出会いは今から10年ほど前…5回目を迎えた『ショートショートフィルムフェスティバル & アジア 2003』からだ。その頃はイチ観客として、ショートフィルムだけで構成された映画祭というのが成り立つのか?…それとオシャレな原宿で映画祭?という、どう考えてもミスマッチではないか?と、興味本位が先に立ち、上映作品の内容は二の次で会場に足を運んだのがキッカケだ。そんなワケだから記念すべき最初に観た作品のタイトルは見事に覚えておらず…ハッキリしているのは、それまで短編映画=学生の自主映画という概念がイッペンに吹っ飛んでしまったという事だ。それと、前年までは映画祭名が『アメリカン・ショートショートフィルムフェスティバル』だったのがアジア地域のショートフィルムにも門戸を広げた…というのも映画祭参加への動機であったのも理由のひとつ。早い話しが初参加した瞬間からショートフィルムの面白さに取り憑かれたという事である。確か、ノンダイアログ(セリフのない)ショートショートとかあったりして…オシャレだったなぁ。

 そして親しくお付合いさせていただくようになったのが横浜にショートフィルム専門のミニシアター『ブリリア ショートショート シアター』が設立された6年前から。我が"港町キネマ通り"で映画館の紹介をして以来、半ば強引に一人映画祭応援団として、映画祭だけではなく様々なイベントにもお誘いいただいているありがたい関係。そんなこんなで、10年間たくさんのショートフィルムを拝見してきて確かな事は、今や若手クリエイターの登竜門とは呼べない、ひとつのジャンルとして確立されたという事。回を追うごとにクオリティが年々上がっており、中には、う〜んという作品もあるにはあるが、それでもキラリと光るモノを持っていたりして、全くお話にならないという作品は皆無と言って良いだろう。それどころか、ヘタな長編映画よりも俄然面白い作品も多く、何より作り手の映画愛がビンビン伝わってくるのが大きな魅力でもある。

 若い観客(特に映画学校の学生)が多いのが本映画祭の特長だが、何と今年は、全てのプログラムが入場無料。もっと気軽にショートフィルムに親しんでもらいたい…という思いを感じた。かく言う筆者だが、毎年、全作品観てやるぞ!と意気込むも一度も実現したためしはなく…せめて今年は「アジア インターナショナル部門」と「ジャパン部門」だけでも全部観よう!と、パンフレットのタイムテーブルと自分の仕事を見比べながら、いざ!原宿へ!横浜へ!両方合わせて31作品…何とかイケそうな気がするのだが、いつも何らかの外敵要因(ほぼ仕事だが)に阻まれ、数作品はこぼれてしまうのが悔しい。そこに持ってきて「インターナショナル部門」37作品に「ミュージックShort部門」41作品…エトセトラ。やっぱり休みを取らなきゃダメか…と思いつつも、この"挑戦"が楽しかったりする。

 若手クリエイターから、えっ?こんな方が?という大御所までもがエントリーする作品から伝わってくる映画にかける情熱に思わずコチラもつられて興奮ぎみ。今年グランプリを獲得した『ホールインワンを言わない女』から伝わるのは、開発という名の下に国民を苦しめる自国への怒り。昨年、グランプリを受賞した『人間の尊厳』や、優秀賞を獲得したイランの『私の街』もそうだったが、「アイデアは怒りから浮かんでくるのではないか?」とアワードセレモニーで審査委員長を務めた石坂浩二氏の総評から出たお言葉に、『第三の男』でオーソン・ウェルズが言ったセリフを思い出す。


 と、言いつつも筆者が好きなのは、もう少し肩の力が抜けたユル〜イ作品。とにもかくにも、今回のジャパン部門…例年に比べて秀作・力作が多かったように筆者は捉えるのだが。中でもイチオシは、桃太郎の自主映画を制作しているある学生サークルの撮影現場を描いたアナーキーなコメディ『ネオ桃太郎』だ。短い時間の中で様々な伏線を張って、矢継ぎ早に繰り出される登場人物たちの好き勝手な言動が実に面白い。仲間割れをして遅々として進まないまま迎えるエンディング(粗雑なCGも素晴らしい)が実にお見事。舞台を中心に活動している小田学監督のセンスの良さが光る逸品だった。

