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同じ場所から獅子座流星群を眺めながら将来を語った三人の少年たちが12年の年月を経て、厳しい現実社会に対峙する姿が描かれる映画『リュウセイ』が東映系のシネコンを中心に順次全国公開されている。作品を手掛けたのは本作が長編デビューとなる谷健二監督だ。現在、37歳の谷監督が映画を撮ろうと思ったのは30歳になってから。そこから5本の短編を撮り、今回の長編がまだ6本目というのだから驚く。今まで映画関係の仕事に就いた事も無ければ、映画学校を卒業したわけでもない。限りなくノンキャリアに近い谷監督が、広告代理店で営業職に就きながら長編を完成させた…という点に興味津々で取材させていただいた。言わば、二足の草鞋を履きながら一般の劇場で上映される長編を作り上げてしまったのだから、普通に考えても時間的にかなりヘヴィーなのでは?と思ったが、谷監督から返ってきた答えは意外とアッサリだ。「今回の撮影は一週間でしたから、会社の休みを利用したので特に難しい事は無かったですよ」また編集作業も仕事が終わってから自宅で行っていたので、時間的な点で苦労した事は無かったという。「企画段階の時に職場の同僚や後輩に意見を聞けたりして…むしろ、プラスの方が多かったように思えます」 今まで手掛けた短編も含めて、映画を作る時はあまりテーマを決めないというのが谷監督のスタイルだ。「まず最初に主軸となる人物のキャラクター設定をしてから周りのキャラクターを作り上げていきます。それから、彼らがどう進んで行くか…を追っているだけなんです」そんな谷監督が映画を作る上でこだわっている点は何か?と尋ねると少し考えてから「僕が思う良い映画の定義というのは、観客が登場人物に共感出来て、アイツあの後どうなるんだろう?とか、この先の展開も見てみたいなと思える映画です」だからこそ、自分が共感出来る範囲の事しか描かないと言う。谷監督の作品で同世代の若者が多いのもそういう事からだ。「今、この場所、この時間に生きているシーンを大事にしたい。以前、映画祭に招待された時、海外のクリエイターが、何で映画を撮っているのか?という問いに対して、自分たちの国で起きている現在の事をフィルムに残していきたい…と、言ってたんです。僕も同じで、だからSFや時代劇を撮りたいとも思わない。平成26年の現代に生きている社会を少しでもアウトプット出来たらというのを心がけています」 元々、構想の段階から80分前後の映画を作るつもりだったと言う谷監督には、理想的なワンカットの尺数があるという。「1カット6秒くらいが理想的な長さですね。80分の映画だと800カットが理想的な長さだったので800カットのコンテを描いておけば、現場でもあまりブレる事が無いんです」谷監督は好きな北野武監督の映画を観て、ワンシーンとワンカットの尺数をカウントしたところ、この6秒という長さが観客にとって集中しやすいのでは?と感じたという。「これも自己流なので、分からないなりに進めています」と笑う谷監督は、俳優の演技にも現場では殆ど注文をつけないという。「キャスティングの段階から僕が思い描いているイメージでオファーさせてもらっている役者さんたちだから、いつも通りの演技をしていただければ…と思っているので、本読みもあまりしなかったです。また、撮りたいものがハッキリしていたので、現場はスムーズだったと思います」撮影もワンテイクかツーテイクくらいでテンポよく進んだため、逆に出演者たちが不安になった程だと谷監督は笑う。 今まで、結論を観客に預けるオープンエンディングが多かったが、今回は最初の長編だからこそゴマカシが効かない作品を撮りたかったという谷監督は、初めて結論を提示したエンディングにしたという。「長編を撮り終えて、もう少し充実感があるのかな?って思ったのですが、次に編集が控えていたので、クランクアップしても編集の事が頭にあって、達成感という感覚はなかったですね。今、自分の年齢で長編を撮らせてもらえるというのは、まだまだ先があるので、使命感の方が強く、まだプレッシャーが続いている感じです」既に次作の構想も練り始めているという谷監督。「僕の描く主人公たちは、20代から30代の男性に観てもらいたい人物ばかりなので、マーケティングの見地から言うと映画館にあまり来ない層なんですが(笑)。50代のオジさんや10代の女の子の話は書けませんが、自分が味わってきた体験を共感してもらえる作品を作り続けて行きたいと思っています」今、原作ものが多い日本映画の中においてオリジナル企画で勝負をかける谷監督の次回作が今から楽しみだ。 取材:平成26年2月15日(土) 中目黒某所にて 谷 健二/Kenji Tani 1976年、京都府生まれ。 大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主制作映画に携る。劇場公開作品『ブリュレ』では、アソシエイトプロデューサーも務めた。現在は、広告業界で働きつつ、自主映画の制作を続ける。『リュウセイ』がデビュー作となる。 |
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