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鳥肌実の摩訶不思議なキャラクターが全開されていた『タナカヒロシのすべて』で長篇映画デビューを飾った田中誠監督。以降、コンスタントに『雨の町』『おばちゃんチップス』『うた魂♪』『コラソンdeメロン』を発表してきた彼の最新作『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』は、言わずと知れた岩崎夏海の大ベストセラーの映画化だ。主演は先日の総選挙で見事1位に輝いた国民的アイドルグループAKBの前田敦子。話題性においても2011年上半期の注目作だけに田中監督の率直な気持ちを聞いてみると「どこの取材を受けても同じ事を聞かれるんだけど…」と首を傾げる。「正直言って、ベストセラーの映画化という大役を仰せつかったなんてこれっぽっちも考えた事無いですよ。あるのは単純に映画を撮りたいという事だけですから…。自分の作った映画をヒットさせたいと思うのは大作だろうと小さい作品だろうと変わりないです。むしろノルウェイの森みたいな動きのない、内省的な文学を映画化しろと言われた方が困る。村上春樹なら羊を巡る冒険かな」と笑う。 「今回は原作に頻出する野球、部室、病室の繰り返しをどうやって映像として成立させるか…それが商業映画を任された監督の一番の仕事でした」撮影に入る前、映画的じゃ無い部分をどうやって映画として成立させるか?について頭を悩ませていた田中監督が、まず最初に行ったのは菅原文太主演の『ダイナマイトどんどん』と、元祖マネジメント映画とも言える、ロン・ハワード監督、マイケル・キートン主演の『ガン・ホー』を観直す事だった。ダメダメ野球部が主人公みなみの“マネジメント”によって成長していくというストーリーだけを見て本作をスポコンものと位置付けている評論家も多いが、田中監督は、そう考えていたわけではなかった。「このふたつを合体させたような映画を作らなくちゃならないんですからスポコンになりようがないんです(笑)。まずはスポコンものからもっとも離れたところからスタートしよう、どこまで映画として荒唐無稽でいられるかを考えました」実は田中監督が本作のオファーを受けて一番最初に思い浮かんだのは、前田敦子がヘルメットを被ってセーラー服姿でバッターボックスに立つという画だった。「ところが脚本の第1稿では原作に無いから…という理由で削られていたんです。映画は一人で作るものではありませんからそこは戦いなんです」最終的には田中監督の主張が通り、みなみが初めて野球部員たちと顔を合わせるシーンで見事に復活。実際、前半で一番の盛り上がりを見せるカッコイイシーンに仕上がっていた。「映画の嘘を見透かされてもやった方がイイ事もある。そういう時に映像の飛躍があるんです。他にも例えばこの映画、野球映画のくせに炎天下より夕景ばっかりなんです(笑)」と語る田中監督はそれを「観客に向けたビーンボール」と表現していた。「当てちゃったら何だコレって言われるけど、ギリギリの球を投げないと今度は平凡でつまらないと言われる。だからセーラー服のままバッターボックスに立つとか、決勝戦は朝始まったはずなのに終わりはいつのまにか夕景だとか、どこまで嘘をつくかを攻めていくのが面白いんです」確かに田中監督の言う通りで今まで映画の歴史において面白くするために数多くの嘘が容認(黙認?)されてきた。だからこそいくつもの感動シーンが生まれたのである。 だからと言って田中監督は、原作を無視して何でもかんでも映像に走るという事は決してしない。「原作を脚色する場合は原作をリスペクトする事(言い換えれば理解する事?)から始めます。自分勝手に原作をダシにして映画を作るのだけはしたくないんです」実は4作目の『うた魂♪』の時、脚本を大きく変えて『スウィングガールズ』みたいなダメなチームがチカラを合わせて成長する話にしてはどうか?という意見も出ていたという。「当時流行っていた型にハメようとしていたんでしょうね。でもそれじゃ原作とは全く違うものになってしまう。原作をリスペクトし、原作のおもしろさを拡大する方向で直していくべきだと思います」田中監督は、オリジナル脚本にあった多すぎるセリフを可能な限り削り取って、その分コーラスシーンを倍近く増やした。実際、夏帆が演じるソプラノリーダーのかすみがゴリ演じる他校の合唱部部長から本気になる事の大切さを諭されるシーンではセリフを3分の1に削っている。「大切なのはセリフそのものよりもセリフの背後にあるニュアンスであり、登場人物の心理がどう伝わるかなんです。作者には当初だいぶ反対されましたけど最後はわかってもらえました」確かに活字と違い映画は映像という表現手法で形成されているものだから最適なバランスを見いだす事も重要なのだ。 |
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