脇役物語
自分を見失いがちなすべての人に贈る人生讃歌。
2010年 カラー ビスタサイズ 97min ドリームオン
原案、脚本、製作、監督 緒方篤 脚本、キャスティング 白鳥あかね 製作 ニアリ・エリック
プロデューサー 宮川絵里子 エグゼクティブ・プロデューサー ニアリ・バラジ 共同プロデューサー 櫻井陽一
撮影 長田勇市 JSC 編集 大永昌弘 ヘアメイク 小堺なな 音楽 ジェシカ・デ・ローイ
出演 益岡徹、永作博美、津川雅彦、松坂慶子
柄本明、前田愛、佐藤蛾次郎、柄本佑、イーデス・ハンソン、角替和枝、江口のりこ、中村靖日
2010年11月1日(月)より29日(月)まで ブリリア ショートショート シアターにてロードショー ほか全国順次公開
『脇役物語』オフィシャルサイト http://wakiyakuthemovie.com
『ブリリア ショートショート シアター』 http://www.brillia-sst.jp/
バツイチの万年脇役俳優ヒロシ(益岡徹)は、劇作家として活躍する父(津川雅彦)の陰で、テレビドラマの脇役を細々とこなす日々をおくっている。そんな時、ウディ・アレン映画の日本版リメイクの主役を演じるオファーがヒロシの元に飛び込んでくる。やっとツキが回ってきたと喜んだのも束の間、ヒロシは大物議員の妻・黒岩トシ子(松坂慶子)の不倫相手に間違われ、そのスキャンダルがきっかけで映画出演の話は消えてしまう。そんなある日、ヒロシは駅のホームでスリの濡れ衣を着せられている女優の卵アヤ(永作博美)を助ける。ヒロシは前向きなエネルギーを持ったアヤに惹かれていく。その一方で、ヒロシは映画の主役を取り戻すため、黒岩夫人の本当の不倫相手を暴こうと奔走する。後輩に協力してもらって夫人の携帯電話を盗聴したヒロシは、ついに逢い引き現場をおさえることに成功するのだが…。
前作の短編映画『不老長寿』において各国の映画祭で絶賛された緒方篤監督の初長編映画が本作。緒方篤監督の経歴を見るとアメリカやヨーロッパを拠点に活動されており、ナルホド…確かに作品の構成(主題に対するテーマの設定の仕方と、言った方が正しいか)は欧米タイプだ。多分、日本で活動している監督が“脇役俳優”をテーマにした場合、シチュエーションムービーになっていたかも知れない。脇役の悲哀をもっと現実に則したリアルな描写を取り入れた人間ドラマが何となく想像できる。しかし、緒方監督は本作を徹底してコメディ映画にしてしまった。脇役俳優が主役をゲットするまでのサクセスものにせず、せっかく手に入れた主役の座を取り戻すために、あの手この手を繰り広げるあたりは実にアメリカ的だ。劇中、ウディ・アレンの映画を日本でリメイク(実現したら面白そうだが)という話が出てくるが本作の笑いはどことなくウディ・アレンっぽい。また、ソウル・バスを想起させるオープニングから洒落ていて、劇中出てくるスラップスティック調の笑いにしても外国で活躍してきた緒方監督らしさが随所に見られる。
観ている内に、あぁ…緒方監督は脇役俳優という職業のヒロシを面白可笑しく描く事で彼の人生そのものを明確化しているのでは?という狙いが見えてくる。仕事だけではなく私生活においても大物作家を父親に持ってしまったがために常に脇役に回ってしまう…人生全てが脇役だと諦めている人間そのものを描いていたのだ。…であれば、タイトルも『脇役物語』というよりも“脇役ヒロシの物語”の方が正しいかも知れない。それだけに、父親の津川雅彦がいつも誰かに勘違いされる息子の行く末を嘆くシーンは身につまされる思いで観てしまった。ちなみに英語のタイトルは「Cast me if you can(キャッチミー・イフ・ユー・キャンをもじった?)」“わたしを配役してみたら”だが、なるほど…こちらの方がシックリ来る。
主人公ヒロシを演じた益岡徹も名バイプレイヤーとして伊丹十三監督作品から大好きな俳優だから良かったのだが、全体のトーンからするとアメリカのインディーズで観てみたいなぁ…と改めて思う。特に政治家の奥さんとの不倫疑惑を解消するため、携帯を盗聴したり盗撮して逆に警察に捕まったりする下りは日本人が演じるよりもポール・ジアマッティあたりが演じると結構、ピッタリハマっていたような気がするのだが…。何度も同じ警官に捕まってしまう定番の繰り返しギャグは、もっと弾けても良かったと思うがこのシーンも日本人よりもエマ・ストーンみたいな女優が蹴りを入れたりした方が圧倒的にサマになるし面白いんじゃないか?…と勝手に映画を観ながら思ったりした。勿論、益岡、津川の親子役は申し分無くギョロっとした目が特長的なこの二人は本当の親子のように思えてきたほどだ。ちなみに、その他のキャスティングに関して言えば、佐藤蛾次郎をマネージャー役にするのは、ちょっと勿体無い気がした。脇役俳優を主人公とするのだから楽屋落ち(蛾次郎さんならたくさんありそうだが)みたいな小ネタを連発する先輩の脇役俳優なんていう蛾次郎さんも観たかったなぁ。江口のりこにしても“彼女ならでは”の独特のキャラが存在していて(本当は、決めつけてはいけないのだが、ファンとしてはそれを望んでしまうのを許して下さい)少なくとも公園で彼氏に振られて泣く…というイメージは違和感を感じてしまった。どうせだったら、泣いている彼女を憐れんだ目で見ている益岡に気づいた彼女が「何見てんねん、オッサン」を居直るくらいはしてもらいたかった。ただし、気の強い新人女優役の永作博美は彼女の持ち味と今まで見せたことがない表情がミックスされていて良かった。特に、何度もNGをくらって逆ギレする歯ブラシのCM撮影シーンは出色の出来だ。
「いつも同じなら単なるセレブでしょ?」いつも誰かに間違えられるとグチをこぼすヒロシに「それは、違う役を演じているから…」と励ますアヤのセリフ。