黄金を抱いて翔べ
240億円の金塊をめぐる、男たちの“究極の賭け”が、いま始まる。

2012年 カラー シネマスコープサイズ 129min 松竹配給
エグゼクティブプロデューサー 新崎英美、田林憲治 監督、脚本 井筒和幸 脚本 吉田康弘
原作 高村薫 撮影 木村信也 音楽 平沢敦志 照明 尾下栄治 編集 冨田伸子 録音 白取貢
出演 妻夫木聡、浅野忠信、桐谷健太、溝端淳平、チャンミン(東方神起)、西田敏行、青木崇高
中村ゆり、田口トモロヲ、鶴見辰吾

2012年11月3日(土)より全国ロードショー公開中
(C)2012「黄金を抱いて翔べ」製作委員会


 大阪に本店を置くメガバンク。その地下のコンピュータで完全に制御された鉄壁の防護システムの向こうに眠る、240億円相当の金塊。6人の男たちによる、練りに練った強奪作戦の幕が切って落とされた!ベストセラー作家・高村薫のデビュー作にして日本推理サスペンス大賞受賞の犯罪小説の最高峰、『黄金を抱いて翔べ』(新潮文庫刊)が、豪華キャスト・スタッフの手により完全映画化される。心に闇を抱えた6人の男たちが、共通の目的のために手を組み、息もつかせぬ展開の中で壮絶な生きざまを曝け出す。メガホンを取ったのは、鬼才・井筒和幸監督。『ガキ帝国』『岸和田少年愚連隊』『パッチギ!』など常に現代の日本、今の時代の欺瞞や閉塞を撃つ彼が、『ヒーローショー』以来、2年ぶりとなる新作。オリジナルにこだわってきた監督にとって"原作もの"は珍しいが、本作は発表時より心から惚れこんでいた念願の企画だ。主演には『悪人』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した妻夫木聡が、井筒監督との初仕事に乗り出し、謎めいた過去を抱えた孤高の男を鮮烈に演じきる。そして『マイティ・ソー』や『バトルシップ』などハリウッドでの活躍も目覚ましい浅野忠信。井筒組の『ゲロッパ!』でスクリーンデビューし、以降、若手筆頭株として躍進している桐谷健太。同じく若手の実力派で、テレビドラマから映画まで幅広く注目される溝端淳平。ボーカル・ダンスグループ"東方神起"のメンバーとして、アジア全域で絶大な人気を誇るチャンミン。さらに、多大な尊敬を集めるベテランであり、日本映画界の至宝と呼ぶにふさわしい西田敏行といったいずれも演技力と個性的な魅力を兼ね備えたスターたちが、抜群のチームワークを発揮して、大胆不敵な計画に挑む。


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 過激派や犯罪者を相手に調達屋をしていた幸田弘之(妻夫木聡)。幸田は二十数年ぶりに訪れた故郷の大阪で、大学時代の友人・北川浩二(浅野忠信)からある計画を持ちかけられる。大手銀行本店の地下にある240億円相当の金塊を強奪するというのだ。銀行担当のシステムエンジニアである野田(桐谷健太)と共に計画を練る中で、さらに、元エレベーター技師で銀行の内部にも詳しい“ジイちゃん”こと斉藤順三(西田敏行)と、爆弾に精通している元・北朝鮮のスパイの青年“モモ”ことチョウ・リョファン(チャンミン)を仲間に引き入れる。計画を知ってしまった北川の弟・春樹(溝端淳平)もメンバーに加わって、いよいよ六人の男たちによる計画が始動する。目標の金塊は銀行の地下3階にある。地下2階の駐車場から侵入すると同時に、中之島変電所を爆破し、銀行だけでなく辺り全域を停電にする作戦だ。その準備のため、幸田は野田と共に群馬・高崎の工場の輸送車を襲撃し、ダイナマイトの強奪に成功する。が、思わぬ障壁が彼らを待ちうけていた。それぞれに消せない過去と忌まわしい事情を抱えた彼らは、果たして金塊強奪計画を完遂できるのか


