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日本におけるアート・アニメーション界の第一人者として世界各国に根強いファン(いや、信奉者と言った方が正しいか)を持つ黒坂圭太監督が色鉛筆によるドローイングで10年以上もの歳月をかけて完成させた初の長編アニメーション映画『緑子/MIDORI-KO』。グロテスクでユニークなキャラクターが人生を謳歌する生命力に満ち溢れた本作はオタワ国際アニメーション映画祭を皮切りに世界三大アニメーション映画祭で大絶賛され、今もなお世界各国で開催されている映画祭で上映され続けている。去る5月19日から8日間、横浜にあるショートフィルム専門館“ブリリア ショートショート シアター”において『緑子/MIDORI-KO』が期間限定上映された。さらに26日には黒坂監督によるライブドローイングのイベントも行われ多くのファンが詰めかけた。そんなイベント直前の黒坂監督に『緑子/MIDORI-KO』制作時のお話を伺う事が出来たので紹介したいと思う。
手描きのアニメーションにこだわられた理由は「お恥ずかしい話、私は機械オンチでして(笑)そもそもCGとか使えたら、こういうものを作ろうとは思わなかったかも知れませんね。」という意外な答えが…。確かに、コンピューターでスマートに作り上げたとしたら、本作の特長でもある手描きによるノイズが無くなっていたであろう。不均一な(安定しない)描画によってキャラクターの鼓動や呼吸が表現され、窓から注ぎ込む陽射しに翳りが現れたり…と、アニメーションなのに気持ちが悪いほど(勿論、褒め言葉として)リアルな世界が実現しているのだ。「あの風合いを出すのに画材は何を使っていると思います?」と言って黒坂監督はおもむろに木炭を取り出して目の前のスケッチブックに線を描きそれを指でボカして見せてくれた。「指で伸ばしたり消しゴムで削ったりの作業を1枚の絵で何回も繰り返して、それを写真に撮る。その写真をつなげていくと、ああいった微妙な動きになるのです」と簡単に説明してくれたが、実際にはひとつのカットが完成するまで気の遠くなるような作業が繰り返されていたのだ。
最後に、黒坂監督が次回の作品についてこう述べていた。「本作のテーマは“食べる”という事です。食べるという言葉には色々な意味がありますよね。働いてお金を稼がなくては食べていけないわけで、文字通り食料を口にする意味もあるし、強者が弱者を食い物にする…といったすごく幅の広い意味を持っています。実は東日本大震災の後で、この映画を上映すべきか悩んだのですよ」そんな時、友人から言われた“この映画は大いなる生命讃歌だ”という言葉で、その迷いは消えたという。食べて排泄する…その一環した黒坂監督が描き唱えてきた生物の循環を真正面から捉える本作こそ、今の時代に必要なテーマだと思う。「ただ、震災前に考えていた企画は全て没にしてゼロからのスタートです」と言う黒坂監督の頭の中には、どうやら次の構想が形になり始めているようだ。 黒坂 圭太/Keita Kurosaka 1956年、東京都生まれ。 アニメーション作家。武蔵野美術大学映像学科教授。自主制作8ミリ映画『変形作品第2番』がPFF'85に入選。その後、『海の唄』(1988)、『みみず物語』(1989)、『個人都市』(1990)などの短編アニメーション映画を発表。MTVステーションID『パパが飛んだ朝』(1997)は大きな話題を呼び全世界で放映される。アヌシー国際アニメーション映画祭、オタワ国際アニメーション映画祭、BDA国際デザイン大賞など、国内外のコンペで多数受賞。2003年、世界アニメ作家35名のコラボレーションによる連句アニメーション映画『冬の日』第23句を担当。2006年、ロックグループ「Dir en grey」のPV『Agitated Screams of Maggots』を発表。近年は即興アニメやドローイングなどのライブ活動も精力的に行う。2011年2月、初の長編アニメーション映画『緑子/MIDORI-KO』が第3回恵比寿映像祭(東京都写真美術館)で日本プレミア上映、合わせて原画展示やライブパフォーマンスも開催される。同年9月から都内の映画館(アップリンク)で、3ヶ月に及ぶロングラン上映、現在なお全国各地の劇場や海外の映画祭で上映が続いている。2012年3月、著書『画力デッサン人体と女の子』(グラフィック社)を刊行、全国書店で発売中。 |
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