クレーマー case1 case2
お客様は神様か、怪物か?

2008年 カラー ビスタサイズ 『Case1』81min『Case2』70min アートポート
制作 松下順一 監督、脚本、編集 金子大志 脚本 秋本健樹、古賀奏一郎 撮影 百瀬修司  
照明 森川浩明  美術 黒須康雄  録音 鈴木昭彦  衣装 天野多恵 音楽 清水真理
出演 柏原収史、平田弥里、しほの涼、長澤奈央、大門正明、小野真弓、三浦アキフミ、
高松いく、栗原里美、葉山レイコ

2008年4月12日(土)よりキネカ大森にてロードショー


 『Case1』:製菓会社のお客様相談室でクレーム処理を担当する継村尚人(柏原収史)は、日々かかってくる理不尽なクレームにも臆する事無く、毅然と対応する姿は社内でも一目置かれている。ある日、継村はナイトウと名乗る男から奇妙な電話を受ける。明らかに苛立った様子で「ミネラルウォーターに虫が混入していた」というのだ。最初は冷静に対処をしていた継村だったが、ナイトウから返品されてきた商品を見て愕然とする。封を開けていないボトルの中に大量のウジ虫が混入されているのだ。明らかに悪意を感じる、その行為に、これまで通り真摯に対応していた継村も冷静さを失ってしまう。やがてナイトウのクレームはエスカレートし、遂には継村の生活圏内まで脅かす程になっていった。決して姿を見せる事の無い相手のストーカーにも似た行為に翻弄され、継村は次第に追いつめられて行く。その上、同じ職場で働く継村の恋人(平田弥里)も突然失踪し、やがて継村の身に危険が忍び寄ってくる。
 『Case2』:宮田夏美(小野真弓)は夫と離婚し、女手一つで5歳になる息子を育てている。彼女は職場である製菓会社のお客様相談室で、日々かかってくるクレーム処理に追われていた。ある日、夏美は一本の電話を受ける。受話器の向こうから聞こえてくる女のすすり泣く声。女は「流産したのは、お宅のドリンクを飲んだせいだ」という。言いがかりと思っていた夏美だが、調べてみると会社がドリンクの成分表を偽って販売していたのだ。何とか善処しようとする夏美に、事件を隠蔽しようとする会社は相手のクレームに耳を貸さないように圧力をかける。仕方なくマニュアル通りに受け答えする夏美だったが、翌日、その女は夏美が働く本社のビルから飛び降り自殺をしてしまう。それを機に、お客様相談室の職員たちに奇妙な電話がかかってくるようになる。受話器の向こうから聞こえてくる女の「どこにいるの…」という囁く声。それを受けた者は原因不明の死を遂げてしまう。やがて夏美の元へもその電話がかかってくるようになり…。


 最近、素人が怖い。そう思いませんか?対人関係が下手なくせに、他人の神経を逆なでするのに長けている。パソコン世代の寵児がやたら増えている。面と向かって文句を言う奴はまだ良い方(騒音おばさんは困るけど)で、顔を見せずに何でも簡潔する人間程、卑怯なものはない。本作に出てくるクレーマーは、電話を使って相手を苦しめる事に喜びを感じる人種だ。商品に対して重箱の隅をつつくようなクレームをつけては、自分の鬱憤をはらす。きっと、ハマった人間にとっては快楽なのだろうが、それに付き合わされる人間にとって苦痛この上ない。『ケース1』『ケース2』の2部構成(同じ舞台で繰り広げられるが、各々独立した作品)共にクレームの相手に何を言われても決して怒ってはいけない(こんな理不尽は日本人だけらしいが…お客様は神様です精神が変わらない限りこの呪縛は続く)お客様相談係がターゲットとなる。
 『ケース1』の中でも社員同士の会話で、「この仕事を長く続けられる人間はいない」というのがあった。怒鳴られても冷静でいるのは、かなりのストレスである事は容易に想像がつく。ノイローゼになる人間が多いのも納得できる。その精神状態がギリギリのところまで追い詰められるのが主人公・柏原収史の役どころだ。飲料品メーカーの相談室にかかってきたクレームに最初は、いつも通りの返答をしていたベテランの男が、いつの間にかあざ笑うかのようなクレーマーのペースにハマり常軌を逸してしまう。ところが、物語が進むにつれて外部の人間では不可能な現象が起こり始めてから恐怖の矛先が変わってくる。送り返されてきた大量のペットボトルに混入されているウジ虫の画はゾッとする場面だ。観客には、一連のクレームにノイローゼとなった主人公が妄想から存在しないクレーマーを作り上げ狂言を行った…と思わせて、二重のエンディングを用意しているのは上手い。一方、『ケース2』の主人公・小野真弓の元にかかってくるクレームの相手は女性(決してクレジットの返済に関する問い合わせではない)で男性のクレーマーとは違った怖さを感じさせる。彼女の働く職場も『ケース1』の柏原収史が所属する同じ飲料品メーカーの相談室。ここまでクレーマー達の標的にされる会社って…と、思っていたら本当にロクでもない会社である事が分かってくる。「そこの紅茶を飲んだせいで、流産した」という電話を取った彼女がトップに報告すると、それを隠蔽するように指示される。その女性は、飲料メーカーのビルから投身自殺をしてしまうのだ。そこから、物語はサイコスリラーからサイコホラーに一転する。次々とお客様相談室の人間を死に至らしめる女性の怨霊…生きているクレーマーならともかく、霊になったクレーマーでは対処のしようがない。小野真弓は体を張って霊と闘うシングルマザーを好演。一件落着に見えたかに思えたところに『ケース1』同様、あれ?ひょっとして一連の犯行って…。という結末を用意している。果たして、怨霊は存在したのか?ラストに掛かってきた電話は、最後まで生き残った女性社員を狙う霊?それとも、彼女もまた精神に破綻を期したのか?三者三様の捉え方ができる結末を観客は、どう読み取るだろうか。

最近、社会問題となっているモンスターペアレンツやモンスターペイシェントも是非、第二、第三の企画として映画化してもらいたい。


発売:アートポート http://www.artport.co.jp/
APD-1242 片面1層 主音声:ドルビーデジタル/ステレオ[16:9 | LB]
6,300円(税込)『case1&2』BOX
【金子大志監督作品】

平成17年(2005)
解けない結び目

平成18年(2008)
クレーマー
制服サバイガール




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