僕等がいた [前篇・後篇]
神様― どうか、彼を守ってください。…それが、私の祈りでした。
2012年 カラー ビスタサイズ 123min 東宝、アスミックエース配給
プロデューサー 川田尚広、山崎倫明 監督 三木孝浩 脚本 吉田智子 原作 小畑友紀
撮影 山田康介 美術 花谷秀文 音楽 松谷卓 録音 矢野正人 照明 川辺隆之 編集 坂東直哉
出演 生田斗真、吉高由里子、高岡蒼甫、本仮屋ユイカ、小松彩夏、柄本佑、比嘉愛未、須藤理彩
麻生祐未、円城寺あや、滝裕可里、緑友利恵、長部努、藤井貴規
(C) 2012「僕等がいた」製作委員会 (C) 2002小畑友紀/小学館
2002年から小学館「月刊ベツコミ」にて連載されて累計発行部数1200万部を突破した小畑友紀の人気コミックを『ソラニン』の三木孝浩監督が映画化。前後篇として製作され、邦画としては初の2部連続公開となった。脚本は『クローズドノート』の吉田智子が手掛け、原作のセリフが持つ詩的情緒を生かしている。北海道と東京を舞台に純粋で繊細な男女が織りなす、青春の過渡期の壮大な“純愛回想録”を描く。撮影を担当した山田康介の瑞々しく透明感のある映像で多くの観客の涙を誘った。出演は『源氏物語 千年の謎』の生田斗真、『カイジ2 人生奪回ゲーム』の吉高由里子、『ワラライフ!!』の高岡蒼佑、『ワイルド7』の本仮屋ユイカ、『猿ロック THE MOVIE』の比嘉愛未。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
北海道、釧路。久々に帰省した高橋七美(吉高由里子)は、廃校となる母校の屋上に一人佇み、あの頃のまぶしい記憶を想い浮かべる。高2の新学期、七美は矢野元晴(生田斗真)とこの屋上で出会った。クラスの女子のほとんどが好きになる人気者だが、時折さびしげな表情を浮かべる矢野に、七美もいつしか惹かれていった。矢野の親友・竹内(高岡蒼甫)から、矢野が死別した年上の恋人・奈々との過去を引きずっていると聞き、思い悩む七美だが、矢野への想いがおさえきれなくなり、生まれて初めての告白をする。一途な想いを貫く七美に対し、矢野は少しずつだが心を開いていった。しかし奈々の幻影と、矢野に想いを寄せる奈々の妹・有里(本仮屋ユイカ)の存在が、ふたりの間に立ちふさがった。互いに想いをぶつけ合い傷つきながらも、ついに未来を誓いあったふたり。しかし、幸せな日々もつかの間、矢野は東京へ転校することになり、更なる試練が襲いかかるのだった。6年後、東京。大学を卒業し出版社に勤め、忙しい日々を送る七美。七美のそばには、矢野ではなく、彼女を見守り支え続けてきた竹内の姿が。ある日のこと、七美の出版社の同僚で、矢野の転校先の同級生だった千見寺から、矢野を目撃したと告げられる。空白の6年の間に矢野に何が起こったのか?なぜ七美の前から姿を消したのか?矢野への想いと竹内の愛情のあいだで揺れる七美。迷いながらも、七美はある決心をする。
思いがけず素晴らしい映画に出会えた喜び。まさに本作は、いい意味でこちらの予想が裏切られた嬉しい誤算の映画だった。(あくまでも原作を読んでいないので)ティーンエイジャーの恋愛ものといったら、平成に入ってからは、長澤まさみを有する東宝の一人勝ち(明らかに『世界の中心で愛を叫ぶ』のヒットに因るもの)だったが、まさかアスミックからこれほどカタルシスを感じさせる恋愛映画が登場するとは意外だった。前編・後編の二部構成となっているから観る前は、さぞかし壮大な恋愛ドラマ(最近の若年層向けの作品にありがちな)が展開されるかと思っていたのだが…三木孝浩監督は主人公たちの微妙な感情の動きを丁寧に描写する事で身近にありそうな等身大の恋愛ドラマを作り上げている。