CHARON カロン
作家とギャング、一人の娼婦を見守る心の旅。
2005年 カラー ビスタサイズ 89min グランカフェ・ピクチャーズ
エグゼクティブプロデューサー 鄭振邦 監督、脚本 高橋玄 撮影 飯岡聖英 照明 小川満
美術 吉田悦子 編集 菅野善雄 音楽 高井ウララ、村上純、小倉直人 助監督 中西正茂
出演 川本淳市、水上竜士、森崎めぐみ、舩木壱輝、水木英昭、吉守京太
作家・勝木大(水上竜士)は、結婚相談所で「一切の性生活の不在」「私生活に干渉しないこと」「私を養わないこと」という奇妙な条件を提示した太田秀子(森崎めぐみ)と結婚した。だが、作家の妻となった秀子は、書店の店員・川杉由都、そしてギャングの示現道男(川本淳市)と暮らす娼婦・カロンという3つの顔を持つ多重生活者。ある日、客に殺されかけたカロンは、自己防衛で傷害事件を起こす。カロンと道男の関係が変わり始めたその頃、夫である勝木は、妻が娼婦・カロンであると知り、客としてカロンをホテルの部屋に呼んだ。その翌日、カロンは町から姿を消した。夫と恋人にそれぞれ最後の食事をテーブルに残して。元夫である勝木と、元恋人の道男は、それぞれ別の道からカロンの足取りを追う中で出会い、共にカロンを探す旅に出る。そして、作家とギャング、ふたりの男が辿り着いた旅の先に見たものは、彼女がカロンと名乗り続けた悲しい謎の解答だった。
観終わった後、何故か脳裏に焼き付いて離れない映画がある。本作もそういった映画の1本だ。主人公のカロンと名乗る女性は謎に包まれた不思議な二重生活を送っている。一切の性生活をしないという契約の元に結婚した著名な作家と、彼女に娼婦として仕事の斡旋を行っている組織の男との半同棲生活。前半、観客は彼女の未知なる部分に惹かれていく。正直、本作で描かれている様々な事柄に対して明確な理由付けは、なされていない。しかし人の生き方なんて、はっきりと提示できるものなんか意外と無いもので、自分自身がとった行動ですら「何であんな事をしたのか?」説明出来ないものが多い。この映画は、そういった説明的な無駄を省きながら現在進行形の人間を描いている。そう、本作には無駄なシーンが無く、それは主人公に限らず脇役の行動に至るまで後に何らかの意味が出て来る。これは高橋玄監督の脚本が二重生活を微妙な力加減で交差させる事に成功しているおかげで複雑になりがちなストーリーを上手くまとめ上げているからに他ならない。後半、突然姿を消したカロンを巡って二人の男性が全く知らない彼女の一面を少しずつ紐解いていくのだが、ここで前半部でばらまいていたジグソーパズルのピースが組み合わさっていくのである。それでも最後まで、どうしてカロンが娼婦となったのか?何故性生活を送らない契約で結婚をしたのか?本当の真意は彼女の口から明らかにされていない。ただ彼女の残酷な過去が解き明かされ映画は終演を迎える。このラストを希望に満ちていると判断するかどうかは観客の判断にお任せするとして…実は、ここに監督がタイトルに選んだ“見えないが確かに存在する冥王星の衛星=カロン”の意図があるのではないだろうか?映画で明確に理由を描く程、人間は単純ではないという事…不確実なままエンドクレジットが流れた時に観客は自分自身を見つめ直す機会を得る事になるだろう。カロンを演じた森崎めぐみの演技は素晴らしく、人生にある意味見切りを付けてしまった女性を目と唇の演技で表現している。
もう一度観たい!と、いうより…一度観た時の自分の心境を何度も反芻して自分の頭の中で映画を組み立てたくなる…そして、もう一度観たくなる…。そんな不思議な魅力のある映画だ。