映画 鈴木先生
常識を打ち破れ、世界は変わる。数々の賞を総なめにした伝説のドラマ、奇跡の映画化!!
2012年 カラー ビスタサイズ 124min 角川書店、テレビ東京配給
プロデューサー 守屋圭一郎、山鹿達也 監督 河合勇人 脚本 古沢良太 原作 武富健治
撮影 足立真仁 音楽 大友良英 照明 市川徳充 美術 古積弘二 録音 藤本賢一 タイトル 田中健一
出演 長谷川博己、臼田あさ美、土屋太鳳、風間俊介、田畑智子、斉木しげる、でんでん、富田靖子
夕輝壽太、山中 聡、赤堀雅秋、戸田昌宏、歌川椎子、澤山薫、窪田正孝、浜野謙太
北村匠海、未来穂香、西井幸人、藤原薫、小野花梨、桑代貴明、刈谷友衣子、工藤綾乃
2013年1月12日(土)より、角川シネマ新宿、丸の内TOEI、渋谷TOEI他にて 全国ロードショー!公開中
(C)2013映画「鈴木先生」製作委員会
2007年文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した武富健治による原作を基に、どこにでもいそうな平凡な教師が、どこにでも起こり得る問題について過剰に悩みつつ、独自の教育理論によって解決していく様を描き、各方面で波紋を呼んだドラマ「鈴木先生」が、遂に映画化。主演は「セカンドバージン」で注目され、「家政婦のミタ」で大ブレイクし、2013年大河ドラマ「八重の桜」で八重の夫役を務める長谷川博己。また、臼田あさ美、田畑智子、斉木しげる、でんでん、富田靖子など、豪華なキャスト陣が再集結。そして、土屋太鳳を始め、1,000人を超えるオーディションを勝ち抜いてきた生徒達。さらに、連続テレビ小説「純と愛」で純の相手役を務める風間俊介など、新たなキャスト陣も初参加。監督はドラマに続きメガホンを取る河合勇人、脚本は「相棒」シリーズや「リーガル・ハイ」等の話題作を手掛ける古沢良太、企画・制作プロダクションは『海猿』シリーズや『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ等のヒット作を連発するROBOTなど、強力なスタッフ陣が再結集した。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
一見普通に見える生徒達ほど、心の中には鬱屈したものを抱えていると感じている、黒縁メガネとループタイがトレードマークの悩める国語教師・鈴木先生(長谷川博己)。教育現場の常識を打ち破り、独自の<鈴木式教育メソッド>を駆使して、理想のクラスを作り上げようと奮闘しているが、妊娠中の妻・麻美(臼田あさ美)がいるにも関わらず、自身の“実験教室”に不可欠な“スペシャルファクター”となる女子生徒・小川蘇美(土屋太鳳)を重要視するうちに、良からぬ妄想をすることもしばしば。やがて、二学期が始まり、生徒会選挙と文化祭の準備に追われるなか、教育方針の対立によりメ壊れてしまったモ天敵の家庭科教師・足子先生(富田靖子)が、休養から復活。さらに、ドロップアウトしてしまった卒業生・勝野ユウジ(風間俊介)が学校に立てこもり、小川が人質に取られるという史上最悪の事件が発生。どうする、鈴木先生!?
2011年春テレビ東京系の深夜枠で放送されていた学園ドラマの後日談だが本編を未見でも充分に楽しめる内容になっているのが嬉しい(金を取る映画なんだからこれが当たり前なのだが…)。教え子とのいけない妄想に悩む主人公にまたしてもサイコ教師もの?と先走りしてしまうが、教師も人の子…その弱さを克服しようと葛藤するさまや落ち込む姿にむしろ安心させられる。これは人間誰もが持つ弱みであり、これを妄想のみで留めていられるか否かでコッチとアッチの世界と分かつボーダーラインなのだから…その点をキッチリ踏まえている武富健治による原作は潔さを感じる。その弱みに押し潰され克服出来ないマイノリティを排除する…という現代社会(特に教育の現場)の歪みが本作の大きなテーマとなっているのがユニークだ。主人公が密かに実験する“鈴木式教育メソッド”なる理念を基に常に迷い自己批判と肯定を繰り返す膨大なモノローグは我々観客へダイレクトに問題を投げかけてくる。本作で提議するのは決して教育の在り方に留まらず、仕事の現場や対人関係という大人の問題にも通じるものがあり何度もドキッとさせられた。
本作の焦点となっているのは生徒会選挙の意味と教師(学校)にとって良い生徒は果たして社会に必要とされるのか…という二点。劇中、ある教師は生徒会選挙は大人になってから政治に参加する意識を養うための勉強だという。…だとしたらそれは生徒に伝わっているのか?教師からの一方通行の思いとなっていないか?鈴木先生が受け持つクラスの生徒は生徒会長に立候補して演説の場で全校生徒と教師たちに問う。確かに、生徒の中には立候補者の公約なんて二の次で面白い奴や目立つ奴に一票を投じていた昔の自分を思い出して恥じた。そしてもうひとつ…学校では良い生徒だった者が社会に出ても良い社員であり続けるとは限らない事実。実際、イイ大学を出て一流企業に入社しても(劇中の言葉を借りるとするならば)壊れてしまった知り合いを何人も見ている。果たして教師は生徒たちが在校している3年間だけ見ていれば良いのか?中学での教えが卒業後の生徒たちへの影響を考えるとするならば後者の問題は選挙の問題と根底では同じ事なのだ。
何本ものエピソードが同時進行する物語を古沢良太の脚色は上手く整理されており、単なるテレビの映画版の域を遥かに凌駕したクォリティとなっている。それにしても今の子供たちって、こんな大人びた考えを言葉にする事が出来るの?だとしたら教育そのものも日々変革しなくては子供たちの成長に取り残されるのも仕方ないよね。そうか…物語のもうひとつのキーとなる“演じる”事による生きていく術として子供たちは様々なメディアやコンテンツから学んでいるのだとしたら、やっぱり教育の問題は学校だけには限らない我々にも責任はあるのだ。鈴木先生を演じた長谷川博己の如何にも演技がかった熱血教師ぶりが実在しそうでリアル。
「世の中を息苦しくするお手伝い」と鈴木先生は少数派の行き場を無くす世間の風潮に対する学校のスタンスに嘆く。