不老長寿
詐欺師とおばあちゃんの騙し合い。

2006年 カラー ビスタサイズ 15min
製作、監督、脚本、原案 緒方篤 撮影 長田勇市JSC 美術 桜井陽一
ヘアメイク、衣装 小堺なな 録音 永口靖 MA 吉田憲義 CD、編集 稲川実希 助監督 福士織絵
制作 常井美幸、西河文恵 撮影、照明 松石洪介、浅妻、容子 、清水八重子
出演 益岡徹、池田道枝


 新潟十日町に一人で暮らす老婆照子(池田道枝)の家に、ある日、配達の男(益岡徹)が訪れる。照子は男を幼友達と勘違いして大喜びするのだが、ところが男は「不老長寿」という高齢者を騙す偽物の薬を売る詐欺師だった。老女が自分を幼馴染みと勘違いしているのを良いことに幼馴染みのフリをして薬を売ろうとするのだが、老女は男に色々な注文を押し付けるのだった。果たして騙しているのは詐欺師なのか?


 最近、『脇役物語』にて長編デビューを飾った緒方篤監督が手掛けた短編である。タイトルとなっている“不老長寿”という薬(勿論、お年寄りを狙ったインチキ商品)の訪問販売員と一人暮らしのお婆ちゃんとの間で繰り広げられるやり取りを描いている。まず、この『不老長寿』というネーミングにセンスの良さを感じる。3番目の主役と言っても良いであろうこの商品は最後まで画面の隅っこに存在しているのが実に微笑ましく映る。現在、社会問題となっている老人をターゲットとした詐欺商法を逆手に取った緒方監督の脚本はウイットに富んでおり主人公たちが繰り出すテンポの良いセリフが心地良く響く。この主人公二人に演劇集団“円”のベテラン女優である池田道枝と日本映画に無くてはならない名バイプレイヤー益岡徹をキャスティングしたのがまず大正解。特にベテラン池田の眼光鋭い表情が素晴らしく、この表情がラストのドンデン返しに効いてくるのだ。
 また本作には日本映画を牽引する素晴らしいスタッフが集結しており、中でも撮影を担当しているのは『TATTO〈刺青〉あり』や『ひき逃げファミリー』等、80年代以降の日本映画で数多くの問題作を撮り続けた長田勇市である事に正直、驚いた。殆どのシーンが老女の家を舞台とした室内劇で色彩を抑えたアンバーな映像が家の古さと孤独な老人の生活感を見事に表現しており、さすがベテランの手腕に感動させられる。特に、益岡演じる詐欺師が玄関を開けた時に長い廊下の奥から池田演じる老女が歩いてくるシーンにおける奥行き感のある画面構成は完璧だ。まるでずっと監視しているかのような固定されたカメラワークはドキュメンタリーを観ているようだ。最近の長田カメラマンが手掛けた作品は『タカダワタル的ゼロ』や『こまどり姉妹がやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』といったドキュメントが続いていたから、本作におけるリアルな映像も熟練の成せる技か。
 (ここからネタバレ注意)ボケていると思っていた老女は実は…というドンデン返しは一見すると確かに痛快に思えるのだが、一方で老女の孤独感というものが浮き彫りにされており、高齢者社会の現実に寂しさを感じてしまったのは確かだ。

二人の名優による競演に、まるで長編映画を観たような満足感を覚える。

【緒方 篤監督作品】

平成17年(2005)
シャンパン

平成18年(2006)
不老長寿

平成22年(2010)
脇役物語




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