恋愛映画で大切な要素は二種類あって…(1)現実味は無いが主人公の激情型恋愛(時には悲恋)に憧れる。または、(2)分かる分かる…と主人公の行動に共感出来る。本作は間違いなく後者の方だが、おかげで感覚的に幅広い年代の支持が得られロングランとなり得たのだろう。公開から1ヵ月以上が経過して後編も既に始まっているというのにギリギリ滑り込みで観に行った角川シネマ有楽町は6割の入り(殆どが女性)だったので驚いた。
小畑友紀のベストセラー恋愛コミックにイイ歳をした男が果たしてついて行けるか?そんな懸念は始まって5分も経たない内に跡形も無く消え去ってしまった。そうだ、こんな恋愛映画を観たかったんだ。韓国の『八月のクリスマス』台湾の『藍色夏恋』等…アジアには等身大の純愛映画が多く日本でも『檸檬のころ』『ハルフウェイ』といった作品がたくさんあるにも関わらずどうしても公開は単館系になってしまう。全国公開となるとあり得ない程ドラマチックな大事件が起きたりして純愛と呼ぶには「???…」な作品が多かったのも事実だ。ところが本作に登場する主人公たちは真っ直ぐ相手を見据え決してよそ見はしない。心が揺れたとしてもそれは相手を想うが故。ちょっと冷たくされたからといってすぐに別れて他の同級生とアッサリ付き合う…なんて事をしないのが好感が持てる。生田斗真扮す矢野元晴は死別した昔の恋人が実は裏切っていたというトラウマから恋愛に対して今一歩踏み込めずにいる。吉高由里子扮す高橋七美は、彼の過去を知った上で全てを受け入れる。七美が矢野に初めて自分の気持ちを告げる矢野の死別した恋人の卒業アルバムを見ながら「私…矢野の事が好きだ」と呟く場面がイイ。ブルーとグリーンのナチュラルな色調が主人公たちの瑞々しい気持ちを上手く表してた。
そうか…タイトルの「僕等」って矢野と七美の事だと思っていたけど、後編を観終わって二人の主人公を取り巻く母親や同級生、そして過去になった人たち全ての人生や存在をひっくるめていたのではないか?と思った。等身大でナチュラルな高校生カップルの恋愛を瑞々しい映像で綴っていた前編のクオリティーから後編は自ずとハードルが高くなって水準が保てるか興味津々だったが…結論から言うと、よくぞここまで見事にまとめ上げたものだと拍手を贈りたい。前編のラストでホームで矢野を見送る七美の意味深なモノローグから矢野に何が起きたのかせっかく築いた前編の世界観を後編はぶち壊す事なく成人した主人公たちの第二章という位置付けをしっかり果たしていた。
前編が愛を育む事に主題を置いていたのに対し後編のテーマはズバリ「存在」。本仮屋ユイカ(最高に可愛い!)演じる矢野の元カノの妹が姉の死以来、周囲の人間から自分の存在を否定されているように思って苦しむエピソードが矢野と七美の人生に大きな影響を与える。原作の世界観を若い俳優たちが壊す事なくむしろ命を吹き込んでいるのがよく分かる。前編に比べてヘヴィな内容となっているにも関わらずベタッとしたしつこさが無いのが好感が持てる。…というのも登場人物の考え方が一貫してブレておらず、だからこそ観客も納得して主人公たちの選んだ結論を受け入れられるのだ。矢野と七美が最後に再会するシーンは年甲斐もなく「やった!」と人知れず小さなガッツポーズを取ってしまった。本作から登場する比嘉愛未演じる東京での矢野の同級生・千見寺が秀逸。
「忘れたから新しい恋をするんじゃなくて、新しい恋をするから忘れられる」高岡蒼甫演じる匡史の姉が七美に、こうアドバイスする。