FAKE
Every Little Thingの名曲“Time gose by”をモチーフにレンタル恋人の孤独を描く

2014年 カラー ビスタサイズ 15min UULA×SSFF共同製作
監督 萩原健太郎 製作総指揮 村本理恵子、別所哲也 エグゼクティブプロデューサー 柳崎芳夫
企画・統括プロデュース 諏訪慶、三宅裕士 プロデューサー 辻村和也、細川修平
脚本 藤本匡太、萩原健太郎 撮影 今村圭介 照明 織田誠 美術 秋葉悦子 編集 若林篤史
音楽 高橋琢哉 主題歌 Every Little Thing
出演 広瀬アリス、大和田健介、藤井望尋


 恋愛が苦手な男性に、ひと時の夢を与える「レンタル恋人」。「レンタル恋人」として働く詩織(広瀬アリス)は客の前では笑顔を常に絶やさないが、心の中ではかつての恋人・元気(大和田健介)のことを未だにひきずり深い孤独を抱えていた。ある日、新たな客として現われた翔太(大和田健介・二役)はかつての恋人の元気と瓜二つ。戸惑いながらも翔太の中にかつての恋人の姿を重ねてしまう詩織。2時間1万円の初デートが始まった。


 “ショートショート フィルム フェスティバル & アジア 2011”で上映された『スーパースター』で、当時、社会現象となっていた韓流スターを追いかけてソウルまでやって来た櫻井淳子演じる中年女性をコミカルに描いた萩原健太郎監督。3年ぶりとなるショートフィルム(今回はミュージックShort)『FAKE』では、今世間を賑わしているレンタル恋人として働く広瀬アリス演じる女子大生が、客として出会った男性に惹かれていく姿をリリカルに描く。前作の韓流ファンもそうだったが、本作の主人公・詩織も普通の恋愛からかけ離れたバーチャルな世界に生きている。2時間のデートで1万円、プリクラのオプションや延長も有りで、料金を払えば、その時間内は彼女(彼氏)でいてもらえるシステム。客ではなくサービスを提供する側の視点で主人公の孤独感を浮き彫りにする萩原監督の着眼点は、相変わらずユニークだ。
 萩原監督は両作品で女性が内に秘めた(年齢に関係なく)プリミティブな少女性を掬い取ってきた。特に前半で登場する詩織の散らかった部屋は、恋愛に依存してきた彼女の厄介な一面を剥き出しにする。仕事中は男子に好かれそうな平均的な可愛い服を身にまとい、最高の笑顔を振りまく一方で、夜はトレーナー姿で色つきポップコーンが散乱する真っ暗な部屋に寝転ぶギャップ。スマホを開いて元カレとのラインを読み返しては涙する彼女に投影される窓を伝う雨のシルエットが醸す心象風景がもの悲しい(今村圭介カメラマンによる真俯瞰からゆっくりカメラが引いていく映像の美しさに溜息)。「人にどう見られるかだけを気にしている女の子の淋しさをここで描きたかった」と萩原監督はこのシーンについて語っていたが、正にこの部屋のシーンがあるからこそ、後半における彼女のトキメキ混じりの息づかいが逆に切なく伝わってくる。
 それにしても注目すべきは詩織を演じた広瀬アリスだ。デートの時は思いっきりキュートに、時折見せるハッとした表情の奥に複雑な心境もチラホラ…。萩原監督は彼女に感情を前面に出すのではなく、逆に悲しいシーンこそ感情を抑える演技を要望したという。その成果が如実に現れたのは、ラスト近くで自分のスマホを海に捨ててからの演技がガラリと変わったあたりではないか。過去の恋愛に決別して新しい一歩を踏み出そうとした瞬間に突きつけられる残酷な現実を前に味わう喪失感。そして、事態を把握出来ないまま彼が立ち去るまで堪えていた涙にこそ真実の悲しみが宿る。今まで客とのデートでタイムアップを告げていたアラームのピッピッピッ…という乾いた音が無情にも彼女を現実の世界へと引き戻す…この小物の使い方も心憎いではないか。

「時間来ちゃた。2時間のデートで1万円です」レンタル恋人のデートはサヨナラの代わりにこの一言が繰り返されるのだ。

『FAKE』予告編 >> コチラから   SSFF×UULA特設サイト>> コチラから

【萩原健太郎監督作品】

平成23年(2006)
Pomegranate

平成23年(2007)
Pearl

平成23年(2011)
スーパースター

平成26年(2014)
FAKE




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