共に歩く
つらくても離れられない3組の男女を描いた愛の物語。

2014年 カラー ビスタサイズ 81min ユナイテッドエンタテインメント配給
製作 村田亮、長田安正、菅谷英一、梶修明 プロデューサー 佐伯寛之 監督、脚本 宮本正樹
撮影 千葉史朗 照明 上野敦年  録音 光地拓郎 音楽 藤野智香 美術 吉野昌秀 編集 佐藤崇
出演 小澤亮太、入山法子、河井青葉、長島暉実、日向丈、染谷俊之、朝加真由美、螢雪次朗

2014年4月5日(土)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
(C)2014「共に歩く」製作委員会


 小学校の教員をしている哲也(小澤亮太)は、親から愛してもらえず精神的に不安定で束縛をしてくる恋人の明美(入山法子)をどう支えたらいいか分からずに悩んでいた。哲也の小学校に通うタケル(長島暉実)は、不安になると体を叩くなど、自分で作ったおまじないのせいで友達や母親の真由美(河井青葉)から気味悪がられていた。また、明美の母親の陽子(朝加真由美)はアルツハイマー型認知症を発症して、夫の定雄(螢雪次朗)への信頼に疑念を持ち始める。


 共依存―そんな耳慣れない言葉が映画の中に何度も出てくる。共依存については茨城大学人文学部教授の加藤篤志氏が書かれた著書「定義のようなもの」の一節に共依存について次のように説明されている。―「共依存者とは、自己自身に対する過小評価のために、他者に認められることによってしか満足を得られず、そのために他者の好意を得ようとして自己犠牲的な献身を強迫的に行なう傾向のある人のことであり、またその献身は結局のところ、他者の好意を(ひいては他者自身を)コントロールしようという動機に結び付いているために、結果としてその行動が自己中心的、策略的なものになり、しだいにその他者との関係性から離脱できなくなるのである」―例えば、幼い頃、母親の気を惹こうと具合の悪いフリをした経験はないだろうか?振り向いて欲しいという欲求ではなく、ある種の恐怖から大人になっても自分の感情や思いをストレートに伝えられず、こうした方法でしか表現できないとしたら…。
 自身の体験をベースに脚本を書いたという宮本正樹監督は、本作で三組の共依存者たちの姿を眈々と捉えている。大きな事件に発展するわけでもない…ただ常に不安感を抱き続ける登場人物たち。過去に体験したトラウマから強迫性障害に陥り、時には家族やパートナーだけではなく、自分自身を傷つけてしまう。彼ら(彼女ら)は被害者でもあり加害者でもあるのだ。さて、本作のように監督自身が当事者である場合、どこまで客観的に描けるか?が肝になってくる。あまり肩に力を入れ過ぎると訴えるべき事がボヤけてしまい独り合点の空回りした作品を過去に何度観たことか。その点において、宮本監督は一歩引いた目線を登場人物たちに投げかけており、あくまでも冷静に観客が理解する歩調に合わせてくれている。最初は他人事のような距離感を保ちつつ、物語が進むにつれ核心に一気に踏み込む大胆さも絶妙だ。
 物語の中心にいる小澤亮太演じる小学校教師の哲也は、入山法子演じる恋人・明美の常軌を逸した執着的な行動になす術もなく、ただ彼女の気持ちが落ち着くまで息を潜める…そんな生活を送っている。この二人の距離感がまず上手い。掛かってきた携帯に出ようとしない哲也に優しく「どうして電話に出ないの?」と問う明美。ここまでは、どこにでもありそうな恋人同士の光景なのに次の瞬間、ヒステリックに何か隠している事があるのではないか?と喚き、食器を投げつける。間違ってはいけないのは、彼女は決してストーカーではない。むしろ自分に自信が無い故に彼を失う事を極端に恐れてコントロール不能に陥るのだ。現在付き合っている恋人に今以上の愛を要求するのではなく安心を求めている彼女の行為は満たされる事が無い不毛の行為だ。
 そんな恋人たちのシークエンスと併行して語られるのが、哲也の小学校の生徒で自傷行為を続ける少年だったり、アルツハイマー型認知症となった明美の母との確執だったり…次第に縺れた糸がほどかれるように共依存になった過程が見えてくる。共依存から回復するための一歩を踏み出すのは自分自身であり、結果的にその背中を押してあげる役目となった哲也がある意味、宮本監督の目となり語り部となっているおかげで、一歩引いた冷静な視線で物語を構築出来ているのはお見事。大事なのは本作のラストは決して到達点ではなく、生きていく以上、単なる経過点であるという事だ。

「恐怖に自分から突入するんだ」哲也が共依存の教え子に言うセリフ。

【監督作品】

平成16年(2003)
うそつき由美ちゃん
20年後の約束

平成19年(2005)
オーディション・ザ・ムービー

平成21年(2009)

平成26年(2014)
共に歩く




Produced by funano mameo , Illusted by yamaguchi ai
copylight:(c)2006nihoneiga-gekijou