さらば あぶない刑事
ヨコハマの“伝説”がスクリーンに帰ってきた。
2016年 カラー ビスタサイズ 118min 東映配給
監督 村川透 脚本 柏原寛司 製作総指揮 黒澤満 音楽 安部潤 撮影 仙元誠三 照明 椎野茂
美術 山撫G満 録音室蘭剛 編集 只野信也 装飾 大庭信正 アクション監督 高瀬将嗣
出演 舘ひろし、柴田恭兵、浅野温子、仲村トオル、吉川晃司、菜々緒、木の実ナナ、ベンガル
山西道広、伊藤洋三郎、長谷部香苗、小林稔侍、夕輝壽太、吉沢亮、入江甚儀、片桐竜次
2016年1月30日(土)全国公開
(C) 2016「さらば あぶない刑事」製作委員会
1986年のテレビドラマ放送開始から30年、放送当時最高視聴率26.4%を記録し、当初半年の放送予定が、あまりの人気に1年に延長されるなど社会現象にもなった伝説的な国民ドラマ。舘ひろし・柴田恭兵の人気ぶりは圧倒的で、ロケ地である横浜に人が溢れかえり、ロケ隊が数百人のファンに囲まれて撮影が中止になることもしばしば。仲村トオル・浅野温子ほかレギュラー陣とのコンビネーションで創りあげたオリジナルな世界観は、既成の刑事ドラマの殻を軽く破り、刑事ドラマのサスペンスとコメディ&アクションのエンターテインメント性との奇跡的な融合を果たした。2012年のDVDマガジンの累計販売数120万部突破を受け企画がスタート。『まだまだあぶない刑事』以来10年ぶりとなる本作は、同シリーズ、同キャストの刑事モノ映画史の中では世界新記録となる。またゲストとして、ヒロインに抜擢されたのは、映画「白雪姫殺人事件」の菜々緒。シリーズ史上最凶の敵役を演じるのは吉川晃司。出演オファー段階より冷酷な中南米マフィアの役にこだわり、バイクアクションを自ら熱望。1ヶ月以上にわたる猛練習を経て、本家本元の舘に挑んだ。製作プロダクションは映画『蘇る金狼』『ビーバップハイスクール』など数々の名作アクションを手掛けてきたセントラルアーツ。監督はテレビから演出を手掛ける村川透がメガホンをとる。撮影は『野獣死すべし』など『あぶない刑事』シリーズでキャメラマンを務めてきた仙元誠三。脚本はテレビ版から劇場版に至るまでシリーズ中もっとも多くの脚本を担ってきた柏原寛司が集結した。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
横浜港署捜査課刑事のタカこと鷹山敏樹(舘ひろし)とユージこと大下勇次(柴田恭兵)は、定年退職が5日後に迫っていた。横浜港署捜査課の課長となった町田透(仲村トオル)の「定年前は殉職率が高いので、センパイたちには無事に退職してほしいんですよ!」という心配をよそに、タカとユージは銀星会の残党で今は新興のヤクザ闘竜会の幹部となっている伊能を追ってブラックマーケットを二人だけで襲撃したりとまだまだ暴れ放題!一方、元少年課で今や神奈川県警重要物保管所所長の真山薫(浅野温子)は、T企業の社長と結婚が決まったと大はしゃぎしている。そんな中、伊能が惨殺死体となって発見される。ロシア、韓国、中国、各国マフィアが入り乱れ、危険ドラッグや拳銃、あらゆる非合法の物が売買される巨大なブラックマーケットを仕切っていた伊能が殺されたことで、マフィアたちの危うい均衡も崩れ始める。タカとユージが嗅ぎつけたのは、キョウイチ・ガルシア(吉川晃司)と彼が率いる中南米の犯罪組織BOB。あらゆる犯罪に手を染め、死もを恐れぬ圧倒的な戦闘力と獰猛さで抗争相手を屈服、壊滅させてきたBOBが日本、ヨコハマに進出してきたのだ。捜査を進めていくうちに、この事件の渦中に、かつて自分が更生させた元不良グループのリーダー川澄(吉沢亮)がいることを知り、ユージは動き出す。そしてタカの最愛の恋人である夏海(菜々緒)もまた米領事館に務めていた時代に、ガルシアと接点があることがわかる。港署が横浜港で押収した危険ドラッグを奪い返すために、港署重要物保管庫をBOBが襲撃!一気に事件は拡大する。それぞれの大切な存在を守り抜くため、タカとユージはかつてない凶悪な敵に命を賭して戦いを挑む決意を固める。BOBと横浜中の犯罪組織を巻き込んで、刑事人生最後となる死闘に飛び込んでいくのだった。刑事としてのタイムリミットはあと1日、果たして二人は無事に退職の日を迎えることができるのか。
