パン屋再襲撃
村上春樹の同名小説の映画化。
2010年 カラー ビスタサイズ 10min メキシコ、アメリカ映画
監督、脚本 カルロス・キュアロン プロデューサー ルーカス・アコスキン 原作 村上春樹
出演 キルスティン・ダンスト、ブライアン・ジェラティ、ルーカス・アコスキン
ある晩、新婚生活を送るナット(キルスティン・ダンスト)とダン(ブライアン・ジェラティ)は空腹に耐え切れず目を覚まし、お腹が空き過ぎて眠ることができなくなった。それはかつてダンが若い頃、パン屋を襲撃未遂した時の呪いであって、そんなサイアクな状況を打破するためには、もう一度パン屋を襲撃するしか方法はないと銃を持って夜の街へと飛び出した。しかし、夜中に開いているパン屋などあるはずもなく、そこに飛び込んで来たのはこうこうと明りのついたハンバーガー屋の看板だった。果たして彼らの決断によって、新婚生活はうまくいくのか…。
村上春樹の同名短編小説を『天国の口 終わりの楽園』でヴェネチア国際映画祭最優秀脚本賞を受賞し、『ルドandクルシ』で長編監督デビューしたカルロス・キュアロンが手掛けたショートフィルムだ。本作は、ほぼ原作を忠実に映画化しており、パン屋を襲撃するという荒唐無稽なストーリーはラテン系のノリにピッタリだったようだ。確かにカルロス監督が手掛けた過去の作品を見ても突飛な行動を起こす主人公が多い。夜中にお腹がすいて起きた新婚カップルが、何故パン屋を襲撃しようとしたのか?しかも、パン屋じゃなく何故ハンバーガー屋の襲撃に変わったのか?突っ込みどころ満載のキッチュな物語に思わず顔が綻んでしまう。とにかく、主人公を演じたキルスティン・ダンストが最高!バンダナで顔半分を隠してハンバーガー屋のレジに立つ姿は、ピッタリのはまり役(こんなにキュートな彼女は『チアーズ!』以来)だった。印象に残るのは、銃を向けながら金ではなくハンバーガー30個を要求するシーンでの店員とのとぼけた掛け合い。「レジの処理をするのが面倒だからから金を渡す」という店員(何と!プロデューサーのルーカス・アコスキンが演じている)に対して「それじゃ、強盗になるからダメ」と言う理屈を述べるキルスティンの淡々としたセリフ回しが面白い。幼い頃から日本のテレビアニメ“コメットさん”が大好きだったというカルロス監督だけに、非現実的な世界の中にメルヘンタッチの微笑ましさを感じさせる。原作ではハンバーガーショップはマクドナルドだったが映画では許可が降りなかったのか、それとも実名を挙げるのを配慮したのか…大型チェーンではなかったために劇中「資本主義の象徴だから…」と襲撃の理由を述べる面白みが伝わりにくくなったのが残念ではある。
テンポよく進む物語が何度観ても笑える。この映画化ならば村上春樹ファンも納得してくれるのではないだろうか。