団鬼六 縄と肌
陶酔の責め秘技からSMゾーンの極地へ…諸肌脱いでつとめます。ナオミ最後の妖花の乱舞。

1979年 カラー シネマスコープ 70min 日活
製作 結城良煕 企画 奥村幸士 監督 西村昭五郎 助監督 菅野隆 脚本 松本功
原作 団鬼六 撮影 山崎善弘 音楽 月見里太一 美術 柳生一夫 照明 加藤松作 編集 西村豊治
出演 谷ナオミ、山本昌平、宮下順子、浜口竜哉、錆堂連、小山源喜、山科ゆり、水木京一、高木均
橘雪子、椎谷建治、兼松隆、溝口拳、庄司三郎、青山恭子、小見山玉樹、佐藤了一、大平忠行


 昭和初期のヤクザの世界に生きる女胴師緋桜のお駒の活躍を描く。主演の谷ナオミは前年『団鬼六 薔薇の肉体』における演技が高く評価され日本アカデミー賞主演女優賞にノミネートされるという後にも先にも日活ロマンポルノとして快挙を成し遂げる。にも関わらず、彼女は肉体の限界と結婚を理由にして引退を表明。日活は、正月作品『おんなの寝室・好きくらべ』に続いて、最後に彼女の引退記念作品として用意されたのが本作である。映画の冒頭に引退の口上を述べる谷ナオミの言葉は明らかにファンに向けたものである。脚本は東映出身で『沖縄10年戦争』を手掛けた松本功が担当し、彼女の餞となる印象深いシーンを作り上げていた。監督は日活の屋台骨を支えてきた『禁じられた体験』の西村昭五郎がメガホンを取り、濡れ場・責め場だけではなく、迫力のあるアクションシーン満載の娯楽作品に仕上げていた。迫力に満ちた撮影は『傷だらけの純情』など日活恋愛映画を撮り続けてきた山崎善弘、三味線と太鼓の威勢のいい音楽を月見里太一が各々担当。全編が見せ場の連続にロマンポルノである事を忘れてしまう程。共演者には久しぶりに日活ロマンポルノのスクリーンに復活した山科ゆり、大御所・宮下順子が脱ぎ場のない特別出演で花を添えている。


 昭和のはじめ、とある賭場で、女胴師緋桜のお駒(谷ナオミ)の引退披露の花会が開かれていた。その中で、お駒は女札師弁天のお房(橘雪子)のイカサマを暴いた。そして、お房を連れてきた石岡の親分が居直ってしまい、賭場は険悪な雰囲気が流れるが、榊の親分が間に入って、その場はなんとか収まった。お駒はこの花会を最後に、板前の健三と世帯を持つことになっていたが、恥をかかされて恨みを待った石岡の手下たちに襲われ、健三は殺されてしまう。それから二年の歳月が流れた。石岡一家の傍若無人ぶりはとどまるところを知らず、榊も、いざこざに巻き込まれて殺されてしまう。そして、榊の娘・雪代(山科ゆり)の開いた小料理屋も、石岡一家に狙われた。二年振りに帰って来たお駒は、雪代を助けようと、賭場の仕事を始めた。暫くして、お駒は、かつて世話になったことのある花井勇太郎(山本昌平)に出会い、勇太郎も一緒に手助けに加わった。やがて、雪代が石岡たちに連れさられ、残忍な仕打ちにあっていると聞いたお駒は、単身、殴り込みをかける。しかし、お駒も石岡たちに取りおさえられ、折檻部屋で辱しめを受けるのであった。そこへ、勇太郎が飛び込んで来て、石岡一家の者を次々と倒し、お駒と雪代を助けだすことに成功するが、そのとき受けた銃弾で、勇太郎は絶命する。数日後、雪代に見送られ、この町を去っていく、お駒の姿があった。


