渾身 KON-SHIN
一生に一度の真剣勝負、誇りをかけた大一番。その日、島は一つになる―
2012年 カラー ビスタサイズ 134min 松竹配給
エグゼクティブプロデューサー 石塚晴久、柴崎文雄 監督、脚本 錦織良成 原作 川上健一
撮影 松島孝助 音楽 長岡成貴 照明 吉角壮介 美術 稲垣尚夫 録音 西岡正巳 編集 日下部元孝
出演 青柳翔、伊藤歩、甲本雅裕、宮崎美子、笹野高史、中村嘉葎雄、財前直見、高橋長英、隆大介
中村麻美、真行寺君枝、栗野史浩、春田純一、松金よね子、上田耕一、不破万作、桜木健一
2013年1月5日(土)島根、鳥取先行公開 /1月12日(土)全国公開
(C)2012「渾身」製作委員会
家族や島への思いを抱きながら、古くから20年に一度行われてきた古典相撲大会に臨むある家族を中心とした人間模様を描く感動作。自身の出身地・島根県を舞台に『白い船』『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』を送り出した錦織良成監督が、隠岐古典相撲を題材にした川上健一の同名小説を映画化。隠岐諸島の全面協力のもと、出雲大社に次ぐ格式を誇る隠岐一之宮・水若酢神社の境内に、三重土俵の準備から、練り歩きに土俵入り、クライマックスの大激戦まで、20年に一度の遷宮相撲を完全再現。隠岐古典相撲の魅力を隅々まで堪能できるのは、今作ならではの醍醐味だ。地元で実際に相撲に励む若き力士たち、熟練の行司や呼出したちも熱演。4000人を超える観客はすべて地元の人たちというリアリティーの中、迫力ある相撲シーンの撮影に成功。さらには隠岐諸島出身の現役力士、隠岐の海も特別出演し、映画に華を添えているのも見どころのひとつだ。鍛え上げられた生身の肉体のぶつかり合いと、土俵上に飛び交う2トン余の塩を要しての熱狂的な応援合戦は、大画面にふさわしいスペクタクル感に溢れている。古典相撲に挑む夫・英明役に劇団EXILEの青柳翔、夫の再婚相手で芯の強い多美子を『スワロウテイル』『カーテンコール』の伊藤歩が演じる。主人公を助ける若きカップルを『天と地と』の財前直見と『踊る大捜査線』の甲本雅裕が好演。また、『しあわせのパン』の中村嘉葎雄、『武士の一分』の笹野高史らベテラン男優陣が脇を固めて重厚な演技を見せている。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
島根県・隠岐諸島の島で生まれ育った多美子(伊藤歩)は英明(青柳翔)と結婚。そして病死した英明の先妻で、多美子の親友でもあった麻里(中村麻美)の娘で5歳になる琴世(井上華月)とともに、仲睦まじく暮らしていた。傍目にも微笑ましいほど多美子になつきながらも、琴世はまだ多美子を「お母ちゃん」とは呼べずにいる。今日は、20年に一度の水若酢神社の遷宮を祝う古典相撲大会の日。島で生まれ育った多美子にとって、古典相撲はもちろん大切な伝統行事にほかならないが、この日の大会はそれ以上に特別な意味をもっていた。かつて、麻里との結婚を選んだことで、親が決めた婚約者との縁組を破談し、駆け落ち同然に島を飛び出した英明の、島での評判は決して芳しくない。以来、勘当された両親とは顔も合わせることなく、娘・琴世を会わせることさえできていない。それでも島が大好きだからと苦労を覚悟の上で、英明と麻里は島での暮らしを選び、島に住居を構えたのだった。そして相撲をはじめた英明は最高位である正三役大関に選ばれる。一生に一度の大舞台に最高位として上がるのは、大変な誉れである。対戦相手の島一番の実力者を前に、地域の名誉や家族への思いを胸に土俵に上がる英明の姿を、多美子は喜びと不安が入り混じりながらもじっと見つめるのだった。
土俵がある。東西二人の力士が名前を呼ばれると客席から投げ込まれる大量の塩がまるで吹雪のように力士の頭を白く染めてゆく。そして時間いっぱい…“ズン”という音と共に全体重をかけてぶつかり合った二人の体からスローモーションでパァっと塩がはじけ飛ぶ松島孝助カメラマンによる映像美に思わず武者震い。狭い土俵を多角的に見せる演出もさすがだ。島根県の沖合いに浮かぶ隠岐諸島で古より伝わる“古典相撲”のクライマックスは夜通し行われる300もの取組の最後、明け方にやってくる。我々がテレビで知る“大相撲”は興行であり、本作で描かれる“古典相撲”は神の儀式…だから勝敗は問題ではなく取組は二度行われ、先勝した者は二度目は勝ちを譲り、必ず引き分けで終わるしきたりがある。「古典相撲を題材にした映画を作りたい」と十年来構想を練っていた島根出身の錦織良成監督だけに取組に至るまでのディテールや人物描写は実に繊細で丁寧だ。二十年に一度の“遷宮相撲大会”当日を主軸に最高位の大関に選ばれた主人公が出場するまでの経緯を回想シーンとして挿入する手法はオーソドックスながらも効果的。話の本質から逸脱することなくクライマックスに向けて徐々にボルテージを上げてゆく手腕は見事なり。
一度は島を駆け落ち同然に飛び出した(この時代に…これは島の因習に起因するところが大きい)主人公が家族と共に再び島で生きる事を決意。最初は冷ややかな目で見られていた主人公だが相撲に取り組むうちに周囲から認められ、遂には大関に推挙される。主人公を演じる劇団EXILEの青柳翔がクライマックスで土俵に上がった時に見せる表情が、いかにも島の男って感じで、ぴったりハマっていたのが驚いた。オーディションにやって来た青柳を見て一瞬で決まったという錦織監督の言葉どおり構えた時に発するオーラはハンパない。聞けば撮影の何ヶ月も前から相撲の稽古をしていたそうだが、がっぷり四つに組んだ時の筋肉の盛り上がりや腰の入り方など、さすがサマになっている。そして彼を取り巻く友人たち…娘を出産して間もなく死んでしまった主人公の妻の親友に扮した伊藤歩と主人公の娘(子役の井上華月の泣きの演技がとにかく上手い!)とのやりとりが微笑ましかったり、切なかったり…ところどころで思わずウルっ。あんな表情で「帰っちゃ嫌だ」なんて泣かれたら帰れないよ。この映画…実は脇役が素晴らしく、中でも甲本雅裕扮する主人公を怒鳴りながらも親身になってくれる先輩が出色の出来。いつの間にか主人公の努力に感化されて長年想っていた女友達にプロポーズする場面にホロリとさせられる。中村嘉津雄の演説の力強さに圧倒され、隆大介と高橋長英が大関の父として対峙する迫力等、それぞれベテラン勢に見せ場を作り、花を持たせる演出もシビレた。
「ただ勝てばいいのではない」冒頭、伊藤歩のナレーションで“古典相撲”を紹介する中でのセリフ。