 もうひとつ…毎朝出かける時にグラビアアイドルのポスターに"行ってきます"と声をかけていく昔ヤクザだった男のストイックな思いを描いた藤井悠輔監督の『はちきれそうだ』のセンスの良さ。偶然、ロケしているアイドルに出会った男が言うひとことと、アイドルから返ってきた言葉…このラストにお腹を抱えて笑ってしまった。たまには、こうしたコメディにもグランプリをあげてほしいと思うのだがなぁ。

 そしてもうひとつ、嬉しいのは先日行われたカンヌ国際映画祭のシネフォンダクション部門に入選を果たした桃井かおりさん主演の『オー・ルーシー!』が特別上映作品として観れた事だ。ひょんな事から英会話教室に通うことになった主人公が授業中ルーシーと呼ばれ金髪のカツラを被る内に何かが変わり始める刹那さが漂うシニカルなヒューマンドラマだった。

 毎年新しいプログラムを設立して拡張してきた今までの映画祭だが、今年はプログラムをギュっと絞り込んで、内容の成熟化に注力されていたように思える。その姿勢はオープニングセレモニーとアワードセレモニーにも顕著に表れており、まずオープニングセレモニーでLEXUSとワインステインカンパニーが提携して制作した2本のショートフィルムのワールドプレミアの後に、発表された両社による映像作家を育成するサポート体制。ここから今回の映画祭は単なる賑やかなイベントではない、クリエイターの育成に懸けた気合い(…と、いうか覚悟のような)を感じた。逆に、アワードセレモニーは、いつもの神宮会館より渋谷会館に場所を移して、純粋な授賞式展に主軸を置かれていた事が良かった。そこで語られる受賞監督のコメントは心に響くものがあり、話題賞を受賞した市原隼人氏(今回は監督として)が、映画祭に参加できた事の感謝と、全てのクリエイターやスタッフに敬意をはらうと述べた後、今回の映画製作を振り返って「多くの課題が残りました。と、同時に得たものも大きかった」そして俳優はあくまでも裏方でメインを歩くのはお客様という言葉に感動した。

 さて、取材中にペラペラと今年の公式パンフレットをめくっていて気がついたのだが、『ショートショートフィルムフェスティバル』としては、今年で16周年を迎えたわけだが、代表である別所哲也氏のコメントの中で『ショートショートフィルムフェスティバル & アジア』となって11年目…とカウントされているのが印象に残った。そうか!重要なのは年数の長さではない、アジアの国際映画祭である事なのだ。2003年に『ショートショートフィルムフェスティバル & アジア』として再スタートを切り、アジア各国から優れたショートフィルムが日本に集結する映画祭となって11歳。子供で言えば、何でも吸収する育ちざかりの成長期…ここ数年は、様々な部門を立ち上げてスクスクと伸びてきた感がある。その中から生まれた人気コンテンツとしてショートフィルムを牽引して行く「ミュージックShort」部門も今や映画祭の花形だ。だからこそ、その年その年の審査員から手厳しい指摘も出てくるワケで、4年前「CGクリエイト」部門の押井守監督の檄も、昨年の原田眞人監督のお言葉も愛情があればこそ。決して馴れ合いではないガチで優秀なクリエイターを育てようという思いが嬉しいではないか。今回、ネスレアミューズで公開される新作『あのときのFlavor...』の完成披露で壇上に上がったYuki Saito監督が、"ジャパン部門の作品のレベルが著しく低い"と言われた時の悔しさを糧にした…と述べていたのが印象に残った。こうした悔しさや喜びをバネに、また来年も素晴らしい作品がスクリーンに映し出される事を期待する。

【オフィシャルサイト】http://www.shortshorts.org



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