ストロボ ライト
真実がズレている

2013年 カラー ビスタサイズ 120min 『STROBE LIGHT』製作委員会
監督、脚本 片元亮 撮影 小澤勇佑 照明 北川泰誠 録音 松原直子 美術 decchi-s
主題歌 TeN スタイリスト 辻礼子、新井都也子、吉田謙一 宣伝プロデューサー 槇徹
出演 福地教光、宮緒舞子、木下聖浩、松本壮一郎、坂城君、槇徹、中村哲也、有田洋之、太田清伸
土居弘輝、長山浩巳、福岡宏士、加納克範、山本哲也

オフィシャルサイト http://www.strobelight-movie.com/

全国順次ロードショー公開中
(C)『STROBE LIGHT』製作委員会


 その日の夜、小林(福地教光)が相棒の先輩刑事倉田(木下聖浩)と臨場したのは閑静な住宅地。被害者は依田幸助46歳。別居中の妻からの通報で小林ら捜査一課七係が事件の担当となった。豪邸のリビングに横たわる遺体には犯人に抵抗したことで傷付いたと思われる両腕に残された無数の切創があり一見すると強盗殺人と思われたが、鑑識の本間の指摘で現場に動揺が走る。遺体から右手首が切り落とされていたのだ。捜査が進むに連れ、事件は混迷を極め始める。そんな中、過去に今回の事件はなぞるように進んでいる事件があったことに気付いた小林は殺人教唆事件の捜査協力者でもあり美咲の実兄でもある精神科医の松岡(松本壮一郎)を倉田と共に訪ねる。紛失した手首、ひとつだけ残された足痕、拭き取られた指紋。共通点が余りにも多い23年前の殺人事件。プロファイリングの結果、同一の犯人像である可能性が高いとの松岡の指摘に小林は被疑者死亡のまま処理された23年前の事件への疑問を募らせる。現在と過去。事件に翻弄される刑事たち。全ての謎が解けた時、予想もしなかった真実が見えてくる。


 物語は閑静な住宅街にある一軒家で手首を切り落とされた死体が発見されたところから始まる。数十年前、同じ手口で行われた猟奇殺人事件との関連を探りながら捜査する刑事たちを描くサイコサスペンスだ。主人公の刑事が別の事件の犯人から受けた暴行によって記憶障害に陥り過去と現在が複雑に絡み合う。監督の片元亮(本作が長編デビュー)自身が10年前に書き下ろして暖めていたという脚本は、時間軸の異なる3つの事件を並列に描きつつ、幾つもの伏線を絶妙なバランスで、最終的には、まるでマグリットの騙し絵が完成するかのように配置しているのが見事だ。
 まず驚いたのは本作が自主映画であるという事。異例とも言える40名を超える主要な登場人物と、伊丹市の協力によって実現したロケーション撮影は、完全に自主映画の域を越えている。「自主映画だからといって、お金を掛けずにチープな映像にはしたくなかった」と、語る片元監督は、従来の自主映画そのものの在り方に対して、手弁当だって、本格的な刑事ドラマが作れるのだ!と挑戦しているようだ。片元監督は数秒のカットであっても、此処ぞという場面に、予算を惜しげも無く投下する。(その分、キャストやスタッフに協力をお願いして切り詰めるところも徹底して予算を作り出したそうな…)例えば、冒頭の事件発生直後の現場に止まっているパトカーだったり、捜査会議で数十人もの人員を配するシーンだったり。(自主映画では予算の都合で真っ先にカットされたり、主人公のバストアップでお茶を濁すところだが…)それに対して「自主映画はこうあるべきだ」という旧態然とした古い価値観で非難する輩がいるのは残念でならない。パンフレットの中で立命館大学映像学部の川村健一郎准教授は「予算の乏しさは、何よりも画面に表れてしまう」と書かれていたが、正に、今までの自主映画で、それが原因でシラケてしまった惜しい作品を何度も観てきた。勿論、低予算をアイデアで補う方法はいくらでもある。しかし、自主映画で本格的な刑事サスペンスを作りたかった…という思いからスタートした本作では、片元監督は、ロケ地や小道具、出演者たちの衣裳など一切の妥協を許さない。
 印象に残るシーンも多い。例えば物語のターニングポイントとなる冷凍庫で不規則に点滅する蛍光灯…タイトルにもなっているストロボライトの如き光の点滅は、主人公が失った欠けた記憶をたぐろうとするフラッシュバックと重なり、観客の不安感を増長させる。また、片元監督はわざと観客の神経を逆撫でするかのような不快なノイズ音や雨音の音量を大きく設定している。そうこうしている内にいつしか我々は主人公の焦燥感とシンクロしてしまう…ここが上手い。題材がサイコスリラーなだけに片元監督は韓国映画に傾倒している?と見がちだが、むしろ俳優陣のケレン味溢れる演技を見ると、師事されていた中島貞夫監督の東映プログラムピクチャー時代を彷彿とさせる。(特に叩き上げてのベテラン刑事に扮した木下聖浩の渋いセリフ回しは懐かしさを感じる…イイなぁ)
 パンフレットに配給会社が記載されていない事からも分かるように宣伝や映画館への上映交渉も全て自前でやっている。ここにも自主映画だからといって、パプリシティに手作り感を出したくないという製作者サイドの意気込みを感じさせる。(宣伝費が削減されている昨今…なかなか読み応えのあるプレスシートだった)

「精神病患者は全て同じではない。それぞれに個性がある」劇中、精神科医が言うセリフ。ラストから窺える本作の続編に期待したい。

【片元亮監督作品】

平成23年(2006)
キラキラ

平成25年(2013)
ストロボ ライト




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