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『天国の口、終わりの楽園。』の脚本でヴェネチア国際映画において最優秀脚本賞を受賞し、『ルドandクルシ』で長編映画監督デビューを果たしたカルロス・キュアロンが今回、村上春樹の短編小説『パン屋再襲撃』のショートフィルムをひっさげて10月31日に来日。“東京国際映画祭”の連動企画として開催された“ショートショート フィルムフェスティバル & アジア「フォーカス・オン・アジア」”においてインターナショナルプレミア上映が実現した。また、当日はカルロス監督とプロデューサーのルーカス・アコスキンによるワークショップも行われ、初期のショートフィルムを交えながら、映画制作や世界の映画業界の実情について語られていた。本来、『日本映画劇場』は日本映画をフューチャーするサイトではあるが、メキシコの監督が日本の短編小説を手掛けた真意を探るべく、単独インタビューに臨ませてもらった。 カルロス監督が映画に対して興味を抱いたキッカケは兄のアルフォンソ・キュアロン(『天国の口 終わりの楽園』の監督)が12才の時にスーパー8ミリをプレゼントされた事に端を発している。とは言うものの、8ミリを撮るのはもっぱら兄のアルフォンソの方で、最初の頃はカルロスは映画作りよりも本を読む方が好きだったという。そんなカルロスが、自ら文章を書くようになったのは14才の頃からで、「書くのが好きだったら映画の脚本を書かないか?」とアルフォンソから話しを持ちかけられ、兄弟のコンビが誕生した。その後、何本も脚本のプロットを書き上げていながら、そのどれもが採用されず悶々とした日々を送っていた1996年、友人の映画監督ギレルモ・デルトロに愚痴をこぼしたところ「だったら自分で作ったらイイんだよ」とあっさり言われて、兄のアルフォンソもそれに賛同してくれた事がキッカケで、初のショートフィルム『ある大家族の一日』(ショートフィルムとしては異例の大勢のキャストが出ている大作であった)を手掛ける。10本近くのショートフィルムを送り出した後、いよいよ2008年に初の長編作品『ルドandクルシ』を監督するチャンスが回ってくる。「ずっと兄の現場に立ち合って“用意カット!”という言葉を言ってみたかった」と当時を振り返るカルロス。大好きだったサッカーを題材にした映画を作りたかった彼は脚本を何度も書き直して、ギレルモ・デルトロ、アレハンドロ・ゴンザレス、そして兄アルフォンソに見せたという。その熱意が実って、3人の監督たちは、この映画のために制作会社を立ち上げ実現する運びになったのである。 カルロスが監督した3作目のショートフィルム『新婚の夜』は、脚本を手掛けた長編『最も危険な愛し方』の原型とも思える。ホテルの一室で愛し合う男女が熱く繰り広げる濃厚なベッドシーンは、その後に用意されているオチへの重要な伏線(実はその二人はホテルのスタッフで客がいない間に部屋を使っていた)となっていた。カルロス監督(脚本も含めて)の作品はセックスが重要なパートを占めている事が、以前、批評家から「セックス描写が多過ぎて、それしか頭にないのか?」という批判を受けた事があったという。しかし、カルロス監督はその批判を誉め言葉だと最大の皮肉を持って語る。「人間の営みにおいてセックスは素晴らしく人によって全く違うものだ。第一、僕らがここに存在するのは両親がセックスをしてくれたからじゃないか」というカルロス監督。確かに『天国の口 終わりの楽園』でもヤル事しか頭にない二人の悪ガキが美しい人妻との旅行を通じて自分本位の未熟なセックステクニックを人妻に揶揄され、自分自身の幼さを痛感するといった重要なパートを担っていた。カルロスは、作品に出てくる登場人物たちの本性を剥き出しにする技法としてセックスという手段を用いているのだ。
最後に、日本の皆さんに向けて…と、以下のメッセージでインタビューを締めくくった。「日本の人々や文化は小さい時から大好きなので、来日出来て本当に嬉しく思っています。そして村上春樹さんの映画化した作品を気にいっていただけたらと心から願っています」 取材:平成22年10月31日(日)“ショートショート フィルムフェスティバル & アジア「フォーカス・オン・アジア」”ワークショップ会場 東京都写真美術館にて
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