こうした作業を経て完成した『あたしの窓』だが、歌詞以外にも主人公が辛うじて間に合ったライブのアンコールで尾崎世界観が話すMCの言葉にまで二人のこだわりが詰め込まれている。実際のライブ会場で観客には映画のカメラが入っている事を隠したまま撮影を敢行。会場の最後尾で演技をする山田真歩にこっそり照明を当てながら撮影して、あの名場面が生まれたのだ。「だから当日来ていたお客さんは、いつもと様子の違うMCに、何かあったのかな?って、思ったかもしれません。アンコールに合わせてスタンバイして、MCが始まるタイミングで演技をする…という一発勝負だから、実はすごい緊張感だったんですよ」PVは大概、完成された楽曲ありきで脚本を書くか、物語をベースに歌詞を書くか…のどちらかだが、まさか同時進行でシンクロさせていたとは。いや、この手法って新しいようでいてよく考えればハリウッドの黄金期にMGMで作られていたミュージカルの作り方ではないか?本人が意図したのかどうかは別として、古い映画が好きだという二人らしい物語の組み立て方に、思わず納得してしまった。

 『イノチミジカシコイセヨオトメ』は、ピンサロ嬢とヒモのカップルが主人公だが、『あたしの窓』で時々出て来るクリープハイプ・ファンのカップルは前作の主人公だ。また、ラストでダルそうにライブの受付をしていた池松壮亮演じる青年を主人公としたのが次作『傷つける』である。全ての作品で共通しているのはクリープハイプの楽曲を使用している事と主要な登場人物。それぞれの主人公と脇役が入れ替わりながら各作品を構成している新しいタイプのミュージックShortだ。この三部作をひとつにまとめた長編映画『自分の事ばかりで情けなくなるよ』が、今年の10月26日より劇場公開を予定している。

 クリープハイプのメジャーデビューを機に、ミュージックShortに挑んだ松居監督は、初期衝動を成立させられるところにショートフィルムの魅力を感じたという。今回の『あたしの窓』の撮影が2日だったのに対して、準備期間に1ヶ月半を費やしている。「まだライブ当日は曲が完成している状態ではなくて、完成したのは、映画の仕上げをしている時。エンドロールで暗転するタイミングで完成した曲に変えているんです」まずは、CD発売日やライブの日が決まっているので、そこから逆算して撮影に臨んだという。「こういうのをやりたいと思った初期衝動を力技で成立させる事が出来ちゃう…そんなキラキラしたものがショートフィルムにはあります。これやりたいなと思ったら、それを一気に撮り切っちゃえば、初期衝動そのままの形として残る。そういった意味では、伝えたいメッセージを淀みがなく伝えられた気がします」

 「最近は、あせりますけど、自分が面白いと感じたものを大切にやろうと思っています」と、語る松居監督。「生活していくのは大変だけど、そっちの方がイイな…と。何よりクリープハイプが、しっかりバンドとして大きくなっているのを見ると、自分の信じたものが世間に評価されてる気がして嬉しくなります」10月12日には新作映画『男子高校生の日常』(ショウゲート配給)の公開が控えている。人気アニメの実写版となる『男子高校生の日常』は、男子校の中でもクラスの隅っこにいるような三人組が主人公。近隣の女子高と共同で文化祭をするという事になった事から、浮き足立ったりパニックったりする男子高校生のユルさや、トキメキを描いた青春コメディだ。「高校生の馬鹿で最強な感じって、外から見たら、キラキラして切ないんじゃないか?と思って…。彼らの会話には意味が無くても、その無意味さこそが青春の輝きだ!っていう感じになればいいなと思って作りました」続く10月26日には『自分の事ばかりで情けなくなるよ』の公開が相次ぎ、しばらくは松居監督から目が離せない状況が続きそうだ。

取材:平成25年6月1日(土)ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2013会場 ラフォーレ原宿ミュージアムにて


松居大悟/Daigo Matsui 1985年11月2日生まれ 福岡県出身
演劇ユニット“ゴジゲン”主宰、全作品の作・演出・出演を手掛ける。他、東京グローブ座プロデュース「トラストいかねぇ」作・演出、青山円劇カウンシル「リリオム」脚色・演出など。演劇のみならず、09年にはNHK「ふたつのスピカ」で同局最年少のドラマ脚本家デビューを果たす。沖縄映像祭2010では自身が監督・脚本を手掛けた『ちょうどいい幸せ』でグランプリ受賞。2012年2月商業映画の初監督作『アフロ田中』が公開、同作品は2013年7月スペインで開催された映画祭Asian Summer Film Festivalにて最優秀映画賞(ゴールデン招き猫アワード)と最優秀男優賞のW受賞。2013年は10月12日映画『男子高校生の日常』(監督)、10月26日映画『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(監督/脚本)の2作品の公開が控える。

【松居大悟監督作品】

平成22年(2010)
ちょうどいい幸せ

平成24年(2012)
アフロ田中
イノチミジカシコイセヨオトメ

平成25年(2013)
あたしの窓
男子高校生の日常
自分の事ばかりで情けなくなるよ




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