刑事ドラマにファッション性を取り入れた『あぶない刑事』これで見納めとなる。それまで日本の刑事ドラマの主人公は『太陽にほえろ!』を筆頭に『西部警察』や『Gメン´75』等々どれもチームが主流であった。一方、海外ではバディものが主流で日本でも大ヒットした『刑事スタスキー&ハッチ』や『白バイ野郎ジョン&パンチ』を見た少年たちは、軽妙な掛け合いで犯人を捕まえる二人の刑事や警官の姿に魅了された。それから10年後…バディ刑事ものは女性層のファンを取り込む事に成功した。それが『特捜刑事 マイアミバイス』だった。日本でこんなオシャレな刑事ドラマは出来ないだろうと思っていたら、そこは無国籍アクションを得意とする東映セントラルの黒澤満プロデューサーと、松田優作の遊戯シリーズでタッグを組んだ村川透監督が再び顔を合わせ、以降、全シリーズを通して脚本を書く事となる柏原寛司を加えた最強トリオで、港町横浜を舞台として日本でもファッショナブルな刑事ドラマを作れる事を証明してみせた。
脚本の柏原寛司は、松田優作の『探偵物語』やアニメ『ルパン三世』などの脚本を手掛け、センスの良い台詞回しからスラップスティックなギャグに至るまで定評があった。こうしたカッコ良さと笑いを両立(あの時代は更にエロス)させていたのが東映プログラムピクチャーであり、舘ひろし演じるタカと柴田恭兵演じるユージの小気味良いテンポの掛け合いと、浅野温子演じる奥山薫が繰り出すファンキーな笑いが、従来の刑事ものには無かった。そこに都会的なファッションが加わる事で、瞬く間に新しい世代のファンを呼び込んだ。勿論、私もその一人。あれから30年が経ち、タカとユージも65歳…歳も取るものである。毎度二人は死んだのではないか?と匂わせておきながら、次のシリーズでは死んでいなかった…という手法も今回だけは、定年という国の決まり(?)にはさすがに抗えず、とうとう最後を迎えることとなった。観賞に選んだのは、勿論、ご当地横浜にあるシネコン、横浜ブルク13。さすが、地元だけに、リアルタイムで観ていたであろうご年輩から、何故か若者の姿も目立った。
そういった意味で、刑事としての二人(ラストを見る限り違った形で再開する予感も無きにしも非ず)の見納めだけに、ストーリーも映像も派手な演出を控え、二人にフォーカスを当てた原点に立ち返った作りとなっている。冒頭間もなくブラックマーケットに乗り込む二人の映像がイイ。カメラマン仙元誠三は東映のハードボイルド作品で夜の撮影はお手の物だが、本作ではむしろ『セーラー服と機関銃』等の角川映画で見せていた質感を思い出させる。そこからの夜の横浜で繰り広げられるカーチェイスは35ミリフィルムで撮ったかのような画質で、正に鳥肌級の美しさ。広大なスタジオに組まれた美術監督・山撫G満によるセットからは古き良き日本映画全盛期の記憶を呼び起こす。
いま一度シリーズをテレビ時代から見直してみると、一番変わったのは横浜の街だった。当時は赤レンガ倉庫も観光用に整備されてはおらず、本牧も危険な匂いが漂う不良の街だった。桜木町はみなとみらいとなり、夜中に入ると警備員に怒られた赤レンガ倉庫もデートスポットとなった今、悪党どもが活動出来る場所はどこにあるのだろうか。…というところからも、タカとユージにとって、現代の横浜は、引退する丁度良い潮時だった気もする。それでも、ユージがモーターボートで大岡川を追跡するシーンで、昭和を象徴する建造物の都橋商店街が背後にチラッと映ると、やっぱり『あぶない刑事』は横浜だなぁ…と思う。
「長く居過ぎたね、この街に」ユージが何気なく言うセリフに、ひとつの時代が終わったのだと思う。