏休みが明けて、純の中には何かが芽生え始めていた。そして、純は文化祭のコンサートに出演することを決意する。
やってくれたな…田口トモロヲ。初監督作『アイデン&ティティ』で既に証明済みのクリエーターとしての才能を本作で確固たるものにしてしまった。今回もまた、みうらじゅんの自伝的小説を原作とした映画化で、社会に出るには、まだまだ程遠く思っている童貞君の夏を描いている。時は1974年、不安定ながらも日本人が自己を確立し始めていた、若者にとっては心底楽しかった時代だ(…と思う)。将来?これからどうするか?…なぁんてビジョンが明確な奴なんて高校生では、ほんの一握り。大学受験が控えていたって、テストで100点穫る同級生よりも、早々に初体験を済ませた奴の方が尊敬されるような年頃だ。前作『アイデン&ティティ』ではバンドブームが巻き起こった80年代に生きる若者を描き、本作では反体制のアメリカ文化が日本に入ってきた70年代に生きる若者を描いているが、どちらに共通しているキーワードは、ボブ・ディランだ。これは、原作者のみうらじゅんが好きだからという理由に他ならないが、ディランの音楽はそれぞれの時代に記号化され存在していたのだと、この2作品を並べて観た時、改めてその偉大さを実感した。
日米安保から全共闘の時代を経て、気が揺るんだ時代…とでも言いましょうか、思えば70年代は、スウェーデンポルノがやたらアチコチ場末の映画館に反落していた。本作の主人公たちは、勉強も出来ず、かと言ってヤンキーにもなれず、仲良し三人組でフリーセックスを求めて鳥取の小さな島ー隠岐島に過度な期待を抱いてやって来る。これって時代に関係なく“モテたい本能”が思春期の若者たちの中枢神経を刺激して思わぬ行動に出るものなのだ。主人公を演じた“黒猫チェルシー”のボーカル渡辺大知の脱力感バリバリの“ただの高校生”ぶりは最高だった。仏教系の男子校に通う主人公が友人と共に夏休みに行ったユースホステル(このユースホステルという響きも高校生にとっては年上の世界といった感じだった)で、お姉さんに恋心みたいな感情を抱く。この中盤における島での出来事が物語の要となり、主人公はそこで異性に対して一枚脱皮する。そうそう…アメリカ映画みたいに、別に初体験しなくたって一皮くらい剥けるのだ。高校生レベルじゃ考えもしない5〜6歳年上の人たちの発する言葉って実にカッコ良かったりする。例えば、ユースホステルのヘルパー通称ヒゲゴジラ(峯田和伸も『アイデン&ティティ』よりも各段にイイのだ)は学生運動崩れで失望の中から悟った自分なりの世界観を持っていたりする。こうした親の口から聞いた事がない言語を発する大人って本当にしびれるのだ。田口監督は若者の目線からその大人たちを見事に描いているから、映画を観ながら何度も大きく頷いてしまうのだ。
雑誌“平凡パンチ”が創刊されその後、次々と店頭に女の子の裸が載った雑誌が並び始めた時代…多分、ほぼ大多数の青少年が性に対して歩腹前進しながら興味を推し進めていたのだろう。主人公が家庭教育(くるりの岸田繁が最高にファンキーな演技を披露してくれる。必見!)に通信空手をバカにされるくだりがあるのだが、こうしたコンプレックス商品を扱う通信関係が氾濫した背景には、イケてない男たちもある種の自我に目覚め始めた時代だからだ。本作の一大テーマは、まさにイケてない男たちのみっともなくもひたむきに手の届かない性を追い求める姿にスポットを当てる事だ。みうらじゅんの書くエッセイが面白いのは、誰もが体験したであろう“みっともなさ”を正直に独白しているから(東映ピンキー映画の手記は最高である)だ。
「通信カラテって何もしていない奴より弱そうやな」 コンプレックス通販が学生相手に全盛だった頃の風物。確かに、楽して強くなろうという魂胆が弱っちくて面白かった。