四月は君の嘘
それは、最も切ない嘘でした。

2016年 カラー ビスタサイズ 122min 東宝配給
監督 新城毅彦 脚本 龍居由佳里 原作 新川直司 製作 石原隆、古川公平、市川南 撮影 小宮山充
音楽 吉俣良 主題歌 いきものがかり
 美術 磯田典宏 照明 保坂温 録音 矢野正人 編集 稲垣順之助
出演 広瀬すず、山崎賢人、石井杏奈、中川大志、甲本雅裕、本田博太郎、板谷由夏、檀れい

2016年9月10日 全国東宝系にてロードショー
(C)2016映画『四月は君の嘘』製作委員会  (C)新川直司/講談社


 2011年5月から2015年3月にかけて月刊少年マガジン(講談社)で連載され、全11巻で累計発行部数400万部突破(2016年4月現在)、第37回講談社漫画賞受賞、フジテレビ深夜アニメ枠「ノイタミナ」でアニメ化(2014年10月〜2015年3月放送)と話題を呼んだ新川直司による漫画「四月は君の嘘」の実写映画化を果たした。本作のヒロインには『海街diary』で脚光を浴び、『ちはやふる-上の句・下の句-』『怒り』など映画主演作が続く広瀬すず。そんなかをりに惹かれていく天才ピアニストには『ヒロイン失格』『オオカミ少女と黒王子』など話題作が続く若手実力派俳優の山崎賢人。今、最も旬な二人が、初共演する青春ラブストーリー。さらに共演に『ソロモンの偽証』の石井杏奈、大河ドラマ『真田丸』に出演する次世代スター候補の中川大志と最高にフレッシュな4人の共演が実現!!監督は『僕の初恋をキミに捧ぐ』『潔く柔く』で若者の淡く揺れ動く心情を丁寧に描いた新城毅彦。脚本は数多くのヒットドラマを手掛けてきた龍居由佳里、撮影は『潔く柔く』に続き山崎監督と再びコンビを組む小宮山充が、それぞれ担当している。主題歌は、いきものががりが本作のためにミディアムバラードを書き下ろしている


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 完全無欠、正確無比、ヒューマンメトロノームと称された天才ピアニスト・有馬公生(山崎賢人)は、母の死を境にピアノが弾けなくなってしまう。高校2年生となった4月のある日、公生は幼馴染の澤部椿(石井杏奈)と渡亮太(中川大志)に誘われ、ヴァイオリニスト・宮園かをり(広瀬すず)と出会う。勝気で、自由奔放、まるで空に浮かぶ雲のように掴みどころのない性格—そんなかをりの自由で豊かで楽しげな演奏をきっかけに公生はピアノと“母との思い出”に再び向き合い始める。一方、かをりが抱える秘密にも大きな変化が訪れる。ようやく動き出した公生の時間。だが、かをりの身体は重い病に侵されていた。