 『薔薇の肉体』で日本アカデミー賞主演女優賞にノミネートされながらも引退の決意を揺るがせなかった谷ナオミ。彼女に用意された引退記念作品と銘打たれた本作は、まさに日活ロマンポルノの持つ全てを注いで作り上げられた。一人の女優が引退する際に記念作品を華々しく作られたのは東映の藤純子の『関東緋桜一家』以外には、ロマンポルノの創世記を築いた白川和子くらいしか記憶にない。言うまでもなく俳優にとって引退記念作品が製作されるというのはプログラムピクチャー時代の最高の名誉だ。谷ナオミの引退は藤純子と同様に一時代の終焉を意味しており、これを境に日活ロマンポルノの人気も下降線を辿り始める。
 団鬼六が、彼女のために書き下ろしたオリジナルストーリーは、女壺振り師が主人公の任侠映画。まさに『関東緋桜一家』を彷彿とさせるクライマックスには、半裸の谷ナオミが大立ち回りを披露してくれる。冒頭、一匹狼の“緋桜のお駒こと小谷ナオミ”が、渡世の足を洗う際に開かれた盛大な花会の席で引退の口上を述べると月見里太一の音楽をバックにタイトルロールが始まる…実にカッコいいオープニングだ。敵対する結城一家と対決するテンポの良いストーリー展開は、さすが東映出身の松本功の脚本だけに小気味良い。西村昭五郎監督の硬派なタッチは、谷ナオミが本来持っている儚さや危うさという世界は排除されてしまい、ちょっと残念(勿論、女渡世人のSMものは彼女の十八番でもあったのだが…)。彼女のラストを飾るにはドロドロした陰湿・陰惨なドラマは似つかわしくないと会社は判断したのだろう。
 恩義のある組の親分が闇討ちにあって殺されてしまい、一度は捨てた博徒の道をまた歩み出す姿には谷ナオミが得意とする儚さは一切見られず、むしろ正反対の強い女の姿がそこにある。だからこそ、彼女が敵の罠に墜ちていたぶられるシーンが映えてくる。いたぶられなじられても耐える姿に今まで彼女が作り上げてきた淫靡な世界とは明らかに違うSM女王の風格を感じる。確かに本作は金も掛かっているし、西村監督の演出は、切れも良くてカッコいいのだが、見せ場が佳境に近づくに連れて寂しさが増してくる。全く同じ印象を『関東緋桜一家』でも感じたのだが…引退記念作品は、その女優に向けての餞であり最後のイベントであるのだ。だからこそ、会社はコアなファンだけではなく幅広い日活ロマンポルノファンに楽しんでもらえるような全編見せ場の内容を選んだのだろう。山崎善弘のスピード感溢れるカメラワークは本家・東映の任侠映画にも引けを取らない迫力ある立ち廻りシーンを生み出した。夜空に咲く花火の如く華やかで、あればある程、終わり(映画のエンディング)の先(引退)が見えてくると切なくなる。…と、思いきや、全てが終わり一人旅立つお駒=谷ナオミが笑顔で朝靄の中去ってゆく姿に、心置きなく女優人生を全うした女の姿がオーバーラップし、むしろ“あぁ…こういう終わり方で良いんだ”と、清々しい気持ちにさせられた。

「私、緋桜のお駒こと小谷ナオミ。この度、渡世の足を洗わせていただくことになりました。永い間お引き立ていただき心から御礼申し上げます」冒頭に登場する谷ナオミの口上。このセリフは観客席のファンに向けて述べられているのだ。


ビデオ、DVD共に廃盤後、未発売

昭和42年(1967)
スペシャル
変質者
寝上手

昭和43年(1968)
女浮世風呂
徳川女系図
肉の飼育

昭和47年(1972)
しなやかな獣たち
性の殺し屋

昭和49年(1974)
花と蛇
生贄夫人

昭和50年(1975)
お柳情炎 縛り肌
レスビアンの世界恍惚
怪猫トルコ風呂
黒薔薇昇天
残酷・黒薔薇私刑
残酷・女高生
 (性)私刑
新妻地獄
濡れた欲情 ひらけ!
 チューリップ

昭和51年(1976)
濡れた壷
花芯の刺青 熟れた壷
奴隷妻
犯す!
夕顔夫人
幼な妻絶叫!!

昭和52年(1977)
(秘)温泉
 岩風呂の情事
幻想夫人絵図
女囚101しゃぶる
性と愛のコリーダ
団鬼六 貴婦人縛り壷
悶絶!!どんでん返し
夜這い海女
檻の中の妖精

昭和53年(1978)
おんなの寝室
 好きくらべ
黒薔薇夫人
団鬼六 縄化粧
団鬼六 薔薇の肉体
縄地獄

昭和54年(1979)
団鬼六 縄と肌

平成12年(2000)
サディスティック
 &マゾヒスティック




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