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過去最多4200本の作品がエントリーされた今年のショートショート フィルムフェスティバル & アジア(以降SSFF & ASIA)コンペティション部門。今回、審査員を務めた犬童一心監督もまたCMディレクターから映画の世界に入るキッカケとなったのは、1993年に発表した短編映画『金魚の一生』であった。「学生の頃は別にショートフィルムを撮ろうと意識していたわけではなく、自分のチカラが及ぶ範囲で作れるのは、ショートフィルムしか無かった。でもCMディレクターとしてプロの仕事をしてから撮った『金魚の一生』は意識的にショートフィルムにした映画でしたね」と語る犬童監督だが、実は、意外な事に当初は映画監督になろうなんて、これぽっちも思っていなかったという。「今の会社(ADKアーツ)で、CMディレクターになったばかりの頃。少し自由になる時間が増えたので、久しぶりに自分の好きな作品を作ってみようかなと思っただけなんですよね」そこで犬童監督は、当時アニメーションの仕事を始めたばかりのアニメーターやまむら浩二氏に声を掛けて、イラストと実写(動画とスチール)を合成したデスクトップムービーの走りと言える本作を完成させた。「せっかく作るんだったら実験したかったんですよね」と振り返る犬童監督。今では当たり前のデスクトップムービーだが、当時はデジタルが出始めの頃。やまむら氏と試行錯誤しながら楽しんで作り上げた本作は、遊び心と探究心に満ち溢れた愛すべき一編となっている。「ショートフィルムって、映像作りで実験したいという欲求には叶うんですよね。長編は無理でも自分の持てるチカラの範囲で作れるのがショートフィルムの良さだと思うのです」その結果、『金魚の一生』はキリンコンテンポラリーアワード93最優秀作品賞を受賞。その賞金で次回作『二人が喋っている』の制作に着手するのだが「それで、何となくそのまま映画の仕事をするようになり、今だに映画監督をやっている感覚がよく分からないでいるんです」と笑う。「ただ、ハッキリ言えるのは、それぞれの作品が認められた時に訪れたチャンスを逃さなかったのが今につながっている事だけは確かです」 それでは、映像クリエイターを目指す者にとって何が大切なのだろうか?ご自身の経験を基に語ってもらうと「普段から自分の能力を高める時間を取っておく事」と犬童監督は明言する。「映像の仕事をしている人であれば、例えそれが望まない仕事であったとしても自分の能力を上げるためと思って率先してやる事です。仕事以外でたくさん映画を観るなり、趣味で創作活動をするなり…とにかく普段の生活で能力を身につける事」と語る犬童監督は「能力を持っていないと何も始まらない。ただし、持っているだけではダメなんですよ」と続ける。「次に大事なのは誰と出会うかっていう事なんです」映画祭で賞を獲れば確かに、そのクリエイターは才能があるようだと判断されるのだが、残念ながらプロの世界は賞を獲っただけでは、重要な仕事を依頼するというところまでは行かないという厳しい現実があるのだ。「でも、中には“コイツに仕事をやらせてみよう”という人が現れるチャンスがあるんです」犬童監督曰く、実際に今まで新人だった犬童監督に大きな仕事を任せてくれた勇気ある人が二人いたという。その一人が伝説的なCMディレクターで映画監督でもあった故・市川準監督である。一般公開の予定が立っていなかった『二人が喋っている』を偶然観た市川監督は、作品を気に入り、それまで面識の無かった犬童監督の会社に電話を掛けてきたのだ。「こんなに良い映画は公開しなくてはダメだ。そのためには何でも協力する」と申し出た市川監督は続けて「今度、大坂で映画を撮ろうと思っているから脚本家として参加しないか?」とオファーされたというのだ。そして大切なのはココからで、それまでちゃんとした脚本を書いた事が無かった犬童監督だったが、ラジオCMを作った時の経験を活かして出来るのではないか…と思い「書けます!」と返事をした事だった。(決して根拠のないハッタリではない)犬童監督はそこで躊躇しなかったから『黄泉がえり』や『大坂物語』のチャンスを手にして現在に続いているのだと振り返る。「もし、そういう人が現れた時に、その要望に応えられる能力を持っていなければ、せっかくのチャンスがそこで終わってしまうんですね」間違ってはいけないのは、この中に運というものは、いっさい介在していないという事だ。「僕に重要な仕事を依頼してきた人は、それまで僕が作ったCMとか小さい映画を観て声を掛けてくれたのです。自分の能力を高めるために、色んな仕事をやってコツコツ作品を作り続けて行けば、それを観ている人は必ずいるんですよ。これからは僕が、市川準さんを見習って能力のある若い人に大きな仕事を任せるチャンスを作ってあげなくては…と思っています」 犬童監督は今後のショートフィルムの可能性についてフランシス・フォード・コッポラが以前、お忍びで来日された際に語っていた言葉を引用する。「ちょうど『地獄の黙示録』を撮影していた頃で、“近い将来、炎天下でヘリコプターが来るのを待つなんて事が無くなるだろう”と言っていたんですよ。つまり、テクノロジーが進めばスタジオの中で全ての映画が撮れるようになる…と、当時から見抜いていたんですね」それはプロの世界だけに止まらず、高度なカメラを一般の人々の手に渡るようになり、それで作られた映画を世界中の人々が目にする事になるだろうとさえ予測していたというのだ。そして、正にコッポラが言う通り、今では一般家庭のお母さんでさえちょっとした知識でホームビデオで撮影した映像を編集まで出来てしまう時代になってしまった。それでは、プロとアマチュアの境が無くなりつつある現代で、映画監督や映像クリエイターを志す者たちに何が求められるのだろうか?「ひとつは視点ですね」と犬童監督は静かに口を開いた。「今回、映画祭の審査をやらせてもらい、たくさんのショートフィルムを観ました。既にここに残っている作品は技術的にはレベルの高い作品ばかりなのですが、その中でも心に残るのは他の人と違った視点を持っている作品でした」結局は、いくらテクノロジーが進み高度な技術を手に入れても最終的に“面白い作品”となるには、根幹のアナログな部分…作り手の独特な視点が重要なポイントを占めているようだ。いや、もっと言えば、どこかが突出しているのではなく、「技術(能力)」・「能力を伴ったハッタリ」・「変わった視点」がクリエイターにとって不可欠なものなのだ。今回の“SSFF & ASIA”で犬童監督の心に残った作品は3本。そのいずれも一定のクオリティーを確保しながらも、そこに甘んじるのではなく更に一歩、独自の視点を加えた事で他の作品から抜きん出たものになっていたという。そしてグランプリを獲った後に訪れるかもしれないチャンスをどのように活かすか…実は、勝負はここからなのだ。 取材:平成23年6月18日(土)ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2011会場 表参道ヒルズ スペース オーにて
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