おにいちゃんのハナビ
この花火をずっと楽しみにしていた天国の妹へ。

2010年 カラー ビスタサイズ 119min 「おにいちゃんのハナビ」製作委員会
エグゼクティブプロデューサー 三宅澄、鈴木聡 監督 国本雅広 脚本 西田征史 撮影 喜久村徳章
美術 仲前智治 照明 才木勝 音楽 小西香葉、近藤由紀夫 主題歌 藤井フミヤ  編集 清水正彦
録音 渡辺真司 衣裳 小海綾美 ヘアメイク 酒井夢月
出演 高良健吾、谷村美月、宮崎美子、大杉 漣、早織、尾上寛之、岡本玲、佐藤隆太、佐々木蔵之介
塩見三省

(C)2010「おにいちゃんのハナビ」製作委員会


 2005年秋に放送されたテレビ・ドキュメンタリーで紹介されたエピソード―白血病と闘いながら年に一度の花火に思いを託す少女とその兄の実話を基に映画化。数多くのテレビドラマを演出、本作が初の劇場用長編映画となる国本雅広が監督を務める。そして『ガチ☆ボーイ』の西田征史が脚本を手掛け、喜久村徳章のカメラがクライマックスの花火を見事に捉えて、力強い感動の一遍に仕上げている。さらにラストで流れる主題歌を藤井フミヤが手掛け、更なる感動を呼んでいる。出演は『ボックス!』で共演を果たした高良健吾、谷村美月、『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』の宮崎美子と『BOX 袴田事件 命とは』の大杉漣が両親の役を好演している。2010年の上海国際映画祭において日本映画週間のオープニング作品に選ばれた。


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 白血病を患った華(谷村美月)の療養のため、5年前、須藤一家は東京から新潟県小千谷市片貝町に引っ越してきた。世界一の花火が打ち上げられる“片貝まつり”の日、半年間の入院生活を終えた高校生の華は、19歳の兄・太郎(高良健吾)が自室に引きこもっていることを知る。その夜、来年の自分たちの花火を盛り上げようと気勢をあげる成人会に遭遇した華は、太郎を成人会に参加させようと決意する。乱暴なまでの勢いで家から連れ出した太郎を成人会の集会所に連れていく華だったが、地元育ちでない太郎は入会を断られてしまう。しかし、妹の健気な後押しに勇気付けられた太郎は、新聞配達のアルバイトを始め、新しい生活をスタートさせるのだった。冬も近づいたある日、華の白血病が再発、再び入院生活が始まるが、容態は前回よりも確実に悪化していた。太郎はそんな華の思いに応えるべく成人会への参加を認めてもらう。だが華の容態はさらに悪化し、帰らぬ人となってしまう。華の死後、太郎は、華のために一人で花火をあげるべくアルバイトを増やし花火作りを始める。そして“片貝まつり”の日、太郎の花火が打ち上がり、赤一色に空が染まった。


 本作は紛れもなく谷村美月の映画だ。『檸檬のころ』で見せた団体生活に馴染めずクラスで浮いた女子校生を演じてから3年。作品ごとに着実に実力を伸ばしている谷村の待望の主演作となる本作では女優として次のステージへ踏み出した姿を見る事が出来る。彼女が演じる主人公・華が白血病で回復の兆しが見えたので退院してみると兄の太郎は引きこもりとなっている。元々人付き合いが苦手な兄は妹の病気のために卒業直前に新潟に引っ越して以来、友達も出来ずに引きこもってしまったわけだ。病を持っている華=谷村の明るい笑顔に、まずは圧倒されてしまった。冒頭間もなく、退院したばかりの彼女はタクシーの中から祭の準備をしている人々を見て興奮しながら、おもむろに頭を掻きながらカツラを外すのだ。そう、誰の目からも明らかに谷村は髪の毛を全て剃ったのだ。「かぃ〜」と目を細めて坊主の頭をポリポリ掻く彼女の表情を見て愕然としてしまった。映画を見る一週間前“グータンヌーボ”に出演していた素(す)の彼女を見たばかりなだけに、ある意味ショッキングな光景だった。テレビのバラエティーでは人見知りの女の子だった彼女が映画のカメラの前では180度真逆の明るい少女になってしまうのだ。
 谷村のおかげで難病もの特有(更に兄が引きこもりという重さに追い討ちをかける設定)の感傷的に涙を誘う雰囲気は全く感じられない。むしろ、病気が再発するかも知れないという爆弾を抱えながら彼女は生きる事を人一倍謳歌しており、その姿に清々しささえ感じる。退院してからの彼女は兄の更正に生活の大半を費やす。最初、華は部屋から一歩も出ようとしない兄にドア越しに話し掛けていたが、ラチがあかないと二人の部屋の間仕切りとなる家具を押し倒して強引に侵入してしまう。この時に彼女が見せる笑顔の奥には、健康でありながら無駄な人生を送っている兄に対する怒りが存在しているのが伝わってくる。凛とした出で立ちには決して可哀想という言葉は似合わない。むしろ自分のなすすべを見つけ出せずに“ただ生きている”兄の方が可哀想だ。エネルギッシュな華のペースで次第に兄が変化していくのが前半の見せ場となっている。新聞配達をする兄と荷台に乗って励ます妹を国本雅広監督は小気味よいテンポで描く。ここで兄を演じた高良健吾のオドオドした演技と谷村のハツラツとした演技が見事な化学反応を見せるのだ。
 そして中半…華の病気が再発してから兄は更なる変化を遂げる。妹のためにピンクの携帯電話をプレゼント(実は、この携帯電話が後で重要なツールとなる)するシーンは胸が熱くなる。そして後半、華が死んでから妹の夢だった花火を自らの手で造る兄の姿が描かれる。彼の行動の背景には常に華が存在しており、花火というクライマックスに向けて家族の思いが結集する演出が心地良く観客の心の琴線に響いてくる。国本監督の演出はセオリー通りで奇をてらう事がなく好感が持てる。妹の死を受け止めて、生きる大切さを噛み締める兄の姿に“生きること”の本当の意味を知るだろう。

「天国って圏外なのか?」兄が亡くなった妹の携帯に電話した時につぶやく切ないシーンのセリフだ。

【谷村美月 出演作】
フィルモグラフィー

平成16年(2004)
カナリア

平成17年(2005)
笑う大天使
東京ゾンビ

平成18年(2006)
かぞくのひけつ
酒井家のしあわせ
red letters
時をかける少女
海と夕陽と彼女の涙
 ストロベリーフィールズ

平成19年(2007)
死にぞこないの青
長い長い殺人
リアル鬼ごっこ
茶々 天涯の貴妃
魍魎の匣
檸檬のころ

平成20年(2008)
コドモのコドモ
おろち
神様のパズル

平成21年(2009)
ホッタラケの島
 遥と魔法の鏡
サマーウォーズ
蟹工船
おと・な・り
海の上の君は、
 いつも笑顔。

平成22年(2010)
行きずりの街
おにいちゃんのハナビ
十三人の刺客
明日やること ゴミ出し 愛想笑い 恋愛
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