 昨年、『海街diary』で映画デビューした広瀬すずに、果たしてどこまでが素なのか…絶妙なバランスの上に成り立つ自然体の演技から天性のアイドル性を感じたが、映画第3作目にしてコメディエンヌとしての新しい側面を早々に披露してくれた。その素質は既にCMで開花しており、少女らしいリアクションと、一生懸命さを前面に押し出した健気な演技で笑いを誘っていた。ところが今回挑むのは人気コミックの破天荒なヒロインで、ハジけた演技が要求される役どころだ。天才と称賛されながら母の死によって演奏が出来なくなったピアニスト・有馬公生を、再びステージに上げる天才バイオリニスト・宮園かをり。予測不能の型破りな演奏で周囲を掻き乱しながら、怒ったり笑ったり泣いたり…感情をストレートに表すキャラクターは、おおむねファンのイメージする広瀬すずをそのままに、見事、エンターテインメントな新境地を切り開く。
 厳しかった母の死から逃れられず、ピアノを弾けなくなった公生と、不治の病と診断され、死の恐怖と隣り合わせでいながら、生きる事に必死にしがみつくかをり。共に「死」と向き合いながら音楽という共通の目標に向かって歩き出す姿に、ジーンとくる場面が何カ所もあった。青春ドラマとしては、少々重くダークなテーマの新川直司が描く原作の本質を崩さずに、「生」の躍動感を抽出してバランスよく2時間という枠に再構築した龍居由佳里脚本は見事で、新城毅彦監督が得意とするカメラ演出と清潔感溢れる映像がマッチして、期待以上の作品に仕上がっていた。
 特にクラシックの世界から距離を置いていた公生が、かをりによって半ば強制的に表舞台に引きずり出されるくだりは、後に続く「天才の復活」という一大イベントに向けたドラマへと無理なくつなげて、実にスリリングな展開に興奮を隠す事が出来ない。公生が会場に入るだけで、かつて天才と呼ばれていたピアニストの出現にざわつく場内や、カフェにあったピアノで弾く「きらきら星」に皆が聴き入る店内の描写等々…原作ファンもイメージ通りで納得出来たのではないだろうか。かくして、かをりの演奏に衝撃を受けた公生は、ピアノを弾きたいという欲求に駆り立てられて行く。印象に残るのは、かをりに任命されてサン=サーンスの伴奏者として再び舞台に上がるシーン(筆者が原作で一番好きなエピソード)だ。新城監督のしたたかなカット割りで、二人の息遣いがこちらまで伝わり、思わず鳥肌が立ってしまった。
 思い返せば相米慎二監督の『翔んだカップル』から都会的な洒脱さを感じさせる青春映画は東宝のお家芸となっていた。平成になると『世界の中心で、愛をさけぶ』がエポックメイキングとなり今日のスタイルが確率された。薬師丸ひろ子、長澤まさみ…最近では本田翼や土屋太鳳など、ヒロインのアイドル性が重要な鍵を握っているのは変わらない。東宝恋愛映画の主人公を演じた女優は女の子からも共感される要素をちゃんと併せ持っているからヒットしたのだ。本作の二枚看板である山崎堅太も良い味を出しているのだが、どうしても全面から引いた役どころであるため、広瀬すずの緩急自在なスピード感に目が行ってしまうのはやむを得ない。でも、かをりを取り巻く公生と親友の嫉妬やら恋心やら…時には恋敵から女心の指南をされる交流は心地よい。そんな青春の1頁を古宮山充のカメラが引いたり密着したりする事で、男女の生理と心情的イメージをサラリと捉える事に成功している。

 勿論、セリフだけではなく、演奏シーンから二人の心情を感じさせなくてはならないのは言うまでもない。かをりがコンクールで演奏するパガニーニを大胆にアレンジして審査員長を激怒させるという導入部で、何と広瀬は軽やかなステップを踏むようにバイオリンの弦と弓を操ってみせたのは驚く。また、かをりの突然の欠場から伴奏者の公生が一人で弾く事となった亡き母の思いと訣別するキッカケとなるクライスラーの「愛の悲しみ」で見せる指さばきも素晴らしかった。二人は妥協せず何度も猛特訓を繰り返したそうだが、ここで思い出されたのは、成海璃子と松山ケンイチが天才ピアニストを演じた傑作『神童』だ。こちらの二人も1ヵ月間徹底してレッスンに時間を費やしたというが、両作品共に言えるのは画面から伝わってくるのは演技を超えた気迫だ。これは弾いたフリで、後は演技でカバーする…なんて小手先の技では伝わるもんじゃない。本作は、演技・映像・音楽が、三位一体となった青春映画の傑作である。

「下ばかり向いてるから、五線譜の檻に閉じ込められちゃうんだ」かをりに言われた公生は、この日を境に上を向いて歩き始める。

【新城毅彦監督作品】

平成18年(2006)
ただ、君を愛してる

平成19年(2007)
Life 天国で君に逢えたら

平成21年(2009)
僕の初恋をキミに捧ぐ

平成23年(2011)
パラダイス・キス

平成25年(2013)
潔く柔く

平成28年(2016)
四月は君の嘘




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