あしたになれば。
南河内のぶどう畑を舞台に、高校生たちの甘酸っぱい青春を瑞々しいタッチで描いた青春物語
2015年 カラー シネスコサイズ 98min ユナイテッドエンタテインメント配給
監督、脚本 三原光尋 脚本 小森まき 企画 村田亮 プロデューサー 吉見秀樹
製作 丸山勇雄、三宅容介、山国秀幸、村田亮、佐伯寛之、長田安正、菅谷英一 音楽 きだしゅんすけ
撮影 鈴木周一郎 照明 濱田博史 録音 光地拓郎 編集 宮島竜治 主題歌 奥華子
出演 小関裕太、黒島結菜、葉山奨之、小川光樹、山形匠、富山えり子、赤間麻里子
清水美沙、赤井英和
2月14日(土)より大阪「あべのアポロシネマ」にて先行公開
3月21日(土)より東京「角川シネマ新宿」ほか全国順次公開
(C)「あしたになれば。」製作委員会
大阪府南東部に位置する南河内市。ぶどう畑に囲まれた自然豊かな郊外を舞台に、高校2年生の大介(小関裕太)は、夏の甲子園予選に負けたことが原因で野球部から足が遠のいてしまう。夏休み、暇を持て余す大介だったが、ひょんなことから友人の元(葉山奨之)や、健二(小川光樹)、昭吾(山形 匠)、そして隣の女子高に通う美希(黒島結菜)と玉子(富山えり子)の6名で、地元の町おこしのためのグルメコンテストに出場することになる。当初は美少女の美希が目当てで参加していた大介たちだったが、徐々に料理の奥深さに気づきはじめる。同時に、大介と元が抱く美希への思いも強くなっていく。そんな中、美希が突如練習に来なくなる。いったい美希が抱える悩みとは・・・。果たして彼らは無事にコンテストを迎えることができるのか。そして大介、美希、元の三角関係の行方は。
キラキラ光る朝の日差しを浴びる葡萄畑を、自転車で走る吹石一恵の横顔から始まった『あしたはきっと…』。町の一大イベントである夏祭り直前に、好きな人に告白するとかしないとか…親友に嫉妬する葛藤すら微笑ましい、少女たちの生理と心の機微を柔らかくくすぐる三原光尋監督の青春ファンタジーから15年。その姉妹編(姉弟編?)とも言える新作が『あしたになれば。』だ。町おこしのため御当地グルメの開発を校長より命じられた小関裕太演じる主人公・大介と悪友たちが、隣の女子高に通う生徒たちと共にグルメコンテストに挑むひと夏が描かれている。
舞台となるのは前作と同じ大阪市に隣接する日本有数の葡萄の産地で豊かな自然を有する南河内。大介が仄かな恋心を抱く黒島結菜演じるヒロインを乗せて、自転車で二人乗りする躍動感と、背景に広がる葡萄畑のダイナミックな遠近法の美しさに思わず目をみはる。本作を撮るに当たって自身が愛するジブリアニメ『耳をすませば』を意識して登場人物からあまり性を感じさせない漫画的なキャラ設定を心がけたという三原監督の狙いは大正解。小さな町で繰り広げられる若者たちの幼い嫉妬と友情の再確認をご当地グルメ開発と併行して語るには、アニメ的なデフォルメが最も効果的で、僕たち私たちの青春の1ページが見事に綴られていた。
かつてハリウッド映画のジャンルとしてスモールタウンという郊外にある小さな町で繰り広げられる群像劇があった。(『ピクニック』や『草原の輝き』など)評論家の川本三郎氏は自身の著書(ロードショーが150円だった頃)で、そこでは善良で勤勉な人々が慎ましい暮らしをしている…と紹介しているが、ここ数年、日本でも地方のフィルム・コミッションの頑張りが功を奏して、観光地には無い人々の暮らしが感じられるスモールタウンを舞台にした秀作が数多く作られてきた。ちなみに本作は南河内にある2市1町が映画製作支援とロケ地提供を行う「シネマプロジェクト」の協力によって完成した。
夕方になるとポツポツと明かりが灯され、明かりの下には食卓を囲む家族がいる。葡萄農家を営んでいる大介の家では夕食時に父親(扮する赤井英和がイイ味を出している)が必ず真ん中にいて、家族が一堂に会する食卓では兄妹げんかもオープンで、隠し事や悩み事もここでは何となく分かってしまう…。三原監督の映画に出てくる町の風景からこうした家族の姿が垣間見える。ダムに沈む徳島県の山間部の町に暮らす人々を丹念に捉えた『村の写真集』や、北陸の田舎町で小さな中華料理店を営む老人とその味に惚れ込んで弟子入りした女性の交流を描いた『しあわせのかおり』など…どの作品にも共通しているのは町が息をしているところだ。
そして大介と美希が語り合う葡萄畑の場面で、2人の背中越しに眼下に広がる町のファンタスティックな風景映像…大介の手を取り自分の頬に持ってくる時に見せる黒島結菜の表情にドキッ。鈴木周一郎カメラマン良い仕事をされている。
「お前の手にはお前の人生がある。真っ正直なお前の姿がな」赤井英和演じる主人公の父が恋に悩む息子に言うセリフ。