北のカナリアたち
吉永小百合主演、湊かなえの衝撃作待望の映画化!
2012年 カラー ビスタサイズ 130min 東映配給
企画 黒澤満 プロデューサー 國松達也、服部紹男 監督 阪本順治 脚本 那須真知子 原作 湊かなえ
撮影 木村大作 美術 原田満生 音楽 川井郁子 照明 杉本崇 編集 普嶋信一 録音 志満順一
出演 吉永小百合、森山未來、満島ひかり、勝地涼、宮崎あおい、小池栄子、松田龍平、里見浩太朗
柴田恭兵、仲村トオル、小笠原弘晃、渡辺真帆、相良飛鷹、飯田汐音、佐藤純美音、菊池銀河
2012年11月3日(土)より全国東映系ロードショー公開中
(C)2012『北のカナリアたち』製作委員会
吉永小百合主演最新作、湊かなえ原案の衝撃作を日本映画最高峰のスタッフ・キャストが紡ぐ。日本映画に新たな歴史を刻む、東映創立60周年記念作品として製作された大型プロジェクト。日本最北の地、稚内、サロベツ、利尻島、礼文島を舞台に、かつてない衝撃と感動の物語が描き出される。日本を代表する映画女優・吉永小百合が、ある事故をきっかけに苦しみを抱え続けた教師・川島はるを、圧倒的な存在感で演じている。はるの夫役に柴田恭兵、島に赴任してくる警察官役に仲村トオル、はるの父親役に里見浩太朗と錚々たる俳優陣が並ぶ。さらに教え子たちの20年後を演じるのは、時代を牽引する実力派俳優、森山未來、満島ひかり、勝地涼、宮崎あおい、小池栄子、松田龍平。また物語の重要なポイントとなる幼少期の生徒たちは、全国から集まった約3,100名の子供たちの中から“天使の歌声を持つ”6名を選出した。その美しい歌声が情感豊かに物語を包み込む。監督は『顔』や『大鹿村騒動記』などで、人間の内面を緻密に描いてきた名手・阪本順治。撮影は『劔岳 点の記』では監督を務めた名キャメラマン・木村大作。阪本&木村の初タッグによって大自然の厳しさ・雄大さと、登場人物それぞれが20年間心にしまっていた想いを克明に映し出す。そして『告白』のヒットが記憶に新しい湊かなえの「往復書簡」(幻冬舎文庫)に収録された「二十年後の宿題」を原案に、『北の零年』の那須真知子が脚本を手がけ、上質な物語が展開されていく。2011年12月2日にクランクイン。体感温度がマイナス30℃まで下がる真冬の過酷なロケーションは約2ヶ月間に及んだ。そして、6月20日から7月18日にかけて、厳しい冬の荘厳な風景から一変、美しい花々が咲き誇る利尻島で再び撮影を敢行。雄大な利尻富士を望むことができる礼文島に建てられた分校のロケセットでは、これまで猛練習に励んできた子供たちの合唱のシーンやはる先生との心の交流、そして物語の肝となる20年前の事故の記憶などがフィルムに焼き付けられ、2期にわたる壮大なロケーションがクランクアップを迎えた。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
小学校の教師・川島はる(吉永小百合)が赴任したのは北海道の離島にある生徒6人の小さな分校だった。生徒たちの歌の才能に気づいたはるは、合唱を通してその心を明るく照らしていく。そんな時、ある事件が原因で心に傷を抱えた警察官・阿部(仲村トオル)が島へやってくる。人知れず悩みを持っていたはるは、陰のある阿部と自分を重ねるかのように心動かされていく。そこに衝撃的な事故が彼らを襲う。生徒たちと行ったバーベキューで、海に転落した生徒を助けたはるの夫・行夫(柴田恭兵)が命を落としてしまったのだ。その出来事で子供たちは心に深い傷を負い、はるは追われるように島を出る。それから20年後、東京で暮らすはるに生徒の一人が起こした事件の知らせが届く。真相を知るため、教え子たち(森山未來、満島ひかり、勝地涼、宮崎あおい、小池栄子、松田龍平)との再会を決意する。彼らがあの時に言葉にできなかった想いを抱え、生きてきたことを知り愕然とするはる。真実が明かされる時、物語は感動のクライマックスへと動き出していく。
