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日活ロマンポルノの一時代を築いたSMの女王・谷ナオミ。日本映画の歴史において、一人の女優が、ある種のムーブメントを起こした例は、東映任侠映画の藤純子と日活ロマンポルノの谷ナオミ以外に思い浮かばない。多分、昭和の終わり…映画の斜陽化という時代における映画産業(プログラムピクチャーにおけるスターシステム)の在り方が、こうした現象を生み出したと言っても良いだろう。東映の看板を背負って立つ藤純子も日活の看板を背負って立つ谷ナオミも共に、彼女たちの名前がスターシステムの中で、ひとつのジャンルとして確立されていた。谷ナオミは映画に限らず、地方のストリップ小屋やヌード劇場を巡業し、舞台でSMショーの実演を行い、ここでも伝説のダンサー・一条さゆりに肉迫する絶大な人気を博する。にも関わらず、世間の目から見ると彼女が活躍する場は「裏の世界」であり「表舞台」で活躍する女優ではないと思われていた。ところが、平成に入ってから状況は信じられない様相に転じる。ミニシアターで女性を対象とした日活ロマンポルノが、あちこちで特集上映されたのだ。かつては俗悪映画とバッシングを受けていたポルノ映画が芸術性の高さから再評価(評論家ではない女性から…という意味では初めて?)された。その火付け役となった映画が『リング』等ジャパニーズホラーの先駆者となった中田秀夫監督が日活時代、助監督として従事していた小沼勝監督を追ったドキュメンタリー『サディスティック・マゾヒスティック』である。当然のように小沼監督の代表作に出演していた谷ナオミの存在もそこで初めて知り、興味を持った人も多かったのではないだろうか?作中に現在の谷ナオミが昔と変わらぬ出で立ちで出演しているのが嬉しい限りだ。 谷ナオミの映画デビューは日活ではなく独立系ピンク映画(通称エロダクションと呼ばれた零細プロダクションの作品)『スペシャル』だ。当時、まだ19歳であったにも関わらず、初めて彼女を見た団鬼六は「少女と熟女の両方を持っている」と評している。団鬼六との付き合いはその頃から始まり、山本晋也監督のSMもので瞬く間に頭角を表す。当時のエピソードで、吊された彼女が水の中に落とされる撮影時、高熱を出していたにも関わらず「もう一回やらせてください」と進言。次のテイクでは、水に落とされ顔を出した途端に予め口に含んでおいた水をパァーっと吹き出したのである。山本晋也監督は、事ある毎に「あれは化け物だよ」と語っている。(みうらじゅん監修「永遠のSM女優・谷ナオミ」より)それまでに200本を越えるピンク映画(残念ながらその大半がジャンクされて今では観る事は叶わない)に出演してきたカリスマ女優を大手成人映画会社である日活が黙って見ているはずがなかった。何度も出演交渉をするも、提示してきた企画のどれもが「自分じゃなくてもできる役」という事から決して首を縦には振らず、最終的に彼女が出した条件が「団鬼六の作品ならば…」だった。小沼勝監督はプロデューサーら4人で団鬼六の自宅を訪ねた。応接室で折衝をしていたところ突然停電となり、そこへ蝋燭を持った和服姿の谷ナオミが現れて「いらっしゃいませ」と挨拶したという。既に承諾の回答を準備していた谷ナオミと団鬼六の粋な演出だったわけだ。かくして、日活SM路線がスタートしたわけだが、既にSM女優として認知されていた谷ナオミの起用がハズレる筈もなく小沼勝監督とコンビを組んだ第一作『花と蛇』は大ヒット。続く『生贄夫人』は前作以上に高い評価を得る事になった。後日、谷ナオミは「わたし自身を良く知っているのは小沼監督と思っている」と語っている。日劇ミュージックホールに出演しながらロケーションに入る…というハードスケジュールの『花と蛇』は彼女にとって、大きなセットと大勢のスタッフの前で演じるのは初めての経験でかなりのプレッシャーの中で挑んでいたという。撮影に入る前に台本を徹底的に頭に叩き込む谷ナオミはイメージを自分なりに作ってから演技に入っていたという。谷ナオミの特長を引き出すSM作品を手掛けた小沼監督に対し、谷ナオミの喜劇性を引き出す事に成功した神代辰巳監督とコンビを組んだ『黒薔薇昇天』はブルーフィルム(今でいう裏ビデオ)を製作する岸田森演じる監督の物語で、彼女は急遽、代役の女優としてスカウトされたという役どころ。監督までも虜にしてしまう妖艶な女性を演じる谷ナオミ…ブルーフィルム製作裏話のドタバタ模様を軽妙なタッチで描いていた秀作である。 SMの女王として一時代を築いた谷ナオミにとって「縛られているシーンだけではなく、その前後も含めて全てが映画。前後があるからこそ、その場面が輝くわけです。わたしは一般の裸にならない映画であろうが、裸になる映画であろうが、何の隔たりもなく一つの映画として一つの役作りとして演じてきました。」そして、最後にこう続けた。「だから、裸の映画に出てどう思いましたか、と訊かれることは、わたしには愚問なんです」
■緊縛の種類(Wikipediaより一部抜粋)
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