台風が関東をかすめた翌日、平成22年10月31日。“ショートショート フィルムフェスティバル & アジア”の特別イベントとして、東京都写真美術館の映像ホールにて“ショートショート アジア実行委員会”主催による“「FOCUS ON ASIA」&ワークショップ”が開催。メキシコの映画界で活躍するカルロス・キュアロン監督とプロデューサーのルーカス・アコスキンによるワークショップには多くの受講者が会場を埋め尽くした。「皆さんとインタラクティブに話しをしたい。だから、どんな事でも良いからドンドン質問してもらいたい」と開始早々カルロス監督は口を開いた。そして、出来るだけ日本の皆さんと対話をしたいというのがカルロス監督とアコスキン氏の共通の思いであると述べる。カルロス監督が今まで手掛けてきた作品から映画制作の実状について4時間たっぷりと語られ、会場から予定の終了時刻が過ぎても尽きない程、数多くの質問が寄せられた。

 カルロス監督が兄のアルフォンソと友人のギレルモ・デルトロに後押しされて自分の書きためていた脚本の映画監督をするようなったキッカケやアコスキン氏が映画をプロデュースするにあたってクリエイターに何を望むか等、綺譚なく語った。また会場からも盛んに質問が寄せられ、お二人は自分の経験から学んだ実例を挙げながら、ひとつひとつ丁寧に答えていた。特に質問が多かったのは、“自分も映画を作ろうと思っているのだが、どうすれば良いか?”という内容のもの。若きクリエイターや俳優を志している参加者に向かってカルロス監督の回答で印象に残った言葉がある。「脚本家になりたいなら何かを書きなさい、そして何でも読みなさい。監督になりたいなら何かを作りなさい、そして世界中の映画を観なさい。役者になりたいなら何か演技をしなさい。あまり考え込んではいけない。まずアクションをおこしなさい」というクリエイターを志している全ての人に向けたメッセージだ。そして、カルロス監督の映画を作る上での持論は“映画制作にルールはない”という事。「もし、壁にぶち当たったら躊躇することなく突き破ったら良いのだ」また演技に関しても、一緒に仕事をしたいと思う役者は、どんどん自分の意見やアイデアを出してくれるクリエイターの素質を持っていることだという。やはり映画は監督だけで作り出すのではなく関っている全てのスタッフと創造していく芸術だからであろう。またプロデューサーであり俳優でもあるカルロスは演技に関して「学校で学ぶのは演技のテクニックであって、日々の生活で色々なものを自分の中に取り入れるというのが大切なんだ」と語る。

 今回がインターナショナルプレミアとなる『パン屋再襲撃』の本編とカルロス監督が編集したメイキング映像を上映後、カルロス監督は兄のアルフォンソと比べて、シネマティック・グラマー(映像の文法とか表現法という意味)が決定的に不足していると分析する。そこでカルロス監督は、セリフに頼るのではなく映像で言葉(物語)を伝える表現方法に長けている兄に対して、「自分は、文学的な表現を作品に用いる事によってひと味違ったアプローチをしている」と語っている。だから『パン屋再襲撃』のようなセリフが重要な要素となっている作品に興味を抱いたのは理解出来る。特に空腹で起きた二人がキッチンで会話をしているシーンは原作では8ページに及ぶ長いシーンであり、カットする部分に苦労したという。特にジャンルにこだわっておらず、自分の作品をジャンル分けされたくないと語るカルロス監督だが、強いてジャンル付けするならば“ユーモアのセンスに溢れたドラマ”と位置付けしてもらいたいと語る。カルロス監督にとって笑いとは人間の内面を描き出す手段であり、その手法は今後も続けていくそうだ。

 最後にカルロス監督は「この世の中には二つの大きなエネルギーがある。それは“愛”と“恐怖”だ。何かモノを作る時は“恐怖”が付き物ですが絶対“恐怖”の方に行かないでください。結果が大事ではないのです。大事なのはプロセス…今を楽しんでください」そして、最後に続けた言葉が心に響く。「Take Your Action! Just Do It!」。。。

取材:平成22年10月31日(日)「東京都写真美術館」映像ホールにて




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