リュウセイ
あの日、少年たちは何を願ったのか―

2013年 カラー ワイドサイズ 80min サモワール配給
監督、編集 谷健二 製作 河野正人 プロデューサー 赤間俊秀 脚本 佐東みどり
撮影 藤田秀紀 音楽 福田洋也 主題歌 三四六 美術 栗田志穂 録音、整音 辻祥子
出演 遠藤要、佐藤祐基、馬場良馬、緑川静香、小原春香、三浦力、阿部亮平、あいはら友子
寺坂尚呂己、仁科貴、片桐千里、暮川彰、四方堂亘、三四六

オフィシャルサイト http://ryusei-movie.com/

2014年2月15日(土) 新宿バルト9他、全国順次公開
(C)2013「リュウセイ」製作委員会


 12年前、同じ場所からリュウセイを眺めた亨(遠藤要)、竜太(佐藤祐基)、晴彦(馬場良馬)の3人は、それぞれの道を歩んでいた。竜太は東京でキャバクラの送迎をし、亨はバンドを辞めて地元・長野の居酒屋で働いている。晴彦は一流企業で働いていたが借金を作り、金を借りるために実家に帰省する。夢や希望といった淡いことばだけでは生きていけない現実社会のなかで暮らしている3人だったが、そんな彼らに少しだけ変化が訪れる。


 獅子座流星群を待ちながら将来を語り合う三人の中学生…バンドをやっている亨は「俺はプロになる」と同級生に初めて自分の夢を語る。そうそう、自分だって主人公たちと同じ年齢の頃に抱いていた夢は決して絵空事ではなく心のどこかでリアルに信じていたではないか。なのに…だ。夢を語るなんて恥ずかしく思うようになったのは、いつからだろうか?なんて、谷健二監督の長編デビュー作『リュウセイ』を観て、そんな事を考えていた。「自分が現実的に考えられる事しか映画にしない」と語る谷監督だから、本作に登場する三人の若者は自分たちの現実に何かしらの大きな決断をするわけでもなく、劇的な事件が起こるわけでもない。それは言い換えれば、谷監督自身が共感出来る世界の範囲内に全て収められているからコチラも自分事化しやすいのだ。月日が経ち、少年たちが大人になってからは三人の物語が平行に描かれるだけで、顔を合わせる事が無いのも実に自然で、彼らの心境に入り込める。
 舞台となるのは、東京から特急で一時間ほどの長野県塩尻市と松本市。簡単にしょっちゅう戻れる距離というわけでもなく、だからと言って帰省というほど遠く離れた場所でもない。谷監督は、この地を特にこだわって選んだわけではないと言うが、都会からのこの距離感が正解だった。印象に残るのは馬場良馬演じる晴彦が、東京で借金を作って親や友人を頼りに卒業以来、久しぶりに戻って来るシークエンス。しばらく音沙汰も無かった友人からの頼みに地元の知り合いたちは、あからさまに不信感を露わにする…「自分が切り捨てたような相手にすがりつくのは、ただの馬鹿がするような事じゃないか?」と先輩は吐き捨てるように言う。田舎を捨てたわけではないのだが、田舎から距離を置き続けていた晴彦は、いつの間にか自分が距離を置かれていた事に気づく。決して彼は何か悪い事をして借金を背負ったわけではないだろう。遠藤要演じる享にしても家庭の事情から夢に手が届く位置にいながら、バンドを諦めてしまう。谷監督は出演者に是枝裕和監督の『幻の光』を観ておくよう依頼していたというが、筆者は同じ是枝監督の『歩いても歩いても』の中で阿部寛が言っていた「いつも、ちょっと間に合わないんだ」というセリフを思い出していた。彼らもきっとそんな人生を色んな局面で体験してきたはず。そして、画面から滲み出てくるのは、そんな彼らを寄り添うように投げかけられる谷監督の優しい眼差しだ。
 谷監督が最後まで人物像に悩んだという東京でキャバクラ嬢の送迎をする竜太。演じた佐藤祐基が感情を押し殺す朴訥としたイイ表情を見せる。ある事件がキッカケで家族から離れて暮らす竜太が妻に電話をして「ゴメン…今から帰る」と言うくだり…実は、この場面が一番好きだったりする。時代が悪い、社会が悪い…と言うわけでもなく現実を生きていく主人公たちの姿に、ささやかな希望みたいなものが見えたりして、だからラストでようやく出てくる流星の映像が胸を打つのだ。

「流星見ていかないのか?」と聞く父親に「もう大丈夫」と笑顔で答える晴彦の表情が印象的だ。

【谷健二監督作品】

平成25年(2013
リュウセイ




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