怪優である。…っというか当時の独立系ピンク映画や東映ポルノ、日活ロマンポルノに出ている男優は、みな怪優と言っても差し支えないのでは?と思う。(東映ピンク映画の常連だった名和宏や小池朝男も凄かった)『花と蛇』では自分の妻を部下に調教させるという、とんでもない色ぼけジジイを怪演。部下がお重に入れて持ってきた妻の排泄物を満足気に眺める姿に、「こいつの会社にだけは入りたくない」と思った。豪邸の庭先では召使いの女に変態的な行為を強要し、それに飽きたらず、入浴中の妻を覗き見ては熱湯をかけられる始末。とにかくムチャクチャな傍若無人の男を大袈裟に演じていたのが凄まじいインパクトを与えた。妻を愛するが故に、小学生の少女と共に失踪した高校教師を演じた『生贄夫人』では、淡々とした抑え目の演技で谷ナオミ演じる妻を監禁して責め立てる。『生贄夫人』で、小沼監督から「『花と蛇』よりシャープにやってくれ」というオーダーが入り、張り切ったと言う。本作の設定は夏となっていたが、実際は春で寒い中、何度もテイクをやり直したという。中でも、川で谷ナオミの身体を洗うシーンでは小沼監督から「前貼りが見える」という理由から何度も水につかって撮影している。その甲斐があって『生贄夫人』は自他共に認める彼の代表作となったと言っても良いだろう。
 同じく小沼勝監督によるオールスターキャストで製作された『性と愛のコリーダ』では、悪のり全開で実に楽しそうに変態奇行男を演じていた。“探偵物語”の松田優作よろしく黒のスーツとダンディーな帽子をかぶり赤いバラを加えて登場するや、場内は爆笑の渦。ロマンポルノの観客だからと言って女優ばかり見ているわけではないのだと、初めて知って嬉しくなった。こうしたセルフパロディも巧みにこなし、SM映画でヒロインに責め苦を味わせるサディストを嬉々として演じる坂本長利とは、一体どんな人物なのだろうか?新劇俳優として、木下順二の“風浪”で初舞台を踏み、昭和39年に演劇集団「変身」を創設する。当時、劇団で活動していた役者は、劇団を維持する資金稼ぎのためにピンク映画やロマンポルノに出演していた。かなりの実力者がロマンポルノを支えていたのである。最近のただやればイイだけのAV俳優と一緒にしてもらっちゃ困るのだ。ともかく、日活ロマンポルノが衰退する昭和58年までの11年間82本という出演本数は尋常ではない。西村昭五郎監督と組む事も多く(出演本数は最多)、初出演の頃は前貼りの意味がわからなかったという。「監督とは言葉ではなく、見えない糸でやったほうが良い」という信条で常に演技だけではなく、色々な意味で撮影に参加していた。(『古都曼荼羅』では風間杜夫と山科ゆりのラブシーン撮影時に観光客の目を逸らすために別の場所で嘘の撮影を行った…というエピソードもある)
 その後、彼は活動の場をテレビと舞台に移す。中でも忘れられないのが“北の国から'87初恋”で、主人公・純が恋する少女の父親役で、偏屈親父と周囲から敬遠されていながらも一本筋の通った武骨な男を渋く演じていた。土を愛する生まれながらの農家の役に、あの坂本長利である事を気付かずに最後まで見ていた記憶がある。豪雨で作物が流されるのを見て涙し、農薬に頼って畑をダメにした農家に対して怒りを露わにする姿は、田中邦衛の五郎よりも数百倍カッコ良かった。その後、自然を相手に暮らす役が多くなり北海道から沖縄に舞台を移した“Dr.コトー診療所”の村長役が記憶に新しい。一方で、彼のライフワークとも言える一人芝居“土佐源氏”は通算1000回を越える公演記録を持っている。民族学者の宮本常一原作の本舞台は、土佐に住む盲目の乞食の独白である。話しの内容は老人が若い頃、二人の女性と関係していた色話がメイン。まさに、赤裸々に語られる物語はロマンポルノで培った経験を持つ坂本長利ならではの迫真の演技を披露してくれる。時に大胆に、時にストイックに、ありとあらゆる役をこなす坂本長利は、やはり怪優である。


坂本 長利(さかもと ながとし)NAGATOSHI SAKAMOTO 1929年10月14日。島根県生まれ。
 新劇俳優として、1953年・木下順二作“風浪”で初舞台を踏む。1964年に演劇集団“変身”を創設し、小劇場運動の先駆けとして活躍する。映画初出演は、1969年の金井勝監督『無人列島』で、以降は、1970年吉田喜重監督『煉獄エロイカ』、1970年黒木和雄『竜馬暗殺』等に出演。日活ロマンポルノには1972年藤井克彦監督作『真昼の情事』から出演。その後、ロマンポルノを支えた貴重な脇役俳優として多くの作品に出演している。特に、SM映画でヒロインに責め苦を与えるサディストをやらせたら右に出る者はいないとファンの間から絶大な人気を誇る。そのイメージを決定付けたのが小沼勝監督作の『花と蛇』の老社長と『生贄夫人』の蒸発した夫の役だ。
 1980年代に入ってから活動の場をテレビに移し、“武蔵坊弁慶”“空と海をこえて”“ガラスの靴”“北の国から’87初恋”“Dr.コトー診療所”に出演。また、舞台では1967年の初演より通算1000回以上の記録を公演している宮本常一原作による“土佐源氏”という一人芝居をライフワークとして行っている。

【主な出演作】

昭和44年(1969)
無人列島

昭和45年(1970)
日本の悪霊
煉獄エロイカ
竜馬暗殺

昭和47年(1972)
真昼の情事

昭和48年(1973)
やくざ観音・情女仁義
ネオンくらげ
股旅
昼下りの情事
 古都曼陀羅

昭和49年(1974)
(秘)色情めす市場
バージンブルース
花と蛇
実録ジプシー・ローズ
生贄夫人

昭和50年(1975)
実録阿部定
発禁肉蒲団

昭和51年(1976)
感じるんです
色情妻 肉の誘惑
幼な妻絶叫!!

昭和52年(1977)
四畳半芸者の枕紙
性と愛のコリーダ
赤い花弁が濡れる
肉体の悪魔
肉体の門

昭和53年(1978)
宇能鴻一郎の看護婦寮

昭和54年(1979)
希望ヶ丘夫婦戦争
堕靡泥の星
 美少女狩り
白く濡れた夏

昭和55年(1980)
能鴻一郎の
 濡れて悶える
昭和エロチカ
 薔薇の貴婦人

昭和57年(1982)
美姉妹・犯す

昭和58年(1983)
乳首にピアスをした女
発禁 秘画のおんな
猟色

平成2年(1990)
ふうせん

平成12年(2000)
サディスティック
 &マゾヒスティック




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