シグナル 月曜日のルカ
不思議な3つの約束からはじまった“ひと夏の恋”切なくも胸打つ感動の青春恋愛ミステリー
2012年 カラー シネマスコープサイズ 112min ショウゲート配給
エグゼクティブプロデューサー 桑田潔 監督 谷口正晃 脚本 小林弘利、鴨義信 原作 関口尚
撮影 上野彰吾 美術 三浦伸一 音楽 村山達哉、石塚徹、TOKYO GRAND ORCHESTRA
主題歌 カイリー 照明 赤津淳一 編集 伊藤潤一 録音 小川武
出演 三根梓、西島隆弘(AAA)、高良健吾、井上順、宇津井健、白石隼也、おかやまはじめ、
宮田早苗、梅沢昌代、緑友利恵、趣里
2012年6月9日(土)より 新宿ピカデリー、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
(C)2012「シグナル」製作委員会
秘められた過去を持つヒロイン“杉本ルカ”役を演じるのは本作が映画初出演にして初主演となる三根梓。感情を表に出さない難しい役どころを、演技初挑戦とは思えないその瑞々しい演技で見事に体現。2012年のブレイクが期待される女優だ。ルカの働く映画館“銀映館”でバイトをはじめ、次第に思いを寄せるようになる宮瀬恵介役を演じるのは、『愛のむきだし』の演技が国内外の映画祭で絶賛され、大河ドラマ「平清盛」で、清盛の弟、頼盛役を演じるなど注目を集める西島隆弘(AAA)。そしてルカの過去を知る男、ウルシダレイジ役には、高良健吾が出演するなど、今後の日本映画界を引っ張る若手実力派俳優の共演も見ものだ。また井上順、宇津井健など彼らを支える豪華キャスト陣も作品に深みを与えている。監督は『時をかける少女』でヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞した谷口正晃。“本作のもう一人の主人公”と監督が公言する映画館“銀映館”。全国から本作にぴったりの趣のある映画館を探し出した。ノスタルジックな雰囲気漂う映画館を舞台に、不思議な3つの約束から始まったルカと恵介の“ひと夏の恋”と、恵介の一途なやさしさによってルカが“自分の過去”を乗り越える姿を瑞々しく描いた。そして物語のクライマックスを盛り上げるのは同世代の女子から絶大な支持を集めるKylee(カイリー)の新曲バラード「未来」。奇跡のコラボが生み出した、切なくも胸打つ感動の青春恋愛ミステリーがここに誕生した。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
東京の大学に通う宮瀬恵介(西島隆弘)は、夏休みを利用して、地元の古い映画館“銀映館”で臨時のアルバイトに応募する。面接の際に、劇場支配人(井上順)から採用かどうかは技師長が判断すると言われ、若くて美しい映写技師の杉本ルカ(三根梓)を紹介される。採用にあたって恵介は3つの約束をさせられる。1つ目は「ルカとの恋愛は禁止」、2つ目は「月曜日のルカは、憂鬱なのでそっとしておく」、そして3つ目は「ルカの過去を聞いてはいけない」という不思議な内容だった。翌日から銀映館に通い始めた恵介は、ルカに仕事内容を教えてもらうが、人を寄せ付けないルカの態度に戸惑いを隠せない。次第に仕事を覚え張り切る恵介にルカは祖父・剛造が書いた“映写方法の虎の巻”を手渡しながら、剛造との思い出話をする。一方恵介は、幼い頃から家のトラブルがあるたびに、弟とよくここで映画を見ていたと話す。その時の映画は、剛造が映写をしており、その横には必ずルカがいた事を知る。ある日、恵介はウルシダレイジ(高良健吾)という男に声をかけられる。何かあると感じた恵介だったが、翌日、今度は売店に臨時アルバイトとして入った江花さおりがルカに「もしかして月曜日のルカさんですか?」と声をかけるが、ルカは答えずにその場から立ち去る。さおりはその後もルカの動向を探りレイジに報告していたのだ。遂に、ルカの居場所を突き止めたレイジ…果たしてルカの過去には一体、何があったのか。