 「やったぜ!これこれ!こんな井筒和幸の映画が観たかったんだ!」とオープニングシーンで思わずガッツポーズ!筆者が井筒和幸という監督に心底惚れ込んだ1986年に公開された戦後間もない瀬戸内海を舞台に海賊として大暴れした男たちのドラマ『犬死にせしもの』で描かれていたハミ出し者たちの行き場の無い魂の彷徨が本作で見事に復活していた事に身震いした。あぁ、思えば『ガキ帝国』で島田紳助と松本竜介を配して荒削りで男臭いバディ・ムービーを作り上げ、その後日本映画界に喝を入れる暴れん坊的なオッサンの発するイチイチ的を得ている言動に一喜一憂してから早30年以上の時が流れておりました。最近はやや大人しくなったのでは?…と心配していた矢先の本作に井筒節が健在(たまに聞き取れないセリフがあるところとかも)している事に安心したのが率直な感想。大阪にある銀行の地下に眠る240億の金塊を強奪しようと企てる6人の男たち。「今どき金塊強奪?」と揶揄する奴らにこの映画を観る資格無し。大事なのは、こんな無茶で馬鹿げた計画を真剣に実行しようとする男たちの生き様なのだ。バブルの真っ只中1990年に発表された高村薫の原作はまるで昭和の犯罪映画でよく見かけた金塊という分かり易いアイコンを用いて、社会からはみ出たマイノリティな男たちのロマンを掻き立てる。その点が井筒ワールドにハマったのだろう。つまり、理屈なんかいらない…計画の緻密さよりも犯罪に手を染める男たちの人生を描くのが本作のテーマだ。原作が発表された90年代ではなく社会に対して失望感が漂う現代にこそ映画化したのは正しい決断で、そこが戦後の日本に失望した男たちを描いた『犬死にせしもの』に共通点を感じたのかも知れない。真田広之扮する重左が「戦争で無くしたこの命…女にくれたらぁ」という心境に近いものが本作の男たちにも流れているような気がした。
 この6人を演じる俳優たちの顔ぶれが実に渋い!(出演者全員がイイ仕事をしているのだ)中でも妻夫木聡が演じる調達屋(過激派や犯罪者相手に武器等を手配する)の幸田という役どころは秀逸。浅野忠信演じるリーダーの北川から持ち掛けられた強奪計画のあり方そのものに疑問を感じつつも自分の境遇と過去の呪縛から逃れるために無謀な計画の中核に入って行く姿が切なく、本作は間違いなく彼の代表作となった。また脱北者として北朝鮮の組織から狙われる爆弾のエキスパート、チャンミン演じるモモに対して同性愛的な感情を抱いていたようにほのめかされていたのが興味深い。組織の銃弾で負傷して教会に逃げ込む幸田とモモ。実は致命的な傷を負っていたモモがそれを隠して息絶えるシーンで見せる妻夫木の表情が素晴らしい。更に付け加えさせていただくと…ラストで金塊の強奪に成功しながらも瀕死の重傷を負った幸田が逃げるトラックの荷台で北川の腕に抱かれて死にゆくシーン。このラストから幸田は実は北川を愛していたのでは?(井筒監督のノワール作品に登場する男たちの関係はどれもゲイっぽくも見える)と推測したのだが…。ここで共通するのは井筒監督バイオレンスにおける男の死にざまの美学だ。『犬死にせしもの』で何発も銃弾をぶち込まれた重左が小さな漁船の上で彼が守ろうとした安田成美演じる戦争未亡人の腕に抱かれた真田広之のアップや、志保美悦子主演の『二代目はクリスチャン』で二代目組長を襲名したシスターを守るため命を落とす組員たちの姿。何のために彼らはそこまで命を賭ける必要があったのか…世間から見たら“無駄死に”をも辞さないストイックな男たちの姿にある種のカタルシスを感じるのだ。(西田敏行演じるエレベーター技師ジイちゃんの最後も良かったなぁ)久しぶりの井筒監督流ケレン味に溢れたストイックな男の世界に大満足の一本だった。

「240億の金が眠っているんだぞ」と実行を促す北川に対して幸田が切り返す。「240億分の警備もされているだろう」

【井筒和幸 監督作】
フィルモグラフィー

和56年(1981)
ガキ帝国
ガキ帝国 悪たれ戦争

昭和58年(1983)
みゆき

昭和59年(1984)
晴れ、ときどき殺人

昭和60年(1985)
(金)(び)の金魂巻
二代目はクリスチャン

昭和61年(1986)
犬死にせしもの

平成1年(1989)
危ない話

平成2年(1990)
宇宙の法則

平成6年(1994)
突然炎のごとく
罪と罰 ドタマかちわったろかの巻

平成8年(1996)
さすらいのトラブルバスター
岸和田少年愚連隊

平成11年(1999)
ビッグ・ショー!ハワイに唄えば
のど自慢

平成15年(2003)
ゲロッパ!

平成17年(2005)
パッチギ!

平成19年(2007)
パッチギ!
 LOVE&PEACE

平成20年(2008)
みんな、はじめはコドモだった
「TO THE FUTURE」

平成22年(2010)
ヒーローショー

平成24年(2012)
黄金を抱いて翔べ




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