きいろいゾウ
ロングセラー小説待望の映画化!愛する痛みを知る全ての人へおくる感動のラブストーリー。
2012年 カラー ビスタサイズ 131min ショウゲート配給
企画プロデュース 松本整、宇田川寧 監督 廣木隆一 脚本 黒沢久子、片岡翔 原作 西加奈子
撮影 鍋島淳裕 音楽 大友良英 照明 豊見山明長 美術 丸尾知行 録音 深田晃 編集 菊池純一
出演 宮崎あおい、向井理、本田望結、緒川たまき、リリー・フランキー、松原智恵子、柄本明
濱田龍臣、浅見姫香、大杉漣、柄本佑、安藤サクラ、高良健吾
2013年2月2日(土)“夫婦の日”より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
(C)2013西加奈子・小学館/「きいろいゾウ」製作委員会
いつか、この小説の『ツマ』役を演じてみたいです。」と小説の帯に寄せていた宮崎あおい。雑誌でおすすめの一冊として本作を紹介していた向井理。ふたりの思いがひとつになった作品が映画『きいろいゾウ』だ。原作は2006年に発表された西加奈子による同名小説。監督は、『ヴァイブレータ』『余命1ヶ月の花嫁』『軽蔑』などで男女の様々な愛の形を描いてきた恋愛映画の名手、廣木隆一。主人公のツマを演じた宮崎あおいは、「お話をいただけたことが何よりも嬉しく、自分が26歳になってこの役が演じられる年齢になったんだなあと改めて実感しました」と語るように、長年思い続けていたツマ役を全身全霊でを演じている。ツマを優しく見守るムコ役の向井理は、自分の過去と対峙していくという難しい役どころに卓越した演技力で挑んでいる。そして、脇を固めるのは、実力派俳優の柄本明と松原智恵子。リリー・フランキー、緒川たまきと共にツマとムコをとりまく夫婦を演じる。また、人気子役の濱田龍臣、浅見姫香、本田望結も出演。そして、劇中に登場する動物や植物たちといった声の出演に、大杉漣、柄本佑、安藤サクラ、高良健吾という豪華俳優陣も参加。また、映画を彩る海と山に恵まれた美しい景観は三重県(松阪市、伊勢志摩、南伊勢町)によるロケ。そして劇中に登場する料理は、TVドラマ「高校生レストラン」(NTV)のモデルにもなった三重県立相可高等学校が担当。主題歌は日本を代表するヴォーカル・グループであるゴスペラーズに決定、新曲となる「氷の花」はツマをイメージして書き下ろされたオリジナル楽曲である。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
幼い頃、入院生活を送っていた妻利愛子=ツマ(宮崎あおい)は、孤独な日々を癒すかのように絵本「きいろいゾウ」を大切に読んでいた。空想の世界で自由に旅をしながら絵本と対話するようになったツマは、木々や動物たちの声が聴こえるようになっていく。背中に大きな鳥のタトゥーが入った売れない小説家の無辜歩=ムコ(向井理)は、過去の傷を背負ったまま暮らしてきた。ある満月の夜、二人は出会い、すぐに結婚する。お互いに秘密を抱えていたが、それでも穏やかで幸せな日々を過ごしていた。だが、ムコ宛に届いた差出人のない一通の手紙をきっかけに、二人の関係は大きく揺らぎ始める。
主人公の妻は夫を「ムコ」と呼び、夫は妻を「ツマ」と呼ぶ…だって名字がそうなんだから。そしてツマは庭に咲く花や、近所の農家から時々脱走してくるヤギと会話する。一見、メルヘンチック(宮沢賢治のイーハトーブの世界にいる住人みたいな)で微笑ましい夫婦のようなのだが…いや、待てよ、どこか変だ。何故かオープニングから不安を伴った違和感が付きまとう。ツマを演じる宮崎あおいとムコを演じる向井理のほのぼのとした関西弁の裏に潜む何か。それは少しずつインサートされる衝撃的なカット(ムコの姉が首つり自殺をしていたという過去)から明らかにされていく。ひと気のない美しい海岸で服を脱いだムコの背中に彫られた鳥の刺青を見つめるツマの表情で、この映画に付きまとう違和感の意味が判明した。あぁ、そうか…この夫婦はお互いの過去を知らないのだ。実際、ツマも幼い頃ずっと入院していたことを話していなかった。確かに夫婦だからと言ってソッとしておいて欲しい事だってある。しかし、ある日ムコに届いた差出人不明の手紙から二人のアンタッチャブルの上に成り立っていた均衡が崩れ始める。満月に怯えるツマを元気づけた「欠けていってるから、月…大丈夫ですよ」という言葉とプロポーズで結婚を決めたツマにとって何よりも大切なのは過去よりも今だったはずなのに…。始まりは夢のようでも日常の現実が絡んでくると見たくないものだって見えてくる…当たり前の話だ。廣木隆一監督は彼女の未発達な部分を克服する姿に焦点を当てて、本当の「妻」に成長するまでを描いている。
それにしても、ツマに扮した宮崎あおいのホンワカムードのコメディエンヌぶりは実にイイ。『ツレがうつになりまして』や『オカンの嫁入り』で見せたユルさは本作には必要不可欠なものだった。分かり易い関西弁で、厚かましい動物たちに入れるツッコミは彼女らしさが前面に出た自然体の演技で好感が持てる。自分の話を聞いてくれない夫に対する不満を爆発させてビービー泣きじゃくる演技は最高だ。この中盤辺りからムコへの不信感が徐々に芽生えはじめて夕食時の会話が噛み合わなくなってくる。話は変わるが夕食時に出てくるツマの手料理を“高校生レストラン”のモデルとなった学校の生徒が作ったもので、ちくわの煮物なんか美味しそうだった…これは余談。本作の舞台となる三重県の田舎にある夫婦が暮らす一軒家は重要なアイテムとなっており、ムコの書斎と二人の寝室、食卓と土間の位置関係を巧みに夫婦の距離感を表すように仕立てていたのには感服する。穴の開いた蚊帳とか漏水する水道の蛇口とか小物の使い方も上手い。それからこの家に出入りする近所の人々…なかでも認知症の妻と寄り添って暮らす柄本明扮する隣人夫婦のエピソードが胸を打つ。後半、自分の過去に再び向き合うためにムコは家を出て行くのだが、ラスト近く天を仰いで「ムコさんを返してください」と懇願するツマをアップで捉えた時の清らかな表情に心地よい…どこかホッとさせられたような感動を覚える。
「たくさん恥ずかしい事をして、キチンと子供をやってから大人になろうと思います」濱田龍臣演じる近所に住む不登校の少年が克服した時に言うセリフ