映画を愛する者たち(作り手だけではなく観客も)にとって映画館という場所は特別な場所だ。子供の頃に春休みや冬休みに連れて行ってもらった東宝チャンピオン祭りの映画館は正に夢のような空間だった。劇中、映写技師見習いとして雇われた西島隆弘演じる恵介が町の古い映画館「銀映館」の思い出を嬉しそうに語るシーン(劇中は大映の『ガメラ対深海怪獣ジグラ』だった)が印象に残る。父親に暴力を振るわれた兄弟が映画館に逃げ込んで映画を観ている間だけ嫌な事を忘れられた…正に映画館の闇は嫌な事も嬉しい事も全て包み込んでくれたのだ。幕間芸人を描いた『カーテンコール』や映画館支配人の情熱を描いた『虹を掴む男』…そして誰もが知っている不朽の名作『ニューシネマパラダイス』など、今まで数多くの映画館を舞台とした作品が作られてきたのは映画人たちの映画館に対する思い入れの深さからだろう。谷口正晃監督はデビュー作『時をかける少女』では映画研究会で自主映画を作る青年の姿を通して映画への愛情を表現していたが、本作では映画を掛ける側と観る側の思いが余す事なく描かれている。まず、オープニングがイイ!映写機のガイドローラーにフィルムのパワポレーターを掛ける主人公の手…そして1秒間24コマの速度でカタカタ進むフィルムのアップ。こんなに丁寧に愛情溢れる視点で映写機を捉えた映画は初めてじゃないだろうか?(劇中で使われている映写機はFuji Centralの年代物というのも渋い!)谷口監督の映画にかける愛情はハンパ無い。
谷口監督は前作『乱反射』『スノーフレーク』でも過去に捕らわれた桐谷美玲演じる少女の姿をミステリアスに描いていたが、本作の主人公ルカも誰にも言えない壮絶な過去を内に秘めている点においては共通している。(谷口監督は『時かけ』の仲里依紗以降、ワケありミステリアス美少女系が得意?)ルカを演じた三根梓は本作がデビュー作とは思えない素晴らしい演技を見せる。大学生の三根は授業の無い時間に演技指導を受けながら浅草新劇場で映写機の特訓を受けて目隠ししてもフィルムのセットが出来るようになった…というのが泣かせるではないか。そして何より驚くのは共演する二人の若手実力派俳優(高良健吾のサイコなキレキャラっぷりは最高)を相手に堂々と渡り合う演技力だ。入念なリハーサルに時間を費やした谷口監督の功績には間違いないが、初めて登場した時に見せる不適なしかめっ面の威圧感は完成された女優の顔だ。映写技師で映画館に住み3年間一歩も外に出た事がないというミステリアスな女性でありながら、ふと…時おり見せる笑顔が、また良いアクセントになっている。
原作者の関口尚が映写技師のバイトをしていた経験を活かして書き上げた…というだけあって、映写室の隣りで寝食をしている女の子という設定が既に映画向き。今では殆どの映画館で使われていない掛け替え式の映写機(残るのは一部の成人映画館くらいだろうか)を黙々とメンテナンスするルカを捉えた上野彰吾カメラマンと赤津淳一照明監督による裸電球やハロゲンランプのもたらす色合いは正に映写室そのもの。我々が映写室という狭い空間から発せられる映像を観て感動したり笑ったりしているのだ…と思っただけで目頭が熱くなった。ラスト河原で行われる野外上映会を電車の車窓から見届けるシーンなんか完全にノックアウトされました…谷口監督反則だよ。
「大事にしていたこの場所を自分を罰する場所にしちゃいけない」ルカが映写室から離れられなくなった理由。その呪縛を断ち切る恵介のセリフ。