シン・ゴジラ
2016年夏、ゴジラ“誕生”—。
2016年 カラー シネマスコープ 119min 東宝配給
総監督、脚本 庵野秀明 監督、特技監督 樋口真嗣 エグゼクティブプロデューサー 山内章弘
プロダクション統括 佐藤毅 製作 市川南 プロデューサー 佐藤善宏、澁澤匡哉、和田倉和利
撮影 山田康介 美術デザイン 稲付正人 美術 林田裕至、佐久嶋依里 装飾 坂本朗、高橋俊秋
音楽 鷺巣詩郎 音楽プロデューサー 北原京子 録音 中村淳 照明 川邉隆之 編集 佐藤敦紀
出演 長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、市川実日子、犬童一心、柄本明、大杉漣、緒方明
片桐はいり、神尾佑、國村隼、黒田大輔、小出恵介、高良健吾、小林隆、嶋田久作、高橋一生
2016年7月29日(土)全国東宝系にてロードショー公開中
(C)2016 TOHO CO.,LTD.
第1作の『ゴジラ』が公開されてから約60年、国内で計28作品が製作され、日本を代表するシリーズ映画として君臨してきた。そして日本版ゴジラ復活の声が高まる中、完全オリジナル脚本にて新しい日本版「ゴジラ」が誕生した。脚本・総監督は、人気アニメーション『エヴァンゲリオン』シリーズの生みの親にして、日本のみならず世界中にファンをもつ庵野秀明。庵野氏の代表的作品である『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』がいずれも社会現象となる大ヒット。アニメーションで不動の地位を築いた庵野氏が、新次元の、圧倒的映像表現に辿り着いた。監督と特技監督を兼務するのは、平成ガメラシリーズの樋口真嗣。監督としても『日本沈没』、『のぼうの城』、『進撃の巨人』など、多くの大ヒット作を手掛けてきた。また1000人規模で編成されたスタッフによる、かつてない規模の撮影は、圧倒的なリアリティをもって、ゴジラのいる「現実」を忠実に再現。我々日本人が大いなる恐怖に直面し、その絶望から希望を見いだす勇気を持つ姿を描くことに成功した。出演陣も『進撃の巨人』や『劇場版MOZU』などアクションからコメディまで別の顔をみせる長谷川博己。『太平洋の奇跡〜フォックスと呼ばれた男』などで安定感のある演技力を見せる竹野内豊。さらに『風に立つライオン』など映画・ドラマ・CMで近年目覚ましい活躍を見せる石原さとみが、それぞれ演じている。
※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
東京湾・羽田沖に突如、東京湾アクアトンネルが巨大な轟音とともに大量の浸水に巻き込まれ、崩落する原因不明の事故が発生した。首相官邸では総理大臣以下、閣僚が参集されて緊急会議が開かれ、「崩落の原因は地震や海底火山」という意見が大勢を占める中、内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)だけが、海中に棲む巨大生物による可能性を指摘。内閣総理大臣補佐官の赤坂秀樹(竹野内豊)をはじめ、周囲は矢口の意見を一笑に付すものの、直後、海上に巨大不明生物の姿が露わになった。慌てふためく政府関係者が情報収集に追われる中、謎の巨大不明生物は鎌倉に上陸。普段と何も変わらない生活を送っていた人々の前に突然現れ、次々と街を破壊し、止まること無く進んでいく。政府は緊急対策本部を設置し、自衛隊に防衛出動命令を発動。さらに米国国務省からは、女性エージェントのカヨコ・アン・パタースン(石原さとみ)が派遣されるなど、未曽有の脅威に対し、日本のみならず世界もその行方を注視し始める。そして、川崎市街にて、“ゴジラ”と名付けられたその巨大不明生物と、自衛隊との一大決戦の火蓋がついに切られた。果たして、人智を遥かに凌駕する完全生物・ゴジラに対し、人間に為す術はあるのか?
