魔女の宅急便
見知らぬ町で1年間暮らす。それが魔女修行の掟なのです。
2014年 カラー ビスタサイズ 108min 東映配給
エグゼクティブプロデューサー 森重晃 監督、脚本 清水崇 脚本 奥寺佐渡子 原作 角野栄子
撮影 谷川創平 美術 岩城南海子 音楽 岩代太郎 録音 深田晃 照明 金子康博 主題歌 倉木麻衣
出演 小芝風花、尾野真千子、宮沢りえ、広田亮平、浅野忠信、山本浩司、新井浩文、筒井道隆
吉田羊、YURI、寿美菜子、LiLiCo
2014年3月1日(土)より全国ロードショー公開中
(C)2014「魔女の宅急便」フィルムパートナーズ
魔女の血を引く少女キキは13歳になり、一人前の魔女になるための決まりに従い、黒猫のジジとほうきに乗って旅に出る。やがて辿り着いた海辺の町コリコでキキは、お届けもの屋「魔女の宅急便」を始めるのだが…。1985年、角野栄子により誕生した『魔女の宅急便』。児童文学の世界的ロングセラーとして愛される本作は、1989年に宮崎駿によりアニメーション映画となり、空前のヒットを記録。さらに1993年には演出家・蜷川幸雄の手でミュージカルに。そして2009年、シリーズ完結を機に「実写化を」という原作者の強い思いにより、初の実写映画化が決定。2014年春に全国公開される。主演は全国オーディションで抜擢された、原作のキキさながらに天真爛漫、原作者もお墨付きの新人女優・小芝風花。そして、監督に『呪怨』の清水崇、脚本に『おおかみこどもの雨と雪』の奥寺佐渡子。初顔合わせの俊英たちが、ドリーミングな映像の中、きらきらと輝きながら今を生きる少女の姿を丁寧に綴っていく。さらに、おソノに尾野真千子、とんぼに『あの空をおぼえてる』の広田亮平、キキの母コキリに宮沢りえ、父オキノに筒井道隆と、夢のキャスティングが実現した。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
キキ(小芝風花)は、魔女の母コキリ(宮沢りえ)と普通の人間の父ユキノ(筒井道隆)との間に生まれた女の子。キキは「13歳の満月の夜に旅立ち、魔女のいない町で1年間修行する」という古くからの決まりに従い、黒猫のジジを連れてひとり立ちの旅に出ることに。キキはキレイな海に囲まれた海辺の町コリコに辿り着く。キキは活気づく港町を一目見て気に入り、この地で修行することに決めたのだった。そして、パン屋のおかみをしているおソノさん(尾野真千子)に気に入られ、居候させてもらうことになり、キキはホウキで空を飛べる技を活かして、お届けもの屋『魔女の宅急便』を始めるのだった。
ジブリアニメの名作『魔女の宅急便』が実写化される、しかも監督は清水崇らしい…という一報の中にあった監督の名前に違和感を感じたのは筆者だけではあるまい。まさか、大胆にイメージを変えてダークファンタジーになっちゃうの?だが…映画が始まって間もなく、主人公キキが住む崖に点在する村の映像を見て、そうした懸念は一気に吹き飛んでしまった。人間と魔女が共存するパラレルワールドで、魔女の修行をしている少女の生理をサラリと取り入れながら清水監督はこの物語を少女の成長記にしてしまった。幾多の失敗や心無い人間の魔女に対する偏見に落ち込んだりしながら、自分が特殊な能力を持つ魔女である事を自覚するまでの少女の自立をフェミニンなケレン味を画面の端々に交えながら描く絶妙なバランスに、思わず上手い!と何度膝を叩いてしまった事か。これは、アニメ『時をかける少女』や『おおかみこどもの雨と雪』など一連の押井守作品で見せた乙女チックな洒脱さを得意とする奥寺佐渡子の脚本に因るところも大きいが…。
冒頭のホウキに乗って人間社会に旅立つ高揚感から始まり、嵐の海を病気のカバを吊りながら隣島にいる獣医の元まで運ぶクライマックスに至るまで緩急自在の飛行シーンは申し分ない。思えば、アニメの実写化の中でも本作ほど題材が豊富なものは無いだろう。キキが空を飛ぶ姿を主軸に置いてドラマが展開されるわけだが、実写であるがゆえに「童話の絵空事ではない世界で生きる人間を描きたかった」という清水監督の思いが彼女をとりまく少年少女たちの幼い嫉妬を描く事で、奇妙な世界観を作り上げていた事は確かだ。(そう言えば、冨樫森監督の『鉄人28号』でも同じように感じたなぁ)そして、空を自在に飛び回るキキの躍動的な飛行シーンにおいては、小芝風花のアイドル性と合間って、観ているこちらも自然と顔が綻び胸が高まる。また、清水監督は実写の特性を活かして様々な風を視覚的に表現する事で、空を飛ぶロマンを掻き立ててくれる。それは、キキの頬を柔らかくくすぐりながら通り過ぎる風だったり、ホウキに付けたたくさんの洗濯物を靡かせる爽快感溢れる風だったり。ホラーの巨匠が持つ豊かなイマジネーションに感服しながら、そう言えば『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンもホラー出身だったなぁ…等とホラーはファンタジーの原点なのかも?と思ったりする。
キキが修行の場所として選んだ港町コリコの造形もイイ具合に現実と非現実が入り混じった街並み(ロケ地は小豆島)を時には空高く舞い上がったキキの視線から見せたり、レトロな商店街をホウキで移動するキキをカメラが一緒にパンしたり、実に楽しく魅力的に捉える。朝日を浴びる午前のフルーツパーラー的な清潔感に溢れた街をバックに、笑ったり、泣いたり、ふてくされたり、小芝風花のリリカルな魅力をチョイチョイ見せながら、クライマックスで嵐の海へと飛び立たせる。その絶妙な呼吸、盛り上げ方…実に見事だ。嵐の海に飲まれそうになるキキを救うYURIが歌う劇中歌“VOICE”が効果的に使われて、思わず手に汗。いやはや…実写版『魔女の宅急便』、思いがけないご馳走であった。
「私…パンだって焼けないし、自転車だって乗れない。そういうのが全部魔法に見える」キキが人間の少年に言う。自分が出来ない事を他人が出来るのって、魔法と言えば魔法のようなものかもね。