粉雪がチラつくひと気の無い冬の港町…通りを歩く女性に向かって少年が石を投げる。女性は本作の主人公で最北にある小さな島の小学校に赴任した教師・はる。額から血を流して戸惑いの表情で少年を見つめるはるに扮す吉永小百合の顔がアップで映し出された時、思わず身が震えてしまった。このミステリアスなオープニングにおける主人公の表情から伝わってくる彼女の心にある闇の部分が今までに無い美しさを醸し出しているのだ。吉永小百合の凄いところは何年経っても変わらない『吉永小百合』というブランドを維持し続けているところ。その後、場面は一気に20年の時を越えて、間もなく定年退職を迎える図書館員の主人公を写し出すのだが、そこでまた60歳の吉永小百合の美しさに息を呑む事となる。そして、間違いなく観客(ほぼ50代以上の…)もそんな吉永小百合を求めて来ているワケで、そういった意味においては(製作者側の)狙い通りの冒頭となっていた。ここで改めて思うのは現在の日本映画界において名前だけで客を呼べる俳優は果たして何人いるだろうか?という事。多分、双璧を成すのは男優で高倉健ぐらい(偶然か作戦か…時期をズラして公開された健さんの『あなたへ』が今秋大ヒットしたばかり)だろう。撮影監督の木村大作カメラマンもパンフレットで「俺は小百合さんを美しく撮るためにいるんだ」と明言しているように本作の目的はハッキリしている。定年を迎える60歳のはると島で教師をしていた40歳のはるを演じているが、驚くのは回想シーンで出てくる20年前の吉永小百合が40歳そのものである事。決してライティングやメイクの力だけではなく表情や立ち振る舞いなど…些細な仕草のひとつひとつが40歳の女性なのだ。ここに美しいだけではない大女優の真髄を見た思いで改めてファンになってしまった。
その吉永小百合が死期の迫った夫がいながら、心に傷を負った警察官と恋に落ちる小学校の教師というを演じた。衝撃的だった…かなり革新的な役に挑んだ『天国の駅』の林葉かよ(二人の夫を殺害した実在の死刑囚)ですらこれほどの衝撃を受けなかった気がする。例によって予備知識は映画館の予告編のみ。湊かなえの原案となった短編“二十年後の宿題”を敢えて読まず…“二十四の瞳”のような物語を勝手に想像していたら長年のサユリストには、かなりショッキングな内容となっていた。20年前はるが島を追われるまでのいきさつと、かつての教え子が殺人事件の容疑者として逃亡していると刑事から告げられ、20年間封印し続けた過去に向き合い教え子を救うために再び島を訪れるはるの姿が交互に描かれる。上手い!現在と回想シーンを交差させる那須真知子の脚本(難易度が高かったであろう物語全体の設計)は実に巧妙で観客をラストに向けてグイグイ惹きつける。既にバラバラとなった6人の教え子たちを訪ねるはるの姿は巡礼の旅をしているように見えるのが興味深い。阪本順治監督は『顔』もそうだったが、抑制の利いた演出をしながら、いきなりアクセルを全開にする演出テクニックで観客の感情を高揚させる術を持っている。廃校となった小学校で教え子たちと再び顔を合わせるシーンで彼女が教え子を守るために強かに立ち回っていた真実が明らかになるラストでは思わず涙が溢れてしまった。小学校の背景に見える勇壮な利尻富士…最果ての島に住む人々にとって当たり前のようにある情景を撮影監督の木村大作はこだわり、その場所に小学校を建ててしまったという映像は近年トップクラス。妥協を許さないプロの仕事を堪能出来る…全ての面でプロの仕事を堪能できる作品。日本人よ、これが映画だ!
「生きている…それだけでいい」回想シーンで、はるが自暴自棄になった阿部に対して言うセリフ。それがラストの阿部から送られてくるハガキにつながる。