第二次怪獣ブームで育った筆者にとってゴジラは強い存在であっても怖い存在ではなかった。しかし、初代ゴジラには街を破壊する事に意志があった。広島・長崎の原爆投下に始まり、ビキニ環礁の核実験で死の灰を浴びた第五福竜丸と、たび重なる核実験により全身に放射能を浴びて怪物へと変貌を遂げてしまったゴジラは、日本人と同様核の被害者であった。明らかに怒りの矛先を人間へと向けていたゴジラの破壊には悲しみがあり、当時の観客はその行動にある種のカタルシスを感じていたのだ。しかし、今度のゴジラは違う。海底に違法に廃棄された放射性物質を食べていた生物が巨大化、陸に上がり水圧の変化によって目玉が飛び出した深海生物が、異常な進化を遂げてゴジラの形状となる…というリアルな理屈を付けている。裂けるように開いた口は魔物のような形相で、ファンは果たしてここまで禍々しいゴジラを見たかったのだろうか?放射能廃棄物と魔物のようなゴジラ…この設定は、太平洋戦争を体験した田中友幸と、現代の核エネルギー問題におけるジレンマの中に生きる庵野秀明という生きる時代の違いが大きい。
核兵器に対する恐怖から生まれた旧ゴジラと、核のゴミに対する恐怖から生まれたシン・ゴジラ…本作はゴジラが主役の映画というよりもゴジラのシチュエーション映画だ。平成ゴジラのように原子力発電所のひとつも襲ってもらいたかったが、ご時世的にそれも許されず、だから再上陸は外房と反対側の相模湾(ゴジラからすると全く餌場の無い海域)を敢えて選んだのかな?と、勘ぐってしまったのは考え過ぎだろうか。せめて稼働していない浜岡原発に背を向けて相模湾に引き返すくらいはやってもらいたかったが、ちょっとメッセージ性が強過ぎるか。ただ、あそこまで巨大生物が出現した時の政府の混乱をリアルっぽく(あくまでも想像の範疇なので)シミュレーションして見せたのだから個人の意見としてはやって欲しかった。今回は日本人はゴジラに対して加害者であり、核エネルギー政策を推し進めてきた日本国政府の被害者がゴジラ…という図式である事は間違いなく、それを力で封じ込めて動きが停止したかに見えるゴジラは、石棺で囲んだどこかの建屋とオーバーラップしてしまったが、これも庵野秀明の確信犯であろうか…流石である。
ただ、不満も残る。庵野が楽曲に使っているのは、旧作と第二次怪獣ブーム時の音源なのだが…どうしても新しいゴジラの造形と物語とのギャップに違和感を感ぜずにはいられなかった。確かにクリアなデジタル音声から突然、モノラル音源を擬似ステレオ化したテーマ曲が流れるのは本当に怖かった。最初の上陸でゴジラに変化するところなんか、『東海道四谷怪談』で、髪の毛がごっそり抜け落ちるお岩のようで、中川信夫監督の怪談映画を彷彿させ、これはこれで流石だなぁと感心した。…が、『三大怪獣地上最大の決戦』や『怪獣大戦争』版の楽曲を使用したのはやり過ぎ。ましてや、エヴァや踊るの音楽は不要だった。アノ曲の印象が強すぎて、映画館を出て「あれ?僕は何の映画を観たんだっけ?」と、思ったりしたのも事実だ。ただし、あくまでもこの意見はリアルタイムで、東宝チャンピオンまつりを体感した世代である筆者の思い。会社の若手は、挙って楽曲の選択に大絶賛していた。これはこれで、新しい世代に向けたゴジラ映画として大成功なのだろうなと、マーケティング的な見地から納得もしたりする。話しは変わるけど、庵野さん…今度は『首都消失』のリメイクをしてくれないかな?
「国を守るって大変ですね…」三浦貴大演じる記者が一向に進まないゴジラ対策に言うセリフ。本当にそうだ…多分、現実もこんな感じなのだろうね。