舞妓はレディ
あたし、舞妓さんになる。

2014年 カラー ビスタサイズ 135min 東宝配給
エグゼクティブプロデューサー 桝井省志 監督、脚本、作詞 周防正行 撮影 寺田緑男
美術 磯田典宏 装飾 松本良二 音楽 周防義和 作詞 種ともこ 主題歌 上白石萌音
録音 郡弘道 編集 菊池純一 照明 長田達也 振付 パパイヤ鈴木
出演 上白石萌音、長谷川博己、富司純子、田畑智子、草刈民代、渡辺えり、竹中直人、高嶋政宏
濱田岳、小日向文世、岸部一徳、中村久美、岩本多代、高橋長英、草村礼子、妻夫木聡、津川雅彦
徳井優、田口浩正、彦摩呂

2014年9月13日全国東宝系ロードショー
(C)2014 フジテレビジョン 東宝 関西テレビ放送 電通 京都新聞 KBS京都 アルタミラピクチャーズ


 卓越した観察眼と徹底した取材力、抜群のユーモアで驚きと笑いを生み出す周防正行監督が、20年前から温めていた『舞妓はレディ』。ロックンローラーが修行僧になる『ファンシイダンス』、学生相撲を描いた『シコふんじゃった。』に続いて、周防監督が目を付けたのは“舞妓”。まさに、日本が誇る「おもてなし」のプロフェッショナル。しかし、映画制作へ向けて取材を進めるも、イメージに合う女優が見つからず、長らく温存されることに。そして20年の時を経て、一人の少女が再び作品を動かす。主演の座を射止めたのは、鹿児島生まれの16歳、上白石萌音(かみしらいしもね)。その素朴な風貌からは想像のつかない、並外れた歌唱力で周防流シンデレラストーリーを体現。女優という道を一心に歩き出した姿は、ひたむきに芸を磨く主人公・春子の姿と重なる。京都の花街を舞台に、舞妓、芸妓、女将、馴染みの客たちが、唄って、踊って、舞いあがる、国民的エンタ―テインメント大作の誕生となった。


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 舞台は京都。歴史の古い小さな花街・下八軒は、舞妓がたった一人しかいないという、大きな悩みを抱えていた。そこへ、津軽弁と鹿児島弁のバイリンガルという、おかしな方言を話す春子(上白石萌音)という女の子が「舞妓になりたい」とやってきた。お茶屋「万寿楽」の女将・千春(富司純子)に一度は断られるも全国の方言を操るヘンな大学教授・京野(長谷川博己)と老舗呉服屋の社長・北野織吉(岸部一徳)の計らいで、仕込みさんとして働く事となった。その日から彼女は、コワーイ師匠や先輩たちに囲まれ戸惑いながらも、舞妓になるために大奮闘! しかし、厳しい花街のしきたり、唄や舞踊の稽古、そして何より慣れない言葉遣いに戸惑い、何もかもがうまくいかない。芸妓の豆春(渡辺えり)や里春(草刈民代)、舞妓の百春(田畑智子)たちが心配する中、ついに春子は声が出なくなってしまう。はたして彼女は一人前の舞妓になることはできるのか?


 人間の変身願望を柔らかく擽りながら、ラストでは心地よい達成感と主人公たちの心の成長を軽やかに描くのを得意とする周防正行監督。今どきの若者が(望む望まないは別として)ある特殊な専門職に就いて、すったもんだの挙句…挫折したり立ち直ったりを繰り返すシチュエーションコメディを次々と送り出してきた。お坊さん、アマチュア相撲の力士、社交ダンス…と、初めての体験をする主人公たちが、彼等にとって非日常的な世界に身を置く事になって新しい自分を発見する姿に観客もカタルシスを感じる。最近はシリアスな人間ドラマが続いた周防監督だが、今回選んだ題材は久しぶり(ちょうど『Shall we ダンス?』の頃に企画して20年温めたという)に、舞妓になりたいと京都にやってきた少女のサクセスストーリーだ。鹿児島と津軽訛りの少女が完璧な京都弁をマスターして舞妓としてデビューさせるため、一役買って出る言語学の教授…という設定は勿論、『マイ・フェア・レディ』である。(『舞妓はレディ』というタイトルのもじり方も稚拙な可笑しさがあってGOOD!)
 何よりも最近やたらと鼻についてきた原作ありきの日本映画界において、完全オリジナル脚本というのが嬉しい。(まさか『マイ・フェア・レディ』を原作とカウントはするまい)舞台となる架空の花街・下八軒を全てオープンセットで組んだり(美術監督・磯田典宏の見事な大仕事)、ヒロイン春子に新人・上白石萌音を起用したり…周防監督はスタジオシステムにあった映画の作りの基本に立ち返っているのかな?とも思ったりする。ミュージカル仕立てというのも意表を突いており、下八軒のセットの前で主題歌に合わせて舞妓姿で素晴らしい踊りを見せるエンディングのヒロインにグッと来たりして…。日本映画ではミュージカルは合わないと言われ続けてきたが、なかなかどうして三池崇史監督版『愛と誠』や園子温監督の『TOKYO TRIBE』等、最近になって秀作も多くなっている。その中でも『舞妓はレディ』が優れているのはミュージカルを抜いても充分に面白かったであろうと思える点だ。これは、周防監督の徹底したリサーチに裏付けされたセリフの妙からくるものに他ならない。
 もうひとつ特筆すべきは、ヒロインを演じる上白石萌音だ。まだ16歳ながら京言葉、 鹿児島弁、津軽弁の3つの方言を使い、更に歩き方から日本舞踊に至るまで舞妓としての最低限の所作をこなさなくてはならなかったのだから大したものだ。以前、大林宣彦監督は若手アイドルを主演にする際の演出論を「虚構で仕組んでドキュメンタリーで撮る」と表現されていたのを思い出した。撮影中にも彼等は常に成長しており、演出する側の意図さえも裏切って出てくる新鮮なゆらめきを捉える…こうしたスリリングな状況が映画にとって大事だというのだ。正に本作においても彼女が演じるヒロインが成長する物語と並行して彼女自身が女優として成長する姿が垣間見える…だから面白い。田舎から出て来たどうしようもないイモ娘に望みを託した大人たちから厳しい特訓の末に、明らかに変化する上白石萌音の表情に思わず目頭が熱くなる。日舞の厳しいお師匠さんが遂に認めてくれた時の踊り(…という演技として)なんか最高ではないか。

「言葉は考えるのではのうて、使こうて初めて身に付くんやで」京ことばに悩む春子に先生が言うアドバイス。その基本となるのが、“おおきに、すんまへん、おたのもうします”だ。

【周防 正行監督作品】

昭和59年(1984)
変態家族・兄貴の嫁さん

平成1年(1989)
ファンシイダンス

平成3年(1991)
シコふんじゃった。

平成8年(1996)
Shall We ダンス?

平成18年(2006)
それでもボクはやってない

平成22年(2010)
ダンシング・チャップリン

平成24年(2012)
終の信託

平成26年(2014)
舞妓はレディ




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