あんてるさんの花
昔ながらの街並みを残す横丁を舞台に繰り広げられる心温まるヒューマンファンタジー。

2011年 カラー シネスコサイズ 90min ムサシノ吉祥寺で映画を撮ろう!配給
エグゼクティブプロデューサー 松江勇武 プロデューサー 吉見秀樹 監督 宝来忠昭
脚本 ビーグル大塚 撮影 柳田裕男 録音 小林武史 衣裳 今野亜希 照明 野村直樹
出演 小木茂光、田中美里、螢雪次朗、徳山秀典、佐藤めぐみ、柳めぐみ、松本タカヒロ、葛西幸菜
森廉、藤村聖子、落合恭子、松田柊哉、菊井彰子、深沢敦、山田明郷

『あんてるさんの花』オフィシャルサイト http://www.anteru.jp/
(C)2012「あんてるさんの花」製作委員会


 武蔵野市吉祥寺駅前にある、昔ながらの町並みが残るハモニカ横丁。安藤照夫(小木茂光)は、ハモニカ横丁で居酒屋あんてるを営んでいた。地元コミュニティーラジオの収録にゲストとして参加したときに、花びらに含まれる特殊な成分に触ると幻が見える忘れろ草という不思議な花について知る。収録の帰りに近所の花屋さんに立ち寄ったところ、安藤はその忘れろ草を見つけ購入。忘れろ草が開花すると、店の常連客たちはその花びらに触る。彼らは忘れろ草が見せる幻を通して、大切な絆を見つける。


 日本各地にフィルムコミッションが立ち上がってロケ撮影の環境は格段に向上された。と同時に地域に住む人々が「我が町で映画を!」と映画誘致を呼び掛けて、ここ数年間で地方色の強い作品がどんどん出て来た。勿論、全ての作品が映画としてクオリティが担保されているわけではない。まるで観光スポットのためにストーリーが作られた無残な作品も少なくないのも事実だ。まず肝腎なのは縁もゆかりもない余所の地域に住む人々がその映画を観たいと思うか…だ。その点において宝来忠昭監督の『あんてるさんの花』は吉祥寺で映画を撮ろうというプロジェクトで制作された作品ながら吉祥寺の街を前面に押し出さず、ふと気づけば吉祥寺の空気感が仄かに漂う…という絶妙なエッセンスで描いているところに好感が持てる。例えば、夜の街を主人公が歩いているシーンで取り立てて特徴の無い風景の向こうにライブハウスのネオンが見えると、「あっ、そうかここ吉祥寺だった」程度の見せ方が実は一番リアルだったりする。様々な表情を持つ吉祥寺は本作のようなオムニバススタイルで展開される群像劇に向いているという事も分かった。確かに市川準監督の『ざわざわ下北沢』がそうであったように多様性のある街は登場人物が分散するオムニバスの方が街の奥行きや広がりがよく見える…というわけだ。こうした作品において重要なのは街の空気感や匂いを映像で表現するアングルや色のトーン。その点において、さすが柳田裕男カメラマンの映像は見事に様々な街の側面を的確に捉えている。「忘れろ草」というファンタジー性と雑貨の街というイメージから全体のトーンをナチュラルなグリーンとブルーで表現したところに名カメラマンたる由縁が理解出来る。極力、わざとらしいライティングを避けたという宝来監督の狙いも大成功で室内シーンでは窓から入る自然光によって出来る柔らかな影が何とも心地よい。
 また、花弁に触れると会いたい人の幻を見る花「忘れろ草」に触れた人々の群像劇という発想が面白い。吉祥寺のハモニカ横丁で居酒屋を営む小木成光演じる安藤照夫が購入した花を面白半分で花弁に触れた3人の客が過ごした数日間を描いた大人のファンタジーだ。奥さんと別居状態にある男の前には奥さんの幻が…プロのミュージシャンとして行き詰まっている女の子の前にはかつての仲間が現れる。この二人はそれぞれ相手に対してわだかまりを持っていて、幻が発する言葉は自分の言葉であるのだが、単なる自問自答という構図ではなく、相手もきっと同じ事を言うはず…と理解し合っているのがイイ。(勿論、和解の兆しを見せるのだが)そして物語を締めくくるあんてるさんの奥さんに扮した田中美里の自然体の演技が爽やかで印象に残る。欲を言えば、1人くらいは年輩の組み合わせがあっても良かった…と思うのだが。三人目のシークエンスで父が倒れて母から息子へ馴れないメールを何度も送るエピソードがあるが、例えば母親が息子を探しにあんてるさんのお店に行き花を触ると息子の幻が現れていつになく優しく母を気遣う。でも実はそれは夫の若い頃の姿だった…とかね?そんな後日談が観てみたい。まだまた話しは膨らませそうだ。

「出てきてくれてありがとう」柳めぐみが親友の幻に言うセリフ。ここ一番、大切な時に思い出せる友人って良いものだと思う。

【宝来忠昭監督作品】

平成23年(2011)
あんてるさんの花

平成24年(2012)
すべての女に嘘がある




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