四十九日のレシピ
母が遺したレシピに導かれ、母の人生を旅する、49日間の感動の物語。
2013年 カラー ビスタサイズ 129min ギャガ配給
エグゼクティブプロデューサー 小西真人 監督 タナダユキ 脚本 黒沢久子 原作 伊吹有喜
撮影 近藤龍人 美術 林千奈 音楽 周防義和 録音 小川武 照明 藤井勇 主題歌 安藤裕子
出演 永作博美、石橋蓮司、岡田将生、二階堂ふみ、原田泰造、淡路恵子、内田慈、荻野友里
中野英樹、小篠恵奈、執行佐智子、赤座美代子、茅島成美
2013年11月9日(土)全国ロードショー公開中
(C) 2013 映画「四十九日のレシピ」製作委員会
伊吹有喜のロングセラー小説を『百万円と苦虫女』のタナダユキが監督。死と真っ直ぐに向き合うことで、生きることの素晴らしさを際立たせる。主題歌を担当するのは、透明感溢れる独自の世界観で聴く者を魅了するシンガーソングライターの安藤裕子。ハワイアンを代表する名曲「Aloha‘Oe」に、オリジナルの日本語詩を書き下ろし、映画を優しく切ない歌声で包み込む。娘の百合子を演じるのは、『八日目の蝉』で日本アカデミー賞助演女優賞他映画各賞を総ナメにし、今や日本映画界を代表する演技派女優となった永作博美。実母亡き後の義理の母である乙美の想いに触れ、人として女として本当の幸せとは何かに気付いていく百合子の変化は、観る者の胸を打つ。無骨で口下手だが気持ちは熱く真っ直ぐな父の良平に石橋蓮司。また乙美の生前の願いを伝え、レシピの存在を教えるイマドキ女子のイモに二階堂ふみ、四十九日の大宴会の準備を手伝う日系ブラジル人の青年ハルに岡田将生と、今最も期待される二人の若手俳優が不思議なキャラクターを活き活きと演じ、スクリーンにユーモアを添える。そして優しすぎて人を傷つけてしまう百合子の夫に原田泰造。さらにベテラン女優の淡路恵子が、ひと癖ある役で魅せてくれる。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
突然、熱田家の母・乙美が死んだ。散らかった台所、埃だらけの茶の間。畳の上に寝転がる熱田良平(石橋蓮司)の視線の先には、妻乙美の遺影があった。そんな良平のもとへ、派手な服装のイモと名乗る少女(二階堂ふみ)が訪ねて来る。イモは勝手に乙美の部屋へ入って行き、乙美が生前に作っていたらしい“暮らしのレシピカード”を良平に突き付ける。イモが開いたページには、“四十九日のレシピ”と書いてあった。同じ頃、浮気して子供まで作った夫に、判を捺した離婚届と結婚指輪を置いて、重い気持ちを引きずったまま実家に戻った百合子(永作博美)の目に飛び込むビキニ姿で良平の背中を流しているイモの姿。すっかり面喰い誤解する百合子に対し、イモは乙美から自分が死んだら良平と百合子の手助けをし、みんなで楽しく呑んで食べての「四十九日の大宴会」をするよう頼まれたと言う。ある日、百合子と自分自身を励ますように、「やるぞ、四十九日の大宴会!」と良平は高らかに宣言する。乙美がパートをしていた自動車工場に勤めていた日系ブラジル人のハル(岡田将生)も加わり、四人は乙美の“人生の年表”を四十九日に貼り出すため、乙美の人生をたどり始める。
出掛ける夫に玄関でお弁当を手渡す妻。弁当箱を受け取った夫の手に漏れていたソースがベットリ。入れ直すわ、と謝る妻に「もうイイよ」と言い捨てて出て行く夫…日常にあるちょっとしたいざこざ。いつもと違うのは彼女はこの後、脳溢血で死んでしまうという事だ。突然の出来事に茫然とする夫・良平と、継母に感謝の気持ちを伝えられなかった娘・百合子。物語の中心にいるのは血がつながっていない母であり妻であり…残された夫と娘の思い出は、断片的で貧弱なものばかり。そんな彼女の遺言らしきものが、生前ボランティアで勤めていた更生施設で妻が面倒を見ていたイモと名乗る女の子(今、イチオシの二階堂ふみが最高の演技を見せる!)によってもたらされる。「私が死んだら、四十九日は大宴会で賑やかに」まるで、自分の死期を予感していたかのような暮らしに役立つレシピカードに父娘は戸惑う。なかでも普段の妻がどんな行動をしていたのか知らなかった夫の思いは微妙だ。次々とイモから教えられる妻の生活は初めて見聞きするものばかりでショックを隠し切れない。こういった頑固な初老オヤジが、あたふたする姿を演じたら石橋蓮司はやはり上手い。
舞台となるのは、岐阜県の田舎町にあるフツーの一軒家。目の前に川が流れて、近所にあるバス停が最寄りの交通手段というロケーションがイイ。『パーマネント野ばら』や『ノン子36歳(家事手伝い)』などの地方の住宅地を舞台にした作品を手掛けてきた近藤龍人カメラマンの映像に収められたほのぼのした空気感もリリカルで、とても良かった。そんな熱田家で繰り広げられる出来事が、ほとんど茶の間を中心に構成されているというのが重要なポイントだ。かつてホームドラマの代名詞でもあった茶の間の風景にいるのは父娘以外は血のつながっていない他人同士。中盤から入ってくる岡田将生演じる日系ブラジル人三世の若者に家族的な感情を抱く父の変化がサラリと描かれているのに好感が持てる。特に、彼が職場で教えてもらったという日本語を聞いた父が「お前、いじめられているのか…」と理解するくだりはグッとくる。一見、『赤い文化住宅の初子』や『百万円と苦虫女』のタナダユキ監督にしては珍しくストレートな題材?と思っていたのは間違いだった。その根底には「家族は血が繋がっているから家族ではない」というテーマが流れているのが見えた時点で、あぁナルホド…と納得。最終的に百合子が不倫相手と夫との間に出来た子供を引き取って、やり直す道を選び家を出て行く姿に思わず拍手を送りたくなった。
後半は、書きかけの自分史を一枚も書けずに逝ってしまった妻のために四十九日までに妻の年表を作る物語が核となり、現在と過去が効果的にシンクロされる。一度、見合いを断わった良平を訪ねてくる若き日の妻。幼く多感な娘のために再婚を躊躇っていた良平に手作りの着せ替え人形を手渡す妻の誠実さに思わず玄関を飛び出し幻影を追いかける現在の良平。上手いなぁ…と、感心したのは、現在の良平を若き良平が追い越して、過去へリンクする実に映画的な演出手法だ。レシピに書かれたバターたっぷりの塩ラーメンや朝市のイワナなど小道具としての食材の使い方も上手だった。
「この部屋って老けた女の子みたいね」久しぶりに実家に戻った百合子が自分の部屋を見回して一言。今回も安定感のある永作博美の演技…さすがだなぁ。