ここ数年の『ショートショートフィルムフェスティバル』で感じるのは、日本のミュージックShortの物語性や表現力が格段に向上している事だ。今回も技術だけを見れば海外の作品でスゴイのがたくさんあるが、物語として捉えた場合、ダントツに日本のミュージックShortの方が成熟している。思い返せば、5年前…ミュージックShortと言えば先行していた韓国がオピニオンリーダーとして群を抜いていた。人気俳優が破格のギャラで出演する贅沢な作品に羨ましく思ったものだ。その韓国も俳優のギャラが高くなった事から最近は失速ぎみなのが淋しいが…。そんな中、日本ではコツコツと地道に作り続けた映像クリエイターと楽曲を提供するアーチストの高い志しがミュージックShortの文化を育て上げてきたのだ。今年はUULAとのコラボによって、今まで新曲を中心としていたミュージックShortも、あのアーチストのあの名曲を使った…という夢のような作品が登場。このファン感涙の出来事に、例年にも増して秀作のオンパレードとなった。

 中でも印象に残った作品がいくつもあった。1本は、昨年のグランプリ受賞者である門馬直人監督が手掛けた、不治の病に侵された女性が最後の時を愛する人と過ごす一日を切り取った『君を想う』は浜崎あゆみの名曲「LOVE 〜 Destiny 〜」をモチーフとした感動作。絶妙なタイミングで流れる主題歌につい涙腺が緩む。そして、もう1本は、2011年の映画祭でイケメン韓流スターを一日追い掛ける日本の女性ファンと、それに付き合わされるタクシー運転手の交流を描いた『スーパースター』という秀作を手掛けた萩原健太郎監督の『FAKE』。広瀬アリス主演による本作は、今話題のレンタル恋人側から描いたラブストーリーだ。彼女が演じる売れっ子のレンタル恋人だが自分の私生活では彼氏がおらず孤独な日々を送っている。そんな悶々とした日々を送る彼女の前に現われた一人のお客さん…。新しい人生を歩もうとした矢先に突きつけられる現実が切ない。

 いやいや、それだけではない。東日本大震災で失った恋人への思いを断ち切れずにいる主人公の心の再生を描く、種ともこの「家路」を使った大槻真子監督作品『憶う』で表現される心象風景の豊かさに脱帽。そしてもうひとつ心に残るのが、母親代わりとして妹の面倒を見てきた姉が、妹の結婚に戸惑う姿を描く野本梢監督作品『青三十二才ー象のいた時間』だ。特に後者は、使用している渡邊奈央の楽曲「祈り」が流れるタイミングが絶妙で、ミュージックShortの手法として、かなりの変化球なのがイイ。今回は特に女性監督作品に秀作が目立っており、今後も期待大だ。


 こうした抒情的な作品があるかと思えば、遂にこの分野にもホラー映画が登場したのには驚かされた。しかもこれがかなり怖い。諸江亮監督が摩天楼オペラというヴィジュアル系バンドの「落とし穴の底はこんな世界」をモチーフに人間の二面性が持つ恐怖の構造を見事に具現化しており、悪夢のようなエンディングに思わず上手い!とヒザを叩いてしまった。またグランプリを受賞したアベラヒデノブ監督の『めちくちゃなステップで』の音楽が重犯罪となった近未来のアヴァンギャルドな物語とクラムボンの「NOW!!! (2010 ver.)」が奇妙な化学融合を引き起こし…正に音楽と映像がシンクロナイズされているとはこの事。まぁ、とにかく、今年のミュージックShortは奥行きがあった。

 思えば、日本はカラオケの普及と共に楽曲に合った物語性のある映像文化が独自に発展してきた国なのだった。それはCDやDVDの特典映像として更なる進化を遂げて、映画として確立したのは自然な流れだったのかも知れない。まだまだネタとジャンルは豊富にありそうだ。

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